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そして召喚の儀は行われた

久しぶりのなろうさんでの投稿です。よろしくお願いいたします。

それは、この国に瘴気が立ち込め、伝染病が起こり始めた頃から誰という事もなく皆噂し始めていた。


曰く、異世界の聖女はその力で瘴気が祓えると。


曰く、聖女を大切にすることで国が繁栄すると。


曰く、何百年も昔にそれは行われ、そして成功したものであると。


我がイスカルダ王国に伝来する話である。


広がる謎の病気に、その病気に効くとして様々なデマが飛び交った。それは時に滅多に収穫できない薬草であったり、動物の生き血であったり……赤子の脳みそであった。


国中に混沌と狂気が広がり、瘴気はますます淀んだ気でその国を包んだ。隣に住む住人も信じられなくなるような生活をする城下の人々。貴族は国を渡ろうと画策して、国に戻された。


国は滅びの一途を辿っていた。


国王は魔術師や聖職者を集め、王家に伝わる聖地に向かう。


ーーもう、聖女を異世界に呼ぶことしか手立ては無いと。



******


「どうしてお父様もお兄様も誰かに頼ることしか思いつかないのかしら。マスクを着け、感染を防ぎ、酷いものは隔離して時間をかけて薬を投与すれば回復の兆しも見えているのに。」



「本当に。姫様がご長男で有ったら国はもっと早く救われたでしょうに。」



何度も進言はした。けれども父の口からは「女のくせに。」という言葉しか出なかった。女は黙って言われたところに嫁いで子供を産めというのが男尊女卑の意識の強いこの国で普通の事だった。


エマ様が王子に生まれてくだされば。


これがこれまでエマの側に仕えてきたものの本音である。


エマは小さなころから利発で賢い子供で対して一つ上のレイモンは我がままですぐに癇癪を起す子供であった。年も近いために小さなころは二人机を並べて家庭教師に習った。レイモンは何をするにもすぐに飽きて席を立って教師を困らせた。エマは飲み込みも早く、探求心が有ったので教師はこぞってエマに様々なものを学ばせた。そのうち、教師はエマを褒めるようになり、そして、次の週には来なくなった。エマはそこで「兄より出来てはならない。」ことを学んだ。以降、エマは出来ないふりをするようになった。


エマ姫の頭はピーマンのようにスカスカらしい。


表面上エマはそう装った。噂のおかげで縁談が減ったのは嬉しい誤算だった。今となっては伝染病がはびこるような国の王女になんの価値もない。


数日後の聖女の召喚には()であるエマはお呼びはかからなかった。「聖女」を召喚するというのにだ。本当にこの国での自分の立ち位置はこんなにもちっぽけだ。気にはなるがあんな古文書の世迷言を大の大人が本気で信じてやる方が信じられない。上手くいったとして神の使いとは限らない。瘴気が祓えるとも保証はないのだ。


「馬鹿らしい。」


レイモンはこの召喚に大いに乗る気だ。過去の文献には聖女は慈悲深く美しかったと綴られていた。そして当時の王子の妻になって王家を支えたとも。兄の考えていることが手に取るようにわかる。たとえ瘴気を払える素晴らしい女性が来たとして兄の妻にされるのかと思うと気の毒でならない。


「さてと。」


エマはベッドの下に隠しておいた箱を手繰り寄せる。

箱を開けると粗末な洋服とカツラが出てくる。エマはそれらを丁寧に身に着け、深くフードをかぶった。仕上げにマスクも忘れない。




――軒並みに縁談も断られ、他国へも出られることのない王女は狂ってしまって部屋に閉じこもりになった



窓際にドレスを着せた人形を置いておく。噂のおかげで偽装はこれで済む。何よりエマを訪ねてくるものなどいない。慣れた動きでエマは城を抜け出す。城下には彼女のささやかな研究所とそれに協力してくれる医師がいた。エマはエマなりに病気を治そうと動いていた。


