エルフの国へ帰る
「うっ……ううっ」
俺は一瞬気を失っていた。HPが1になった影響だろう。意識が朦朧としている。
段々と視界が戻ってきた。立ち眩みのようなものだ。そんなに重症ではない。視界が回復してきた時見えてきたのは瞳を閉じたルナシスの顔だった。
「んちゅ―――――!」
唇を近づけてくる。
「ま、待て。ルナシス。何をしようとしている?」
「フィルド様! ……目覚められたのですね。ちぇっ。もう少し眠っていられればよかったですのに」
ルナシスは舌打ちをした。
「何をしようとしていた? ルナシス」
「そ、それはですね」
ルナシスは顔を真っ赤にして言う。
「倒れたフィルド様の救命措置をしようとして人工呼吸を」
「海難事故でもないのに人工呼吸をしてどうする!」
俺は叫んだ。ちなみに海難事故の場合でも人工呼吸をする必要はなく、心臓マッサージでいいらしい。
「そ、それもそうですね」
「単に俺とキスをしたかっただけだろ」
「そ、そんな事はありません! 私はフィルド様の身を案じて人工呼吸を!」
「わかった。そういう事にしておいてやる。それよりポーションをくれ」
この戦闘のために、当然のように回復アイテムくらい持ってきていた。
「はい。どうぞ、フィルド様」
「ああ。ありがとう」
俺は青色の小瓶を受け取る。最初から人工呼吸などではなく、ポーションを渡せという話だ。HPが1になってるのが原因なのだから。
ごくごく。ポーションを飲んだら大分楽になった。HPがそれなりに回復したようだ。全快には程遠いが、それでも戦闘をしないのなら問題はない。回復程度だったら申し分のない状態になった。
俺は立ち上がる。
「もうよろしいのですか? フィルド様」
「ああ。動く分には問題はない」
見回す。自信に漲っているエルフ騎士団がいた。
「無事、ギガレックスの経験値を得る事ができたみたいですね」
「はい! こんなに力に溢れているのは初めてです!」
「我々はフィルド様に比べたら微弱な力しか持っていない
ですがかつての数倍は強くなれた気がしますよ」
戦闘の時には見られなかった自信がエルフ騎士団から見られた。
「これもフィルド殿のおかげです! フィルド殿のおかげで我々エルフ国は救われます!」
騎士団長は涙を流して礼を言ってきた。
「騎士団長、まだ最後の仕上げが残っています。それが終わるまではエルフ国を真に救えたとは言えません」
俺は告げる。経験値分配能力者として取得した経験値をエルフの民に分配する。そしてエルフの民が成長する事で森の魔力を回復させる。
この事を終えなければ真なる意味でエルフの国を救ったとはいえない。だが、大仕事がひとつ終わった事に間違いはない。ほっと一息吐くくらいは許されるはずだ。
「帰りましょうか」
ともかくエルフの国に帰らなければ始まらない。
「エルフの国へ」
「はい! フィルド様!」
ルナシスは笑顔を浮かべた。俺達は険しい帰り道ではあるが、軽い足取りで帰路につくことになる。
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もうすぐ章が変わる関係で改題しました。よろしくお願いします。