病に侵されたイルミナ
俺達は大きな城の前にたどり着く。
「ここがエルフ城か」
城門の警備をしていた門番二人は人間の俺に対して警戒を示したが、すぐに隣にいる人物を認め、平伏した。
「ルナシス様」
「ルナシス様ではありませんか。いかがされたのですか?」
その様子から随分長い事、ルナシスはエルフ国に戻っていなかったのであろう。エルフの森の問題がいつ発生したのかは知らないが、その事からも察する事ができた。
「隣にいる方、フィルド様がエルフ国を訪れたいという事で案内に来たのです」
「そのお方は人間ですか?」
「はい。私の恋人です!」
「なんと! 恋人ですか!」
「違います」
「もうなんでですか! フィルド様!」
ルナシスは声を大きくして訴える。
「ただの暫定パーティーメンバーです。気にしないでください」
大体、ただでさえ人間だというだけでいらぬ誤解を受けそうなのに、王女であるルナシスの恋人だなんて疑われた日には余計にトラブルに巻き込まれそうだ。
「もう! フィルド様ったら!」
「それより、中に入らないか? 妹のイルミナも心配なんだろう?」
「それもそうですね。そこを通してください」
「わかりました。ルナシス様」
当然のように門番はあっさりと俺達を通した。
こうして俺達はエルフの城に入っていったのである。
◇
「ええい! まだかっ! まだ森の魔力による問題は解決しないのかっ!」
「申し訳ありませんっ! 様々な方法を模索しているのですが、なかなかに解決策が見つからず」
一人の男が怒鳴っていた。兵士と思しき男を激しく叱責する。王冠をした男。威厳のある高級そうな服。
しかしそれでもやはりエルフは長命であまり年を取らないのだろう。髭を生やしてはいるが、それでも人間年齢でそれなりに若そうだった。せいぜい30代半ばから40代といったところ。
だが当然のようにエルフであるがゆえに、見た目通りの年齢ではない気がする。
レディに年齢を聞くのは愚の骨頂ではあるが、ルナシスって何歳なんだろうなぁ。
100歳とか超えてるんだろうか。だとすると年齢差が80歳とかその程度になってしまう。
流石の俺でもそんな無神経に地雷を踏みに行くような真似はしないが。
「んっ!? なんだ貴様ら! お、お前は! ルナシスかっ!」
「お久しぶりです。お父様」
ルナシスがお父様と言った。流石に俺も見ただけで国王と分かったが、その態度で確信を持った。
「ルナシス! 貴様! 今更何をしに帰ってきた! 王女としての責務を妹であるイルミナに全て押し付け! 貴様のせいでイルミナは病に侵されたようなものなのだぞっ!」
「申し訳ありませんっ! お父様! 私の身勝手な行いで」
「謝っても何も解決などせんっ!」
「それもその通りではあります」
「だが、お前を責めたところで何も解決しないのは事実だ」
流石に国王も血のつながった娘相手には多少なり情があるのだろう。少しばかり緩んだ態度を取って見せる。
「お父様、イルミナはどこにいますか?」
「イルミナか? 自分の部屋にいるぞ」
「ありがとうございます。お母様は?」
「付きっきりで看病している。そんなもの使用人にやらせればいいと言っているのだが、自分がやると言って聞かぬのだ」
「ありがとうございます。お父様、イルミナのところへ向かわせて頂きます」
俺達はイルミナがいる自室へと向かった。
◇
「しっかりして! イルミナ!」
「げほっ! ごほっ! ごほっ!」
俺達はイルミナのいる部屋へ入った。しかし聞こえてたのは慌ただしい声であった。
美しい少女がベッドで嗚咽している。そしてそれをその母――というよりはせいぜい姉だとしか思えないが、国王の口ぶりからして王妃なのだろう。
彼女が介抱していた。金髪をした美しい女性であった。やわらかい物腰。そして引き締まった体つきではあるが、男性の目を引くような豊かな胸元をしていた。
そしてベッドで寝ているのがイルミナであろう。ルナシスよりは若干体が小さく感じる。そして控えめな体つきをしていた。ルナシスと比較するとスレンダーというよりは若干幼児体形であるように感じた。やはり妹であるからだろう。
二人とも金髪をした美しい見た目をしており、流石はルナシスと同じ血が流れているともいえた。
正式にパーティーを組むつもりはないが、それでもルナシスが絶世の美少女である事を否定するつもりはない。
「お、お姉さま……」
「ルナシス……どうして、あなたが」
「お久しぶりです。お母様、イルミナ」
「……お久しぶりです。お姉さま」
弱弱しい言葉でイルミナは告げる。何らかの病に侵されているのだろう。そしてその程度もそれなりに重そうなものであった。
「そちらの男性の方は……人間ですか?」
イルミナが聞いてくる。
「そうです。彼はフィルド様と言います」
「フィルドと申します。はじめまして」
「フィルド様は……お姉さまの何なのですか?」
「ただの暫定パーティーメンバーです。それ以上でもそれ以下でもありません。下心があって彼女と一緒にいるわけではない事を予めお伝えしておきます」
ルナシスが余計な事を言うより前に俺はそう釘を刺した。それに今はチャラけている空気ではないのだ。それほどに空気が重々しい。
「そうなのですか……パーティーメンバー」
「それでルナシス、今更何をしに帰ってきたの?」
「……それは」
母の叱責するような目。かつてルナシスは役割を放棄し、逃げ出すように人間の世界に来たと言っていた。そしてそれは俺に対する憧れにもつながっていた。
その理由があるのかもしれない。
「よかったら話してくれませんか?」
「フィルド様」
「人間のあなたに何かできるのですか?」
王妃は厳しい目つきで言ってくる。やはり人間という事で警戒しているのであろう。
「わかりません。ですが事情を知ればもしかしたらできる事のひとつやふたつあるかもしれません」
「思いあがるのもいい加減にしなさいっ! 一体人間に何ができるというのですかっ! エルフの国民がどれほど苦慮しても解決できていない問題なのですよっ!」
「……お母様、良いではありませんか。事情を話すくらい。それで別に何を失うわけでもありません」
「イルミナ」
「私の口から語らせて頂きます」
イルミナはそう言い、語り始めた。病に侵されたその体から発せられる言葉は実に弱弱しく、儚げでもあった。
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