【追放者サイド】個人で低レベルクエストを請け負い、失敗する
「ど、どうするんだよ! 金だよ! 金がもうないじゃねぇか!」
ギルド『栄光の光』のギルド長であるクロードは右往左往していた。ついにギルドの資金が底をつきかけたのである。
これでは頼りにしていた優秀なギルド員はおろか、無能なギルド員の引き留めすらできない。ギルドから完全に人がいなくなってしまうのだ。
「まあ、そうよね。ギルドは今活動停止命令で完全に営業がストップしているんだもの。収入がなくなっているのに支出だけ続けば、いずれは資金がなくなるのも必然ね」
ドロシーは淡々とした様子で言う。冷静と言えば冷静だが、どこか他人事のようだ。少しずつではあるが、クロード除く役員達は『栄光の光』に見切りをつけ始めているのかもしれない。そこまでは思っていなくとも、クロードや『栄光の光』に対する熱が徐々にではあるが明確に冷めていくのを感じていた。
クロードや『栄光の光』に対する熱が徐々にではあるが明確に冷めていくのを感じていた。
それはギルドオーナーであるクロードにとってもそうであろう。だからこそクロードは焦り始める。クロードにとって『栄光の光』とはプライドを支える最後の砦なのだ。
経験値を失い、レベルが一気に下がった。今のレベルは測定していないが感覚的にレベル一桁台だと思われる。今の自分はぶっちゃけた話中途半端に何もできない雑魚である。
もはや自尊心を保つのは自身がトップギルド『栄光の光』のギルドオーナーであるという事だけだ。
だがもはや今の『栄光の光』の状況はとてもトップギルドとは言えない。国からの活動停止命令、その上に多くのギルド員の離脱。当然活動をしていないのでギルドの収入はない。
そして経験値を失い、大幅な弱体化をしたクロード含めた役員達。
一体、この惨状をどこの誰が、「栄光の光はトップギルドだ」と言ってくれるのだろうか。
どう見ても落ち目。いや、目下転落中ではないか。誰がどう見てもそういう。だが、最後の砦である『栄光の光がトップギルドである』トップギルドではなかったとしても『まだ立て直せる』その妄念はクロードを支えるアイデンティティとなっていた。
クロードはそれに囚われていたのだ。
「金がねぇなら、金を稼ぐしかねぇだろ」
「でもどうやって?」
「個人で冒険者の依頼をまた受けするんだ。ギルドとして依頼を受けるのは禁止でも個人としては禁止されていない。それに冒険者からのまた受けなら問題がない。冒険者ギルドからクエストの依頼を受けるわけじゃないからな」
「で、でも……私達にはもうレベルが」
切なそうにドロシーは告げる。その目にはかつての傲慢さや尊大さがなかった。人が調子に乗る時とは大抵力を得た時である。力を失った今、もはや消沈するより他にない。
「何とか低レベルのクエストを受け持ってクリアしていくしかねぇだろ。またやり直すんだ。レベルが低くなったらあげていけばいい。低レベルのクエストだが、こなせばレベルだってあがるはずだ。まだ俺達はやり直せる」
クロードの言葉に皆の目に僅かではあるが役員三名も希望の光が戻ってきた。
「そうですね」
「そうだな」
「レベルが低くなったのなら、また経験値を取得してやり直せばいい。その通りよ!」
勿論、経験値分配能力者であるフィルドがいない分、取得する経験値の効率としては良くないかもしれない。
その上また受けだ。また受けの場合、当然のように報酬をピンハネされる。大体相場は2割といったところか。流す方の冒険者としての時間も労力も節約でき、何もせずに報酬を2割受け取れるのだ。
これは決して悪い話ではない。そういった冒険者ギルドからクエストを受注できなくなった、ブラック冒険者(クロード達も似たようなものかもしれない)にクエストを横流しする商売も非合法ではあるが乱立していた。バレなければいいの精神だ。
一歩ずつ、それでも確実に進んでいけばまだやり直せる。
クロード含め、役員達はそう思っていた。この時はまだ。
◇
クロード達は冒険者達からまた受けしたクエストに向かう。かつての日のように。それはギルド『栄光の光』が始まったばかりの時のようだった。
四人は王都アルテアにある地下用水路に来ていた。薄暗い地下用水路にジャイアントラットが出現したらしい。ジャイアントラットの討伐は程ほどのレベルの難度のクエストだと、クロードは判断した。比較的初心者向けのクエストなのだ。
