【追放者サイド】活動停止中に資金が尽き、ギルド員が大量離職する
「くそっ!」
クロードは悪態をついて物に当たる。
「ちょっとやめなさいよっ! クロード! そんな事しても何にもならないわよっ!」
ギルド『栄光の光』は国から活動停止命令を下された。それに伴ってクエストの受注、遂行などもっぱらの営業収益を担っていた活動を強制的に止めさせられる。また人員の新規募集などの採用活動も停止させられていた。
辞めたら入ってくる者がいないのだ。必然的にギルド員はただただ減っていく事となる。
それでもクロードはギルド員をつなぎとめようと必死であった。そのため、働かなくてもギルド内にいさえすれば、それなりの給料を払わなければならない。
そして何より暇で退屈であった。クロード達は役員室でひがな一日ぼーっとする。まだ訓練をしたり、まともに経験値を稼ぎにでもいけば話が違うのだが、フィルド頼みで楽して経験値をあげた彼らに、そんな事をする甲斐性は存在していなかった。
時間が余ると人はあれこれ考える。あーでもない、こーでもない。必然的に考えはネガティブな方向へと進んでいった。
「これからどうするんだ? 俺達」
「知らないわよ。そんなのもう」
クロードの言葉にドロシーがそっぽを向いて悪態をつく。
「どうすりゃいいんだろうな」
「それを解決するのがギルド長のあんたの役割でしょうが」
頂点は維持するのが難しく、転落は早い。その事を頂点に立った時の彼等は知らなかった。有頂天になり、周りが見えていなかったのだ。
人は成功した時、なぜ成功したのかを分析する事をしない。ついつい、自分達の力だと過信してしまう。その結果、失敗や破滅への道を辿る。
失敗は成功の母。よく知られる言葉ではあるが、成功は失敗の父であるということはあまり知られていない。
「フィルドか」
自分達が成功してきた要因がこき使ってたあのポイントギフターだったのだと今更ながらに気付かされた。
しかし後悔してももう遅かった。フィルドが『栄光の光』に戻ってくる事はない。さらには頼りの綱だった剣聖ルナシスもフィルドを追って『栄光の光』を去ってしまった。
「ともかく先行き不安だな」
「そうね」
「大変です! クロードさん! ドロシーさん!」
役員のカールが飛び込んでくる。回復術をまともに使えなくなった彼はもっぱら小間使いをしている。
「なんだ?」
「活動停止中につなぎとめていた給料なんですが、そろそろ満額支払うのが難しくなってきたんです!」
「なんだと!」
「このままだと資金が尽きて、そもそも給料を払う事すら難しくなります!」
「んだよもう! ああっ! ちくしょう!」
クロードは髪を掻き毟った。本来は流れるような美しい金髪がくしゃくしゃになるが、クロードはその事を気にかけている余裕がなかった。
営業活動をしていないという事は収益がないという事である。収益がないまま支出が続いたらどうなるか。だれだって理解できるであろう。自明の理だ。
当然のように時間と共に資金は減り、最後には尽きる。
「しゃあねぇな」
「どうするんですか?」
「金がねぇんだ。払い渋るしかねぇだろ」
「支払いを待ってもらうんですか? あるいは給料をさげるんですか?」
「それ以外に何がある?」
「ですが、それをすると不満に思った離職者が出ますよ」
「仕方ねえだろ! そんなの俺だってそうなるのわかってんだよ! でも他に方法がねぇから俺はそうするしかねぇって判断したんだろ!」
クロードは八つ当たりのように叫ぶ。カールは押し黙った。クロードの言っている事も最もだった。借入金を増やし、給料の支払いを維持する事はできる。しかしその事は遅かれ早かれ自分達の首をさらに締めるだろう。
第一、活動停止命令は情報に聡い銀行などの金貸し連中が知っていないはずがない。彼らにとって情報は命だ。
そんな危ないギルドに金を貸すのか怪しかった。貸したとしても高金利の闇金のような連中だ。
なんだかんだ、ギルドは土地や建物、それから装備などの実質財産を保有している。それを換金すれば回収できなくもない。
何より人間だ。クロードは悪条件で過酷な労働を強いられるかもしれないし。最悪は臓器の摘出、魔道具の人体実験などで研究材料にされるかもしれない。
