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5話

 レイは私を連れ歩いてくれた。街の観光名所と、美味しいアイスキャンディー屋のお店、綺麗なアクセサリーが売っている露天の店内。私が好きそうな雑貨店。田舎の村では縁がなかったものばかりで、楽しくて仕方なかった。一息つこうと案内してくれた街を一望できる高台はからの見晴らしは最高だった。

風がふいて、髪が靡いてる。気持ちいい。


 レイと一緒にいる時間はあっという間で。もう日が傾き始めて空は綺麗な茜色に染まっていた。今まで村で過ごしていた事、他愛もない事だけどたくさん話した。明るくて楽しませてくれるレイ。昔と変わらない。本当に、楽しい時間だった。今日くらいは羽目を外したってバチは当たらないだろう。きっとこんな風に過ごせる時間は残されていないのだから。

「レイ、ありがとう!本当に楽しかった!」

「喜んでくれて俺も嬉しいぜ」

「うん!格安だけど女性一人でも泊まれるおススメの宿も探してくれて助かっちゃった!」

 夕日を見つめながら、私達は無言でしばらく立っていた。これだけ見晴らしがいい高台なのに不思議と人が私達二人しかいなくて。

このままずっと二人でいられたらいいのに。

「静かだろ?ここ。人もあまり来なくて俺の穴場なんだ」

「うん、とても静か…風が気持ちいいね」

 さあ、と緩やかに風が吹いた。

「飯、どっかで食ってくか。まだまだ色々と話したいことあるんだけどな、俺としては」

「いいね、楽しみ」

 優しくしないで。離れるのが辛くなる。心とは裏腹に笑顔で応えた。沈黙が続く。黙り込んでしまった私に、レイは何も言わなかった。

「……明日ね、私もう一度王立研究所に行くんだ。多分、会うんだと思う」

 誰と、なんて口にしなくても伝わるだろう。そういえば、レイノルド様の愛称も、レイよね。偶然にしては出来過ぎだと思うけど、怖い。

「…訊いてもいい?」

「ああ」

「レイは…もう、受けたんだよね?検査」

 少し間があって、レイは高台の手摺に身を預けて空を見つめた。

「ああ。成人した時にな。相手も決まっている」

 ずきりと胸が痛んだ。わかっていたことなのに。レイは久々に再会した幼馴染の友達として接してくれていたことも。

嬉しくて舞い上がっていた私は、バカみたい。だってもし、彼が私の運命の相手だったら…子供の頃何度も思った。そんな確率、ないに等しいのに。

踏み込んだ話を知りたい。幸せ?その人と、レイはもう結婚したの?それともまだ恋人同士の関係なのかな。知りたい。けれど怖くて訊けずに口を閉じたままだ。息を吸って、吐き出す。夕日はこんなにも綺麗なのに。泣きそう。泣いたら駄目だ。絶対。笑顔でいなければ。


「私の運命の相手ね、この国の王子様で英雄なんだ」


「いやいくらなんでもあり得ないだろ。騙されねえぞ俺は」

 即答だった。

「あははーやっぱりバレちゃった?」

 そうだよね、普通、そういう反応になるよね。

「そういう冗談、好きじゃねーな」

「…ごめん」

 空を見ていた私は、俯いた。隣にいるレイを見る勇気がない。

「リイ」

「うん?」

 肩を掴まれ、体の向きを変えられた。真剣なレイの表情。

「レイ…?」


「大丈夫だ、お前は幸せになるさ絶対に。リイの運命の相手は、世界一リイを愛してくれる男だ」


「…っ!」


 力強く、しっかりとしたレイの発言にどきりと胸が高鳴った。ああ、泣かないと決めたのに。視界がぼんやりと滲むのがわかって自分の人差し指で涙を拭って、笑顔を作った。



「ありがとう」



 さようなら、私の初恋。



「レイ、私が結婚しても友達でいてね」

「…友達、ね」

 笑顔で言った私にレイは、視線を逸らした。即答してくれると思ったのに。

「レイ?」

「さーってと、それじゃついてこいよ。早めに行かねーといい席取られちまう」

 レイは、こっちへ来いと片手で私を呼びながら、道の方へ手招きした。なんだかはぐらかされてしまった気がする。でも今日だけは、今日はいいよね。

私はレイの後に続き、高台の階段を降りた。



ここまで読んでくださりありがとうございます。

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