魔力探知
「よぉ、少年。俺の名前はイライオス。さて、俺を召喚した魔術師を紹介してもらおうか」
使い魔イライオスはアレンに開口一番そう言った。
どう見ても自分の目の前に立っている少年は10~12歳程度の子供であり、とうていこの少年が自分を召喚したとは思えなかった。
召喚魔法とはとても難しい魔術であり、全ての魔術師ができるわけではない。また、使い魔の強さによって難易度も変化してくる。イライオスは最上級とはいわないが上級の使い魔であり、これを召喚できる魔術師はある程度のレベルに達していると誰もが認める魔術師だろう。
「僕だよ。イライオス、君を召喚したのは僕だ。僕はアレン、これからよろしくね」
アレンのその言葉を聞いてイライオスは眼を丸くした。まさか、こんな子供が自分を召喚したなんてとうてい信じられなかった。
「もしかして、君の親かお師匠さんにそう言えとでも言われているのか?」
イライオスはアレンの全身をまじまじと見つめる、アレンの羽織っているオーブ(法衣)は子供の魔術師がよく着るものであり、確かに魔術を学んではいるのだろう。しかし、だからといって自分を召喚するのには10年、いや20年は早いのではないか。
「いやいや、本当に召喚したのは僕自身なんだ。信じられないのならこの部屋に充満している煙に微かに感じることができる魔力の残り香と僕自身の魔力を見てごらん。君、魔力探知はできるだろ?」
アレンは笑顔で応対している。イライオスはアレンに言われた通り、煙に残っている魔力の残り香と目の前に立っている少年の魔力を見比べた。
魔力探知は基本使い魔しか行うことはできない。警察犬が犯人を臭いで追うイメージに近いが、一部の使い魔は魔力を探知することができ、またその魔力の特徴から唯一の魔力発信源も特定することができる。
「う~ん、まさかな」
イライオスはいまだ信じられないでいるが、確かに煙に残っていた魔力の残り香とアレンの魔力の特徴は一致している。
「どう?信じてもらえたかな」
アレンは満足そうな笑みを浮かべる。
「いやいや、待て。親の魔力はとても酷似しているというし、最近ご無沙汰で俺の魔力探知も怪しいところがあるぞ」
「おいおい、その言い訳はないだろ。かの100年戦争の英雄カーリーンに呼ばれた使い魔の一人でもあるイライオス、君が魔力探知で人間違いをすることなんてないだろ」
「アレンとか言ったか、子供のくせに昔のことをよく知ってるな」
「もちろん、君をいろいろと調べてから召喚してるよ」
「ふんっ」
イライオスは鼻で笑った。
「わかったよ。認めるよ。アレン、俺はお前に呼ばれた使い魔だ。お前の魔力が尽きぬ限りはお前の言うことを聞く忠実な犬になるよ。それでご希望は?いいベビーシッターを探してるなら俺なんかより街の役所に行ったほうがよっぽど効率がいいぞ」
イライオスは茶化しながらアレンに問うた。しかし、イライオスの心の中ではまだこのアレンが自分を召喚したとは完全には信じ切れていない。何かの罠なのではないかと感覚を研ぎ澄ましている。
「実はね、君には僕の母親を探すのを手伝ってほしいんだ」