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深緑の森

 俺とルナシスの目の前には森がそびえていた。王都を出てしばらく歩いたところにある何の変哲もない森だと思っていたが……。ルナシスはその森の前で立ち止まった。


「この森を抜けた先にエルフの国があります」


 なんでそんな事を知っているんだ? 随分と自信のある口ぶりだった。俺は疑問を抱きこそしたが、口にこそ出さなかった。目の前の少女が嘘をついているとも思えないからである。


「この先に霧の迷宮があります。まずはそこまで向かいましょうか」


「ああ」


 俺とルナシスは森へと入る。そして森をひたすらに歩いた。


 すごいなと思った。森の中は完全に同じような景色が続くだけだ。だから普通は迷ってしまう。だがルナシスは一切迷う様子もなく、迷路のような森を実にあっさり抜けていく。


「なあ、ルナシス?」


「はい。なんでしょうか?」


「どうしてそんなに道がわかるんだ?」


「え? どうしてですか?」


「ああ……この森に来た事あるのか?」


「それはえーと。何となくわかるんです」


 はぐらかされた。まあいい。結果としてエルフの国へとたどり着けるなら俺は万々歳だ。ルナシスがどうして道がわかるかなどどうでもいい。


 しばらく歩いた先で俺達は泉にたどり着く。木々に囲まれ、僅かな隙間からの光が泉を神秘的に映し出しているかのようだ。人に濁される事もないからだろう。透明で透き通った綺麗な水質をしていた。


「ここに泉があるんです」


 ルナシスはそう語る。既に丸一日歩きっぱなしだ。女性にとって衛生問題は死活問題であるとすら言える。男の俺は平気だが、一日風呂に入らない事すらあり得ない事かもしれない。

 人によっては日に三回入る事すらあり得るらしいし。


「どうせ一日では着かないだろうし。ここら辺で一泊しよう」


 そのうちに夜になる事であろう。暖を取った方がいい。夜の森を歩くのは危険だ。


「フィルド様、これから沐浴をしていっても構いませんか!?」


「ああ。別にいいよ」


「よろしければフィルド様も一緒に沐浴しませんか!?」


「遠慮するよ」


「ええっ!! なんでですか!!」


 ルナシスは不平を口にする。


「俺は薪を集めて焚火をしているよ」


 俺は泉を離れた。


 ◇ 


 少し離れたところで俺は焚火を始めた。


 おかしい。俺は感じていた。ルナシスは知りすぎていた。この森の事を。どうして泉がある事まで知っている。確実にこの深緑の森に来た事があるはずだ。ルナシスはエルフの国に行った事があるのではないか? その疑念が俺の中に湧き上がってきた。


 ――その時だった。


 グウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!


 俺の目の前に複数の狼が現れた。人の匂いに釣られて現れたか。狼型のモンスター、攻撃性の高いウォーウルフである。


 一匹のウォーウルフが突如俺に襲い掛かってくる。俺は剣を抜いた。斬り落とす。


 キャウン!


 ウォーウルフを一瞬にして絶命させる。犬のように甲高い声を上げ、果てた。こいつらも馬鹿ではない。圧倒的な実力差を見せつけられて、それでも襲い掛かってくる理由もない。


 餌にならないと思った瞬間、尻尾を撒いて逃げ出した。


「ふう。行ったか」

 

 俺は溜息を吐く。その時だった。泉の方からウォーウルフの鳴き声がした。


 今、ルナシスは沐浴中だ。普段持っている剣を手にしていない。あまりに無防備な状態だ。いくら剣聖ルナシスとはいえ、剣を持っていなければただの少女かもしれない。


「仕方ない。助けに行くか」


 俺は泉に向かった。ルナシスに万が一の事があったらエルフの国へ行けなくなる為だ。決して彼女の身を案じてではない。恐らく。


 ◇


 俺は泉までたどり着く。しかし、想像していた光景は俺が思っていたものと違った。震えるルナシスと、それに襲い掛かろうとしているウォーウルフ。そういう光景を予想していた。だが予想していたものと現実では大きく異なっていた。


「ふんっ!」


 全裸のルナシスはウォーウルフに殴り掛かった。


 キャウン!


 ウォーウルフは悲鳴をあげて果てた。


「まだやりますか?」


 素手のルナシスは悠然とした態度で問う。


 グウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!


 唸った末にウォーウルフはとても自分達で敵う相手だとは思わなかったのだろう。尻尾を巻いて逃げ出していった。


「ふん。身の程を弁えなさい。あ、あらっ! フィルド様っ!」


 ルナシスは俺の存在を認識したようだ。


「フィルド様」


 ルナシスがいきなり俺に抱き着いてきた。柔らかい感触が胸板に伝わってくる。


「い、いかがされたのですか!? フィルド様も私と一緒に沐浴をしに来られたのですか?」


「ち、違う!!」


「だったらなぜですか!? も、もしかしてフィルド様、私の事を心配して」


「そうだよ。いくらルナシスでも剣も持たずにウォーウルフの相手はできないかと思って来てみたけど無用な心配だったみたいだな」


「まあ、そうだったのですか」


「勘違いするなよ。俺はルナシスに万が一の事があったらエルフの国に行けなくなると思っただけで」


「同じことです。フィルド様が私の心配をしてくださったという事に変わりはありません。それを私は大変嬉しく感じます」


「うっ……」


「どうかされましたか? フィルド様」


「……なんでもない」


 いやなんでもないはずがない。


 ルナシスは綺麗な身体をしていた。整った体つきは芸術といっていい。無駄な脂肪はなく、それでいて出るところが出ている。誰もがうらやむような理想的なプロポーションをしていた。そして、水に濡れた白い肌、金色の髪が実に艶めかしい。


「けど、フィルド様。あまり見ないで欲しいです。私の身体」


「……なんでだ?」


「私はあまり自分の身体に自信がありません。男性経験もありませんから、フィルド様が私の身体を見てがっかりされるのではないかと心配しているのです」


 ルナシスは不安げに伝えた。比較対象がない生活をしていたからだろう。ルナシスは自分が美人だという認識はないのかもしれない。剣の腕が立つ事は、ギルドの世界に身を置いていたのだから知っている事であろう。剣聖と呼ばれているのだから。


 だが、美貌においても自身が特段優れているという事に自覚がないようだった。当然その身体つきも大抵の男がむしゃぶりつきたくなるほど魅惑的なものである事に。

 彼女は自覚症状を持っていない様子だった。


「そんなことない。綺麗だった」


「本当ですか!?」


「ああ。本当だ」


「……じゃあ、フィルド様」


 ルナシスはわざと俺に距離を置き、両手を広げた。


「もっとよく見てください!」


「ば、馬鹿! わざわざ見せてくるなっ!」


 俺の顔は赤くなっていた事だろう。慌てて目を塞ぐ。いくら何でも成人女性が子供のように無邪気に裸を晒すものか。














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