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世界を繋ぐ縁  作者: ひこうき
魔法の国ハノーファー
3/7

2-1

 目覚めると知らない天井だった。

 意識がだんだんはっきりしてくると、それが昨日助けてくれたリアムの家だということに気づく。


 体は動くようになっていたが、手はやはり思うように動かず、わずかに擦れる手袋でも痛みが走る。

 ユイは手を突かないようにそっとベットから起き上がり、ベットを抜けると、ひんやりとした空気が体を包んだ。

 洋服はそのままらしく、高校の制服を着ていたがスカートやシャツはしわくちゃになっている。 


 そのまま窓際に近づき、カーテンを開けると、日の光が差し込んだ。

 森に迷い込んで以来まともに浴びていなかった日の光を浴び、改めて部屋を見回した。

 モルタルの白壁にこげ茶色のの木の床、同色の暖炉とサイドテーブルがあり、深紅のカーテンとベットカバーが差し色になっている。無骨だが温かみのある、リアムに似合う部屋だった。

 部屋の隅にはユイの唯一の私物――バックとローファーが置かれていた。


 部屋に時計は無く、いったい寝てしまってからどのくらい経ったのかわからなかった。

 ユイはくしゃくしゃのスカートをすこし引っ張って伸ばし、手櫛で髪の毛を直してから、そっとドアを開けた。

 ドアの前には長い廊下があり、この部屋は長い廊下の突き当りにあった。ところどころに誰かの写真が掛かっている。


 なんとなく写真からの視線を感じながら廊下を歩くと左手に廊下があった。階下からわずかに紅茶のにおいが漂っていた。

 そのにおいをたどっていくと、一つのドアに行き着いた。

 中から物音が聞こえる。

 

 軽くノックをしてから、そっとドアを開けると、ダイニングらしき場所に紅茶を片手に本を読みふけっているリアムがいた。


「おはようございます」

「おはよう。よく眠ってたから起こさなかったけど、休めたか?」

「はい、ゆっくり休めました」

「おなかすいただろう、そこに座りな」


 指さしたのはリアムがすわっているダイニングの向かいの席だった。

 ありがとうございます、と言って座るとリアムは本を閉じて立ち上がった。


 そのままキッチンに向かい、昨日見た棒をポケットから取り出すと、キッチンに置かれた料理に棒を振った。

 するとたちまち料理から湯気がのぼり、出来立てのようになった。


 ぽかんとその様子を見ていると、リアムがその皿を私の前に並べた。

 野菜スープとマッシュポテトの良いにおいに昨日の朝ぶりのごはんだったことに気が付いた。

 

 食え、と言われ、ユイ礼を言ってからスプーンを持った。

「おいしい……」

 どちらもシンプルな味だし、日ごろ親しんだ味でもない。

 しかしなぜか懐かしさを感じさせ、ほっと落ち着く味だった。


 ポロリとこぼれたような私の言葉に、リアムがふっと笑った。



*****



 ユイがご飯を食べ終わった後、紅茶を頂きながら今後5日間について話すことになった。

「まず、家にはいつも手伝いのものがいるが、ホリデー中はいない」

「リアムさんの家族はいらっしゃるんですか?」

「いや、ここは俺個人の家だから俺だけだ。もともと一人で過ごす予定だった」

だった(・・・)?」

「ユイが来たからな」


 まぁ、俺は一人じゃなくなったわけだな、とリアムが紅茶を一口啜った。

「昨日も言ったが、ホリデーは本来家族と過ごすものなんだ。だからユイもここを自分の家だと思ってゆっくり過ごしてもらって構わない」

「はあ……」


 ユイはザ・日本人である私にそんなこと言われましても……と内心思った。

 そもそも家族以外男の人と2人で過ごすなんて初めてなのだ。しかもイケメンとくれば緊張してしまう。


 生ぬるい返事を気にした様子はなく、リアムは続けた。

「店は開いてないから、家の中でほとんど過ごすことになるだろうが、家にあるものは好きに使ってくれて構わない。昨日ユイにはハノーファー語を使えるようにしたから本も読めるだろう」

「あの、それってどういう仕組みなんですか?」

「魔法だ」リアムはなんてことないように言った。


「魔法って、昨日使ってたのって、もしかして魔法の杖ですか?」

「もしかしなくてもそうだ。なんだ知ってるのか」

「いえ、私の住んでいるところではおとぎ話のようなものです。本当に使えるんですね……」

「そうだな。ハノーファー国は魔法国家だから、たいていのことは魔法でやるし、魔法学校に通って魔法の使い方を習う」

「すごい……」魔法はユイにとってはファンタジーの話だ。


「ユイが魔法を使えないから少し不便だろうが、その時は俺を呼べばいい。この家のどこかにはいる」

「わかりました。ありがとうございます」

 

「で、あとはその敬語だ」

「え?」

「自分の家だと思ってくれていいといっただろう。敬語はいらない」

「うーん、そういわれましても……」

 ユイにとってはいくらリアムが親切な人とは言え、昨日であった年上の人に敬語を抜けと言われても、なかなか難しいものがある。

 困ったように眉尻を下げると「俺もその方がリラックスできるからできるだけそうして欲しい」と言った。

 そう言われたら、そうするしかない。

「はい。わかりまし…わかった。やってみま、やり…やります」

 ぎこちないユイのしゃべり方に苦笑いを浮かべたリアムは、できれば5日間のうちに、と言った。

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