少し。少しづつだがその成果が出てきていた。そんな小さな希望をもって頑張っていたエマの元に聖女の召喚が成功したという話が聞こえてきたのは数日後のことであった。





聖女が召喚された。




少なくともその吉報に少しは動揺したエマだったが聖女が現れ瘴気が祓われることでこの国が救われるならそれもアリかな、と思った。国民が助かるなら自分のちっぽけなプライドなんて捨てていい。


王宮内は慌ただしかったが、元々召喚の儀にも呼ばれやしないエマが聖女に会えるとも思っていなかった。そんな重要人物なら父と兄、大神官ががっつりと囲っているはずだ。エマはぼんやりとあの兄と結婚させられるのならちょっと可哀そうだな、と思った。


それから数日たったが瘴気が祓われている感じがしない。聖女は召喚されたと聞いたのにどういう事なんだろうとエマは首を傾げた。けれども他人任せなことも言っていられない。エマはエマで街に降りて自分が出来うる活動を続けた。




*******




「聖女様はどうされたのかしら。本当に召喚は上手くいったの?」


1か月も経つと不思議に思っていたことが疑問に変わる。あの父と兄の事だ、上手くいったとしたら大々的に聖女を祭り上げている筈なのだ。エマは出来るだけ政には関わらないようにしている。エマが男だったらエマは10歳に満たない頃には兄に殺されていただろう。先に生まれた兄は狡猾で嫉妬深く、次代の王になることに執着している。


「召喚の儀は上手くいったはずです。大神官が大興奮していましたからね。その後も秘密裏に城の奥の間に聖女様を迎え入れたと情報が入っています。」


本来ならあまり関わりたくない聖女だがエマは聖女に少し同情している。


「エリアイにも分からないなんてどうしてそこまで隠してるのかしら。」


「召喚の儀に立ち会ったのは王と王子、大神官と魔術師達です。でも聖女を見たのは3人だけです。王と大神官がその姿を隠し、王子がマントでくるんで連れて行ったそうです。全裸だったようで他の誰も聖女は見ていません。」


「ふうん。でもその後聖女の世話をする者くらい出てきそうなのに。」


「お世話は王子が一手に引き受けるらしいですよ?その、多分、妃と自覚するように……ね。」


「なにそれ、胸糞悪い。」


「まあ、召喚といっても誘拐ですからね。犯人を好きにさせるには特殊な環境が必要なのでしょう。」


「兄は聖女様の心を掴むのに手間取っているってことか。」


「そうかもしれませんね。」


「聖女様が哀れでならないわ。――エリアイ、教えてくれてありがとう。そろそろ執務に戻って。」


「エマ様の為ならいつでも馳せ参じます。」


エリアイがそう言って私に臣下の礼を取った。私は慌てて彼に立つように促す。こんなところを誰かに目撃されたら事なのだ。


神経質そうに黒髪を後ろに撫でつけ眼鏡をかけている狐目のエリアイは若干26歳で高官にのし上がった優秀な男だ。彼と数人の高官はエマに王になって欲しいと思っている。口に出さないのはエマがそれを拒否しているからだ。エマはまだ王と兄に希望を持っていたいと思っていたしエリアイのような優秀な男たちがいるのであればまだこの国は何とかなると思っている。


「突然、異世界から召喚されて心細いだろうな……。」


エマはまだ見ぬ聖女を思う。しかし、瘴気払いくらいは試させているに違いないのにそのあたりの情報は入ってこない。エマは考える。自分が踏み込んでいいのか、どうか。


「とにかく、状況は把握しておいた方がいいわね。」


そのうち会えると思っていた聖女は今どうしているのだろうか。いくらなんでも一か月近くあの三人に隠ぺいされているのはおかしい。なにか、外にバラされたくない秘密があるに違いない。考えられるのは、兄にそぐわない容姿であるか。瘴気が祓えなかったといったところだろう。どちらも対外に発表することはできないだろう。しかし、それなら「失敗」だったと聖女を処分したはずだ。


別の理由。


なんだろう。


その理由はエマが考えていたものとは少し違っていた。



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