エルフの国へ向けて旅立つ
「るんるん♪」
ルナシスは陽気な笑顔を浮かべ、俺の隣を歩く。エルフの国への行き方を知っているルナシスと俺は一時的にではあるがパーティーを組んで、行動を共にする事になった。
それにしても俺の知っている《剣聖ルナシス》と目の前にいる《ルナシス》とではかなりのギャップが存在していた。
剣聖ルナシスと言えば剣の天才だとして知られ、他の者を寄せ付けない圧倒的な存在であると周知されていた。だから俺はもっと冷淡な人物かと思っていたが、目の前の天真爛漫な一面を覗かせるルナシスに、俺は少なくない動揺を覚えた。
「フィルド様」
「なんだ? どうかしたか?」
「フィルド様はなぜエルフの国に行きたいのですか?」
「別に深い意味はない。観光地に旅行に行く位の気分だよ」
「へー、旅行ですか」
「ああ。俺はずっとギルドに縛られ続けていたからな、せっかく辞めて自由になったんだ。だから俺はこの自由を満喫したいと思った」
「そうなんですか。自由を満喫するため」
「だから俺は一人でいたいんだ」
他者と一緒に行動するという事は必ず束縛が生まれる。それでは一人でいたいという気ままさや自由さと矛盾してしまう。
確かに美人には華がある。だが往々にして綺麗な花には棘があるものだ。ルナシスと行動を共にする事できっといらぬトラブルに巻き込まれる事もあるだろう。当然のようにやっかみを受ける。
美しい女性と一緒にいるというのはメリットもあればそのようなデメリットも考えられた。
俺はそういう無用なトラブルを抱えたくはないんだ。
「逆に俺が聞きたい」
「え? 何をですか? スリーサイズですか!?」
「違う」
「上から、8……」
「だから言わなくていい」
「好みの男性のタイプですか!? それはもう、勿論フィルド様です!」
「それもいい。だから、なんで俺と一緒にいたいんだよ!?」
「え!?」
「どうして俺に付いてこようとするんだ?」
「――それは」
ルナシスは語り出す。俺が初めて見る彼女の真剣な顔つきだった。
「私は元々いた国で課せられた使命を受け入れられませんでした。馴染めなかったんです。それで剣の強さだけで評価して貰えるギルドの世界に入ったんです」
俺は黙ってルナシスの話に耳を傾ける。
「組織のために遺憾なくスキルを発揮していたフィルド様の噂は私の所属していたギルドにまで聞こえてきました。前線で闘う私はなんて身勝手な存在だろうと思っておりました。自分の為に剣を振るうだけで周囲の事を考えていない愚かな存在だったのです」
愚かな存在って。いくら何でも自分を卑下しすぎだろう。彼女の剣の腕は俺の耳にも入っていた程だ。剣聖の称号が伊達ではない事くらい、俺だって知っていた。
「私は自己を犠牲にしてまで組織に尽くすフィルド様の貢献心に惹かれたのです。もっとフィルド様と一緒にいたい。きっと多く学べる事がある。私のいるべき場所は先ほどのギルドなどはなく、フィルド様のいらっしゃった『栄光の光』にあるのではないか。そう思い、迷う事なく私は転籍を決意しました」
「はぁ……」
「ですが、そこにフィルド様はいらっしゃいませんでした。私が『栄光の光』で感じた事はその見え透いた悪意でした。ギルド員は恐怖により抑圧されていました。オーナー及び役員は私相手では善良を装っていましたが、悪意が見え透いたとんだ悪党に
しか思えませんでした」
「そうか……『栄光の光』に所属していたんだったな」
短期間とはいえ『栄光の光』に所属していたのだ。内部からでしかわからないような事がわかったのだろう。ルナシスはクロード達、俺を追放した役員とも顔を合わせた事だろう。
「あんな悪意を持った人達の中で虐げられていらしたのでしたら、一人を求めるのも無理もありません。私はフィルド様と一緒に行動できるだけでも嬉しいのです」
ルナシスは笑顔を浮かべた。彼女がこのような笑みを浮かべるのは俺だけかもしれない。そう思うと俺の一人でいたいというポリシーが揺らぎそうになった。
いかんいかん。俺はほだされないように気を引き締めた。
「それじゃあ、エルフの国を目指すか」
「はい」
「っていっても俺は行き先が分からないんだ。案内を頼むルナシス」
「はい! こちらです」
俺達は王都アルテアを出た。ルナシスの案内に従い、エルフの国を目指す。
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これからしばらく怒涛の1日3回更新! 昼12時 夕方6時 夜8時を予定しています!
ボリューム減るんじゃないの? と思ったそこのあなた! ボリュームは変わっておりません! むしろ増えてるのもあります(笑)