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世界を繋ぐ縁  作者: ひこうき
ドアの向こうの不思議な国
1/7

1-1

―――日常。

 

 朝起きて、学校へ行き、友達とおしゃべり。

 放課後は部活に励み、それなりに勉強も。


 そんな日常が明日も来る保証が無いなんて。

 本当に大切なものは無くなってから気づくなんてのは定番で―――。



*****



「……あれ?」

 踏みしめる感触は柔らかく、空気は冷たい。


 いつものように学校へ登校するため、玄関のドアを開けたはずだった。

 そうすれば母が丁寧に手入れしている玄関ポーチが見えるはずなのだ。

 しかし、そこにあるのは森。

 日の光も届かないほど鬱蒼としており、森の中でもかなり深いところにいることがわかる。



 ガタン、と後ろ手に玄関のドアを掴んでいた手を放してしまい、ドアが閉まる音を聞き、慌てて後ろを振り返ると、すでに見慣れたドアは跡形もなく消えていた。


「うそでしょ……!」

 ユイは信じられない現実にドアがあったであろう場所に手をやるが、そこには冷たい空気しかなく、手先が冷えていく感覚にぶるりと身を震わせた。冷たい空気に鼻がツンとし、肺が凍ってしまいそうな冷たさだ。

 幸い現在冬のため、コートとマフラー、手袋は身に付けているが、女子高生らしく下はスカートにタイツのみだ。

 急いでコートの前ボタンを留めるがそれでも確実に冷えが進んでいた。


 あたりを見回しても、木ばかりで方向感覚も無い。

 幸い登校時ということで荷物一式を持っており、携帯を取り出すと圏外になっていた。

 これでは連絡を取ることもできなければ、丸腰も同然だ。


 「すみませーん、だれかいませんかー?」

 叫ぶと白い息が漏れる。その声も森に吸い込まれていき、辺りはしんとしていた。


 「誰か……」

 もう一度叫ぼうとしたが、それすらも無駄ではないかと途中でやめてしまった。

 「寒い……」

  既に足先の感覚は無くなっており、足場の悪い森の中を歩こうにも自由に歩けない。


 どうしよう……このまま凍死するのかな……。

 体が冷え切り、思うように動かない体のままぼんやりと考えた。

 正直、何も考えられくなってきており、意識も朦朧としている。

 

 「―――!――――――!」

 だれかの声が聞こえる……でももう眠い。

 私はその声には答えず、自然に身を任せるように、意識を手放した。



*****



 ユイが次に目覚めたのは、ヨーロッパを思わせるような一室のベットの上だった。

 手が思うように動かず、寝たまま視線を動かすと、ベットサイドには水差しとカップが置かれ、少し遠くには重厚な作りの暖炉があり、あかあかと燃えていた。


 ぼうっとそのまま火を見ていると、ベットと反対側にあるドアががちゃりと音を立てた。


「ヴィ―ゲッツ イーネン?」

 ドアの向こうからぬうっと入ってきたのはマッチョ男だった。まくっているセーターから覗く腕は丸太のように太く、チノパンの膨らみ具合から非常にマッチョな体格であることがうかがえる。

 

 マッチョ男はベットサイドに歩いてきた。

 くしゃくしゃのダークブラウンの髪に、透き通るようなブルーの瞳は暖炉の火でキラキラと光っているが、高身長と口が固く結ばれている表情のため、なんとも近寄りがたい威圧感がある。年齢は恐らく30半ばぐらいだろうか。


「ヴィ―ゲッツ イーネン?」

 彼は先ほどともう一度言った。

 ただし、何を言っているのかわからない。


 声を出そうとすると、かすれた声が漏れるだけで思うように声を出せない。

 体も動かないので、どうしようと困惑した表情を浮かべると、マッチョ男がそのまましゃがみ、「

エンチューリディゲン ズィ」と何事かつぶやくと、太い腕を私の背中に差し込み、半身を起こした。

 そのまま片手で片手で水差しからカップに水を注ぐと、少し手をかざしてから私の口元に差し出した。


 差し出されるままにカップの水を飲む。水だと思っていたがはちみつ入りのレモン湯だったらしく、体がじんわりと温まった。

 はぁ、と息を吐くと、マッチョ男はしゃがんだまま、「ヴィ―イスト ダインナーメ?」と先ほどよりも優しく言った。


「すみません、あなたが何を言っているかわからないんです」

 おそらく彼も何を言っているのかわからないのだろう。ユイは眉根を寄せ、少しばかり困ったような表情を浮かべた。


 彼はしばらく考え込んでいる様子の後、「ブライベンズィ ゲナウ ドゥトステーエン」と言い、手のひらを見せた。

 ユイはおっきい手だな、と思いながら、様子を伺っていると、ポケットから棒を取り出し、私に向けた。

 「ザリン」と唱えると、棒の先がポッと光り、その光が私の胸に吸い込まれていった。


 マッチョ男は光が私の中に吸い込まれていったのを確認すると、「俺が何言っているかわかるか?」と言った。

 ユイは流暢な日本語を喋っているのに驚きつつ、こくりと頷く。


「日本語喋れるんですか?」

「いや、正確には君が俺の使っている言語を使えるようにした。君の名前は?」

「えっと、(ゆい)、です。私も名前お伺いしてもいいですか?」

「……ユイ、か。俺はリアムだ」


 そこで私は初めてマッチョ男、もといリアムの柔らかい表情を見た。

 眉間に皺の無いリアムは非常にイケメンだった。

【解説】

ユイレルの話している言語はドイツ語、呪文はタガログ語を参考にしています。

◇ドイツ語

「Wie geht's Ihnen?(ヴィ―ゲッツ イーネン?)」:「具合はどうだ?」

「Entschuldigen Sie.(エンチューリディゲン ズィ)」:「すまん(体に触れる前に声を掛けている)」

「Wie ist dein Name?(ヴィーイスト ダインナーメ?)」:「名前は?」

「Bleiben Sie genau dort stehen.(ブライベンズィ ゲナウ ドゥトステーエン)」:「ちょっと待ってろ」


◇タガログ語

salinザリン」:翻訳

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