だが、それでもまだ奢りがあったのかもしれない。自身達が最強クラスの冒険者であった時の感覚が残っている。『このくらいの相手なら』その認識はもしかしたら抜けていなかったのかもしれない。
クロード達パーティーは地下用水路を徘徊する。
「どこだ? どこにいやがるんだ?」
「みて、クロード! あそこ!」
むしゃむしゃと残飯のようなものを漁っている、大きなネズミがいた。でかい。人間よりもずっと。その体長は2メートルから3メートル程だった。大男程であった。
「ひ、ひいっ! こ、こわいよおおおおおおおおおおおおお! ママ―ーーーーーーーー!」
ボブソンはかなり怖がっていた。この男は元来は臆病のチキン野郎なのだ。レベルが高い時はその強さで調子に乗っていたため、自分自身完全にその本性を忘れていたが。
「ちょっと! ボブソン! 叫ばないでよ! ジャイアントラットに気付かれるわよ」
赤い目が光る。振り返った。ジャイアントラットがクロード達を認識したようだ。一気に臨戦態勢になる。
キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
尻尾と全身の毛を逆立て、ジャイアントラットが臨戦態勢になる。
「しゃあねぇ! やるしかねぇぞ!」
「ええ!」
「ドロシー! 頼むっ!」
「ええ。炎!」
ドロシーは最下級魔法ファイアを放つ。炎がジャイアントラットを襲う。
しかしジャイアントラットは平気な顔をしていた。
「ちっ。やっぱあんま効かねぇか。ボブソン」
「あ、ああっ。わかった。今気を落ち着かせる」
「早くしろ! 相手が襲い掛かってくるぞっ!」
「ああっ! くらえええええええええええええええええええええええ!」
ジャイアントラットにボブソンはギガトンハンマーが重くて持てなくなったので、ウッドハンマーに切り替えた。そのウッドハンマーで襲い掛かる。ウッドハンマー要するに木槌の事だ。
キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「ボブソン!」
ドン!
「ぐおっ!」
ジャイアントラットのテイルアタックが炸裂した。要するに尻尾の攻撃だ。回転を利用した痛烈な一撃はボブソンをウッドハンマーごと吹き飛ばし、壁に叩きつけさせた。
「ちっ! しゃあぇね! 魔法剣! 雷」
本来なら最上級魔法である獄雷を使用したいところであるが、レベル的に無理だ。その為、最下級魔法雷で妥協し、剣に付与した。
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! くらいやがれええええええええええええええええええええええええ!
!」
かつてこんなに意気込んで敵に向かった事があるか、そう思える程気合を入れて襲い掛かる。
キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
ジャイアントラットはクロードの肩に牙を突き付ける。
「う、うわあああああああ! い、いてぇ! いてええええよおおおおおおおおお!」
やっとの事でクロードはジャイアントラットを引きはがし、離れた。
「クロードさん!」
カールは慌てて回復魔術をクロードにかける。出血は大きくはない。大ダメージとはいえなかった。だが、なかなか傷が塞がらない。
「ちっ! きかねぇ! 僅かにしか効いている感じがしねぇ!」
「な、なんですかっ! その言い方! 僕だって一生懸命やってるんですよ!」
「わかっているけどよ」
「ど、どうするのよクロード。私達、ジャイアントラット相手でも厳しいんじゃない」
このままでは……パーティーが全滅する可能性もありえた。
「しゃあねぇ。撤退だ。撤退するぞ」
「うん!」
「はい! そうですね!」
「わ、わかった! 逃げるぞ! 仕方ねぇ!」
仕方なくクロードは撤退した。ジャイアントラットはあくまで自衛をしていただけである。空腹で襲い掛かってきたというわけではない。
その為逃げだしたクロード達を追いかける事をジャイアントラットはしなかったのである。
クロード達はクエストに失敗した。そしてその後、クロード達にとっては予想だにしていない人物と、その後再会する事になるのである。ちなみにフィルドの事ではなかった。フィルドはエルフの国にいるのだから再会するはずもない。別の人物である。
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