白銀の刃ギルドオーナー、レナードとの遭遇
俺達は王都を散策していた。その道中での事だった。
「ん? ……君は」
「レナードさん、どうかしたんですか? んっ、こいつは」
「け、剣聖ルナシス様じゃないですかっ!!」
俺達は冒険者風の男達と遭遇した。その中央の男は見た事があった。銀髪の美青年だ。あまりに綺麗な顔立ちゆえに女性と言われても違和感がない。
レナード・レオナール。ギルド『白銀の刃』のギルドオーナー。見た目は御覧の通り美青年。
しかしその実力は本物、聖騎士としての実力は世界屈指であり、知略と策謀に長け、そしてカリスマ性故に彼を崇拝しているギルド員は多い。
そういう話を聞いていた。剣聖ルナシスと並んでこの界隈の有名人である。だから俺もよく目にしていたし、耳にしていた。
その上、『白銀の刃』はトップギルドとなった『栄光の光』のライバルギルドだったのだ。
『栄光の光』に所属していた俺はよく、『白銀の刃』の活躍や脅威は耳にしていたし。その注目は当然のように、ギルドの顔であるギルドオーナー、レナードに集まっていた。
だが、それは俺から見た相手の話だ。相手から見てそうとは限らない。というよりはポイントギフターとして、あまり前線に出てこなかった俺の事をレナードが認識していたか、どうかすら疑問だ。
前線で闘うクロードやドロシー、それからボブソンの方が目立つし、視線が集まるのも必然だった。
「そうではない。確かに隣にいる剣聖ルナシス様は驚異的な剣の技量を持っている。それは疑いようもない。隣にいる魔導士の少女――ルナシス様の妹君か。彼女だってそうだ。だが、僕は何よりも真ん中にいるフィルド君から強い気を感じている」
「フィルドって、あのポイントギフターの!?」
「後ろにいて、闘いもしない奴だったじゃねぇですか。存在感の欠片もない」
「わからない。だが、彼から強い気を感じているのは確かだ。もしかしたらクロード達が弱くなった事と関係があるのかもしれない」
流石は聡明なレナードだ。物事の核心をついてきた。
「俺の事を知っていたんですか? レナードさん」
「ああ。気になっていたライバルの事はつぶさにチェックしていたよ。そして僕が考えるに『栄光の光』が急成長してきたその影にはポイントギフターである君にあるのではないか、そう考えていたんだよ」
流石だった。『白銀の刃』ギルドオーナーレナード。『栄光の光』が落ちぶれ、なくなった今『白銀の刃』は紛れもなく国内トップのギルドである。そのトップギルドのオーナーであるレナード。
俺のポイントギフターとしての能力に甘えていたクロードなんかとは違って、レナードの実力は本物だった。その眼力には感服せざるを得ない。
「あの『白銀の刃』のギルドオーナーであるレナード様にお世辞を言って頂けるとは思ってみなかった」
「お世辞? お世辞なものか。僕は真実を見抜いているだけだよ」
「ありがとうございます。それで俺に何か用ですか?」
「別に、君に用があって僕たちもここら辺を歩いていたわけじゃないけどね。けど、君に会ったからにはそうもいかないよ」
「そうもいかない」
「時間はあるかい? フィルド君」
「ま、まあ、ありますけど」
俺はルナシスとイルミナを伺う。
「私は別に構わないです。フィルド様のご都合で」
「私も同じです」
「僕と勝負をしようじゃないか」
「しょ、勝負!?」
「な、なにを言っているのですか!! レナード様!! これから我々は他ギルドとの協議が!!」
「そんなものキャンセルだ。僕にとってこの案件の方がよっぽど重要なんだよ」
「し、しかし!」
「いいから、僕の言う通りにしろ」
「わ、わかりました」
立場上いう事を聞くしかないギルド員は従うより他にない。
「先方には我々だけで話を通しておきます」
「ああ。そうしてくれ」
ギルド員達とレナードは分かれる。
「さて、フィルド君、ひとつ僕と勝負といこうじゃないか?」
「しょ、勝負!?」
「ああ。勝負だ」
「なんでそんな事しなきゃならないんですか?」
いくら有名人とはいえ、殆ど初対面の人間と闘う理由なんてない。俺はそんなに戦闘狂ではないのだ。
「理由はひとつ。武人としての興味だ。僕の強さがどこにあるのかという興味は尽きない。試してみたいんだよ。強者を相手に」
レナードは笑みを浮かべる。微笑ではあるが、あまり感情を見せそうにもない彼には珍しく見せるものでもあった。
「それともうひとつ、君の強さに興味があるんだ」
「それは全部、レナードさんの都合じゃないですか」
俺は溜息交じりにいう。
「無論、それはわかっている。これは僕の我儘だ。だからその我儘を釣り合わせる為の対価を用意しよう」
レナードはつけているネックレスを外す。男なのにネックレスをつけている事に違和感を与えてこなかった。
普通女々しいとか感じそうではあるが、やはり女性的美しさを持っているからだろう。
「僕に勝った場合、これをあげよう」
「なんですか? そのネックレスは?」
「ドワーフ製のネックレス。アクセサリ、破邪のネックレスだ」
「……破邪のネックレス!?」
状態異常の殆どを無効化するアクセサリだ。だが、ドワーフ製の珍しい品であり、その価格は破格である。
そうだな、大体ルナシスの持っているオリハルコンブレイドと同程度だろう。家が建つ程の金額だ。
「僕に勝てたら、これをあげよう。どうだい? 少しはやる気が出たんじゃないか?」
レナードは笑みを浮かべる。流石はトップギルドのオーナーだ。かなり金がある様子だった。
そんな貴重な品をぽんと勝負に乗せられるなんて。あるいは自分の実力に絶対的自信があるのか。両方ではあるだろうが。
「いいかな? ルナシス、イルミナ、少しばかり時間を貰っても」
俺は二人の意見を伺う。
「構いません。それにフィルド様が負けるはずがありません。例えあの白銀の刃のギルドオーナーであるレナード殿が相手でもです。それに、あんな貴重なアイテムをただでくれようとしているのです。貰わないのももったいないではないですか」
「私もそう思います。フィルド様が負けるはずがありません」
「くっはっはっは! 随分と信頼されているんだね。僕が相手でもその信頼、僅かの揺らぎすら見せそうにないじゃないか。いいよ。ますます気に入った。是非君と手合わせしてみたい」
「いいでしょう。『白銀の刃』ギルド長レナード・レオナール。あなたとの仕合お受けします」
「そうこなくっちゃな」
「どこでやるのですか?」
「この近くに広い公園がある。特別障害物もないし、人気もない公園だ。そこでやろうじゃないか」
「ええ」
俺達は広い公園へと移動していく。