少年の決意
本棚とベッドしかない殺風景な部屋に一人の少年が立っていた。
少年の名前はアレン。
アレンは魔法エレメントスクールに通う12歳で、父親と二人暮らしだ。父親は国の機関で働く国家魔術師であり、この国のいわゆるエリート魔術師だ。その分忙しいため、今日のようにアレンがだだっ広い家に一人なんてことは日常茶飯事だ。
アレンが家に一人なのは日常茶飯事なのだが、今日の一日は何かが違った。アレンは右手に何かを持っている。昨日の夕方に買ってきた新品のチョークだ。
アレンは部屋の真ん中でつっ立ったまま長い間考え事をしていたが、決心が着いたのか急に動き出し新品のチョークで床に何かを描き始めた。最初に大きな円を描き、その中に一筆で星を描く。円の周りには魔法文字で何かを書き連ねている。魔法文字は魔術を学んだ者しか知らず、魔術師ですらも完全に魔法文字の意味を理解しているわけではない。何百文字もある魔法文字を魔法エレメントスクールに通っているとはいえ、12歳の少年が何も見ずにこうもすらすらと書くことができるとは驚きである。
アレンは描き終えると「ふぅ、」とため息をつき、円の外側へと移動した。アレンが床に描いたもの、魔術を少しかじったことがある者にはすぐにこれが何だかわかる。しかし、わかるだけであり実際に実行できる者は少ないだろう。ましてや12歳の少年がそれを実行するなど、この世界でも両手で数えれるくらいしかいないのではないだろうか。
「よし、準備はできた」
アレンは自分が描いたものをまじまじと見つめ、その出来栄えに満足したようだ。
その後、何が何だかわからない呪文を唱え始めた。アレンは魔術を行使しようとしている。
アレンが呪文を唱えている途中から床に描かれた円からは煙が立ってきた。時間が経つにつれ、煙の量は多くなり、すぐに部屋いっぱいに充満した。
それでもアレンは全く動じることなく、呪文を唱え続けている。
そしてアレンが呪文の最後の言葉を放った瞬間、部屋一面がカメラのフラッシュをたいたかのように光った。
アレンは思わず目を閉じた。、
そして、アレンが次に目を開けた瞬間には円の中央に一人の悪魔のような使い魔が現れていた。
「よぉ、少年。俺の名前はイライオス。さて、俺を召喚した魔術師を紹介してもらおうか」