イルミナの快復
「イルミナ! イルミナはどうなったの!?」
俺とルナシスはイルミナのいる部屋に飛び込んでいく。ノックもなしで。そこにはイルミナと看病をしている王妃の姿があった。
「お姉様……それからフィルド様」
「良かった! 良かったわね! イルミナ、本当に良かった!」
イルミナに泣きついている王妃を目にして、俺は安堵する。その様子だけでイルミナが快復したのだと理解できた。
「私……本当に治ったのですか? これは夢ではないでしょうか。私は夢を見ている、そう思った方が自然です」
イルミナの顔は、憑き物の落ちたような顔をしていた。死人のような生気のない顔をしていたその表情に生気が戻っていた。顔色が良くなっている。
「その様子、森の魔力は戻ったみたいだな」
俺は安堵の溜息を吐く。森に魔力を捧げていたイルミナ、そしてそれ故に自身の魔力が失われ、病を患っていたのだ。
しかし今はもうイルミナが森に魔力を捧げる必要はない。むしろ森から魔力が流れ込んできているまであるだろう。
森とエルフには密接な関係性があった。ありうる話だ。
もはやイルミナは森の魔力のために縛られる必要はなくなった。そして森に魔力を奪われ、病を患う事もなくなったのだ。
「信じられません。これは夢ではないでしょうか? とても現実とは思えません」
「何を言っているのよ、イルミナ!」
ルナシスも涙を流した。妹の快復を普通の姉ならば喜ばないはずがない。母である王妃と同じく、イルミナに抱き着いた。
「良かったな。イルミナ」
俺も思わず涙が出そうであった。だけど俺は男だ。堪える。だけど堪えきれずに少しばかり涙がこぼれたかもしれない。一粒の涙が頬を伝うのを感じた。
「本当に私、治ったのですね? では森の魔力の問題は、フィルド様が解決されたという事ですか!?」
「俺だけじゃない。そこにいるルナシス、それからエルフ騎士団の活躍もあったんだ」
「ありがとうございます! フィルド様! それからお姉様!」
イルミナは涙を流しながら母――それから姉と喜び合った。今は家族水入らずの時間を過ごす時だ。そのうちに国王も飛んできた。
「イルミナ! イルミナはどうなっている!?」
国王は部屋に飛び込んできた。
「お父様、もう私は大丈夫です。今まで感じていた苦しさがなくなり、かつてより元気になった程です」
イルミナは笑顔を浮かべて告げる。
「そ、そうか! よかったなっ! よかったなっ! イルミナ!」
「はい!」
「本当によかったぞっ! わしはもうどうなる事かとっ!」
国王もイルミナに抱き着く。両親、そして姉であるルナシスはイルミナの快復を涙を流し喜んでいた。
「これもフィルド殿! 貴殿のおかげだ!」
「本当です! フィルド様! 最初にお会いした時、きつい事を言ってしまって申し訳ありません、あなたがエルフ国の危機を救い、イルミナの命を救ってくれる、我々エルフの救世主だとは思いませんでした」
王妃も涙を流しながら俺に感謝の言葉を述べた。
「ありがとうございます……流石は私の尊敬しているお方、フィルド様です。フィルド様ならエルフ国の窮地を救い、そしてイルミナの命も救ってくれると、そう信じておりました」
ルナシスは涙を流していた。
「ありがとうございます、フィルド様。私の命を救ってくれたお方、そしてエルフ国の危機を救ってくれたお方。もはやどうやって恩を返していけば想像する事すらできません。一生をかけてでもこの御恩、少しずつ返していけたらと思います」
エルフは長寿の生き物だ。その一生をかけて返していくという言葉はあまりに重かった。
というか、絶対人間の俺は途中で死んでるだろ。苦笑するより他にない。
「大げさだよ。イルミナ」
「大げさなわけがありますか! フィルド様はそれだけの事をしたのです! フィルド様は私達エルフの救世主! そして私の命を救ってくださった恩人です! フィルド様、私にできる事ならなんなりと申してくださいませ」
イルミナはそう訴えてくる。
「そうだ。フィルド殿。貴殿はエルフ国の救世主、そしてイルミナの命の恩人だ。後日盛大なパーティーを催そう! 国をあげた盛大な祝いの宴だ!」
「ええ! そうしましょう! その日はもう国民は一日中お祝いよ!」
「ああ! その日は祝日としようぞ! エルフ国が救われた日として、代々受け継いでいこう!」
国王と王妃は大はしゃぎだった。
「フィルド殿、どうかそのパーティーに参加してはくれぬかっ!?」
「えっ!? いいんですか? 俺は人間ですよ。部外者の人間がそんなパーティーに」
「何を言っておるのだ!! 人間かそうでないかなど関係がない!! 貴殿はエルフ国を救ってくれた英雄なのだぞっ!! 英雄がいなければ始まらないではないか」
「わ、わかりました。ではお言葉に甘えて」
俺は苦笑する。ここで断るわけにもいかなかった。
「それだけでは留まらないな。英雄の持て成しとしては、何か褒美を与えなければ」
「い、いらないですよ! だって国王陛下からは聖剣エクスカリバーなんて伝説の剣を与えてくれましたもの!! これ以上はなにもっ!」
「何を言っておる!! 貴殿の活躍はそれでは足りないくらいなのだ。何か褒美を考えておこう。そうだな……宴が終わった翌日には」
「はあ……ありがとうございます」
「さあ! それでは宴の準備と参ろうか!」
「はい。あなた」
王妃が答える。二人してどこかへ向かっていった。色々と宴の指示をする事があるのだろう。
「フィルド様、部屋を用意しておきます。どうか今日はエルフ城に泊って行ってくださいませ」
イルミナにお願いをされる。
「フィルド様、どうか知らないうちにどこかへ行かれる、なんてつれない事がありませんように」
含みのある笑みでルナシスが言ってくる。
「うっ」
こいつ、俺の性格がわかっているな。こっそりと抜け出してどこかへ行くつもりだったのに。
「それではフィルド様、使用人に部屋に案内させます」
しばらくしてメイドのエルフがやってくる。これまたすごい美少女だった。エルフは美人ぞろいだな、改めて俺はそう思った。
「フィルド様、こちらにいらしてください。ご案内します。エルフ城には大浴場がありますので、どうかお入りになって汗を流してくださいませ」
使用人はそういう。
「ああ。ありがとう」
確かに汗臭くなっていたな。それだけ激しい運動をしてきたのもある。布で汗を拭いたりはしてきたが、それだけで汚れの全てが取れるわけではない。あくまでも気休め程度だ。
俺はエルフメイドに部屋に案内された後、大浴場の場所を教えて貰う。
そして早速大浴場へ向かっていった。