そしてドロシー、特に女は簡単に金にできる。若い女、さらには見た目が良ければ猶更だ。風俗はどこの国にも存在する。男の性欲を満たす事が女にとっての最も簡単で確実な商売だった。
そのような破局めいた想像がクロードの頭によぎる。
「しゃあねぇ、行ってくるか」
ギルドマスタークロードは、ギルド員のところへ向かった。
◇
「えっ!! 給料が払えないんですか?」
「は、払えないんじゃねぇ! ちょっと待って欲しいんだ!! 一か月、いや二カ月でいい!」
「そんなの払えないって事じゃないですか!」
「そうだそうだ! それを払えないっていうんだ!」
「大体活動停止になっているギルドが一か月二か月経って、どうなるんだ! 余計状況が悪くなるだけじゃねぇか!」
「ぐっ」
正論を言われ、クロードは口ごもる。
「わ、わかった。半分だ。半分払う。それで勘弁してくれねぇか? なっ。俺達のギルド『栄光の光』にいて、結構いい思いをしてきただろ。夢見れただろ? だから今はその代わり少しばかりの我慢を」
「ああ。やってられないわ」
「本当本当。やる事はないし。ギルド内の掃除はしまくって、もうピカピカよ」
「私も退屈で飽き飽きしてきたわ。仕事がなくて楽かと思ってたけど、何もないはないで、退屈で苦痛なものね」
「本当、本当。やる事ないって案外苦痛だよな。危険なモンスターと向き合わなくていいけど」
「やっぱり冒険者はスリルがなきゃよ。それにいつまでもこう暇してちゃ、剣の腕も錆ついてしまうぜ」
「本当、本当! モンスターを倒さなきゃ経験値も入らないし、レベルだってあがんないわよ!」
「待ってくれ! 頼む! お前らにいなくなられると困るんだよ! ここは少しばかりの我慢を」
「だから、その我慢も限界だって言ってるんですよ」
「ほんと、ほんと」
ギルド員は揃って悲鳴を上げ始めた。優秀なものほどそうだ。優秀なものにとって退屈は何よりも罰なのである。時間を無駄にしている感覚が彼等を苛む。
無論武術訓練などはできるが、実戦経験を積めない。どこか間延びしてしまうのも必然だ。
「待ってくれ! この通りだっ! 頼むっ!」
クロードは地に頭をつけて頼み込む。いわゆる土下座だ。
「俺らだって、将来に明るい展望が見れれば我慢しますよ。今は忍耐の時だって。昔は確かに明るい展望が見れたから耐えれた」
「そうそう。将来良い事も起こりそうにないのに、なんで不満な現状を我慢しなきゃいけないわけ? そんな事する奴、ただの馬鹿じゃん」
「つーわけでクロードギルド長、俺達このギルドやめさせてもらうんで」
「ええ」
優秀なギルド員は踵を返した。
「なっ! 待ってくれ! お前らっ! お前らがいないと俺達が困るんだよ!」
「それはあんたたち役員の都合でしょ」
「ねぇ。私らには関係ないわ」
「待て! 待ってくれ! 待てよ! なんだよもう、ちくしょう!」
最後には観念してクロードは近くにあったテーブルを殴った。拳が痛むのみである。
「クロードギルドオーナー。退職の書類はちゃんと提出しておくんで」
「じゃあ、事務手続きお願いしますよ」
「それじゃあ、今までお世話になりました」
ギルド員が去っていく。
「なんだよ。あんなに良い時代があったのに。皆で夢語ってたのに。生き生きしてたのに。別れ際がこんな形なんて、そんなのあんまりじゃねぇか! ちくしょう!」
クロードは再度机を殴る。
「ふああああーーーーーーーーーーー! あー寝みい、はあ、時間きたら帰りに風俗街寄って一発抜いてくか」
残ったのはろくでもないギルド員のみだ。机に足をあげ、あろう事かエロ本を読んでいる男。ぼさぼさの髪にボロボロの靴をした汚らしい男だ。
「へへっ……酒だっ! 仕事もせずに酒が飲めるならそれがいいやっ! 最高!」
ギルドの勤務中にも関わらずひたすら飲酒し、ツマミを口に運ぶ男。
要するにろくなギルド員は残っていなかった。働きもせず給料が出るんだからそれでいいと考えている意識の低い連中だ。
こうしてトップギルド……だったといっていいかもしれない。『栄光の光』の転落劇はさらに加速していく事となる。
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