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【追放者サイド】ギルド解体、分裂する役員、そして凶行へ

 ギルド『栄光の光』は物凄い勢いで弱小ギルドからトップギルドへ成り上がって行った。そして、その成り上がったスピードの何倍も早く、落ちぶれて行ったのである。


 その速さは高所から飛び降りるがごとしであった。転落というより、もはや墜落である。


 ギルドの資金が底をついた『栄光の光』はその後資金を用意できず、ギルド税の滞納、その他ギルドへの不払いなどの結果。起こった結末はひとつだけである。


 それはギルドにとっての終焉である。国からのギルド解体命令だ。ギルドを強制的に解体し、持っている資産を精算する、その結果不良債権を少しでも解決しようというものだ。


 ギルド解体。すなわち、それは運営しているギルドの終了である。


 ◇


 ギルドの解体が決まった日、クロード及び役員の3名は集まっていた。


「ついにこの時が来ましたね」


 カールは溜息交じりに言う。


「ああ」


 ボブソンもそうだ。


「ギルド、『栄光の光』もついに終わりね」


 ドロシーも溜息交じりに告げる。


「上手くいっている時は、この流れが永遠に続くと思っていました。まさか僕たちのギルド『栄光の光』がこんな惨めな結末を迎えるとは。絶好調の時の僕たちに言っても、大笑いして聞き入れなかった事でしょうね」


 眼鏡をくいっ、とあげつつ、カールは語る。


「そうね」


「そうだな」


 ドロシーとボブソンは頷く。


「お、おわりじゃねぇ! これで!! 俺達『栄光の光』は終わってねぇ! これからまだやり直せる!!!」


 既に観念している役員三人に対して、クロードはまだ『栄光の光』に執着していた。その執着っぷりは少々異常であった。


「もう諦めなさいよ。クロード」


 ドロシーは諫めるように告げる。


「ど、どうするんだよ? お前ら、『栄光の光』をやめて、それで一体、何をするつもりなんだ?」


「僕はヒーリングマッサージ店を営もうと思います。僕の回復魔術(ヒーリング)ではもう、怪我人の治療はできません。ですが、肩こりや腰痛くらいなら癒せると思うんです。僕の回復魔術を使いながらマッサージすれば、結構、効果が出ると思うんですよ」


カールは自分の今後の身の振り方を語り始めた。


「幸い役員の時頂いた報酬がそれなりの金額残っています。王都で個人店を営むくらいはできると思うんです。もうモンスターと向き合うのはこりごりです。今の僕の回復魔術(ヒーリング)ではダメージを回復できずに、死人が出てしまうほどですから」


「そ、それでいいのかよ!!」


「僕が考えた結論です。ボブソンはどうするんですか?」


「俺はだな。田舎のママのところに帰ろうと思ってるんだ」


「田舎に?」


「んだ。田舎にママ一人残して都会の方出てきたから、俺のママも心配してる。それで手紙でママに近況を話したんだ。それで仕事が上手く行ってないって説明したら幸い、『帰ってこい』って言ってくれたんだ」


 ボブソンは達観した目で語り始める。


「俺もカールと同じでそれなりに蓄えがある。しばらくは働かずにママと一緒にいたいんだ。ママはそんなに身体が強くないからな。しばらくは蓄えで生活して、それが尽きたら近所の農業を手伝うよ。鍬を振るう第二の人生も悪くないかもな」


「いいのかよそれで!! そんな夢のねぇ単調な日常で!! 俺達夢語ってたじゃねぇかよ! 『栄光の光』をここら辺だけじゃねぇ! 世界中に名が轟くくらいの世界トップのギルドにしようって!!」


「それはもう無理だ。当時は有頂天だったからそう思えたんだ。己惚れてたんだ。悲しいけどこれが現実だ」


「僕もそう思います。悲しいですが、これが僕たちの現実なんです」


「そ、そうかよ!! ドロシー、お前はどうするんだ?」


「私はもう魔導士を綺麗さっぱりやめるわ。こんな効果のない魔法、需要がないもの」


「や、やめて、どうするんだよ?」


「適当な男でもひっかけるわ。それなりに金を持っていそうな。どこかの貴族か富豪でも。ほら、私って魔法は使えなくても美人じゃない? それにプロポーションもいいし。この容姿と身体つかえば、決して難しくはないと思うの」


「ドロシー!! てめぇ!!」


 実は……である。仕事(ビジネス)の都合上、表には出さなかったが、クロードとドロシーは恋人関係であった。


 業績が絶好調であったギルドの手前もあって、まだ結婚の手続き自体はしていなかったが。


 クロードからすれば仕事が落ち着いたらいつでも夫婦の関係になる事を考えていた相手なのである。


「おまえ!! 俺を捨てる気か!!」


 もはやクロードはお互いの関係を秘密にする気は毛頭なかった。だが他のギルド員はともかく、緊密な関係にあったカールとボブソンは二人の関係を察していた。


「だって、仕方ないじゃない。あんたはトップギルドの『栄光の光』のギルドオーナーで、自信に満ち溢れていて、金持ちで、剣も魔法の腕も確かで。かつてのあなたは素敵だったわ……まあ、性格は陰湿で嫌味で悪いところあったけど、それは私も同じだし。私達って、結構いいカップルだったんじゃない?」


 寂し気にドロシーは呟く。


「まあ、けどもう過去の話よ。クロード。あなたにはもうかつてあった魅力が何もない。もはやギルドオーナーですらないもの。社会的身分も金も、剣と魔法の実力も、そして自信も、何もかも失ったわ。もはやあなたに惹かれるだけの魅力がないの」


「お、俺に……もう魅力がない。何も魅力がない」


 ドロシーに核心をつかれ、クロードは茫然とした。恋人、いやもうドロシーの中では関係が終わっている事であろう。元役員にして元恋人の言葉はクロードのハートにナイフのように突き刺さった。


 残っていたプライドが粉々になる程の痛烈なダメージだ。


「そういうわけで。これでさよならよ。クロード、最後はあれだったけど、今まで楽しかったわ」


「僕も失礼させて貰います。長い間お世話になりました。皆様のこれからの幸福を祈ってます」


「俺もだ。さて、田舎に帰るかな。きっとママ泣いて喜ぶぞ」


 ボブソンは張り切る。三人の役員が別々の方向へ進もうとしていた。クロードだけが進めずにその場に立ち尽くそうとしている。


 クロードの中で何かが切れた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


「なっ! なにっ!? ぐおっ!! ……」


 クロードは持っていたダガーでボブソンの心臓を貫いた。ちなみに魔剣ウロボロスは重くて満足に振るえないので盗賊用の軽いダガーを装備するようになった。同じ程度の低レベルな冒険者が相手なら、不意打ちさえできれば今のクロードでも遅れを取らない。


「そ、そんな、馬鹿なっ……ま、まま」


 ボブソンは崩れ落ちる。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


「ひ、ひいっ! やめてください! やだぁ! うわあっ!」


 ザシュ。クロードの突きがカールの胸に刺さる。


「そ、そんな、こんなのって、あんまりですっ!!」


 どさっ、とカールは地面に崩れ落ちた。血が止まらない。今のカールの回復魔術(ヒーリング)ではとても癒せそうにない。


「カール!! ボブソン!!」


 この至近距離では不意打ちされたドロシーが一応は剣士であるクロード相手にかなうはずもない。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


「やめてっ! クロード!! あんた取り返しのつかない事に!!」


 ザシュ。


「うっ! ううっ!!」


 ダガーがドロシーの胸に突き刺さる。胸から大量の血が流れる。


「……はぁ、はぁ、はぁ。もう取り返しなんてつくわけねぇだろうが」


 クロードは吐き捨てる。


「俺についてこれねぇ、ってならお前達はもう用済みだ。あの世に行ってろよ」


「ば、馬鹿ね……クロード、あんた。こんな事して何に」


 ドロシーから反応がなくなった。気を失ったのであろう。失血死するのも時間の問題といえた。


「くっくっく!!! あっはっはっはっはっはっはっはっは!!! 俺についてこれねぇてめぇらが悪いんだからな!!!」


 身勝手で自己都合な言い訳をし、クロードは哄笑した。おびただしい鮮血と役員三人の死体が実にむごい惨状であった。


「どうしてこうなった? そうだフィルドだ!! フィルドが『栄光の光』を出て行ったせいでこんなことになったんだ!! 全部あいつのせいだ!!」


 フィルドを追放した責任など微塵も感じず、クロードはフィルドに責任転嫁していた。


「フィルド、どこにいやがるフィルド。探し出して、絶対ぶっ殺してやるからな。くっくっくっくっく、あっはっはっはっはっはっはっは!」


 クロードの次なる狂気はフィルドへと向かっていった。





タイトル変えましたけど明日の20時にエルフ国編完結です。

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