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広い意味で見たらボーイミーツガール

「やっちまった・・・・・・」


 僕は今とてつもなく嫌な汗をかいている。

 原因は色々ある。走ったし、追いかけられたし、夏で暑いし。まあそんなことはどうでもいいぐらいに今の自分の状況が問題だった。


「みせーねんりゃくしゅ?」


 金髪碧眼、抜けるような白い肌、完全にコーカソイド系の人種の少女が小首を傾げてそこにいた。


「うん、合ってる。未成年略取だし、完全に誘拐なんだけどさ!?僕に他に良い案なんかなかったよ!?」


「はい!エステルもそう思いマス!」


 元気に手を上げて肯定されて僕は脱力してしまった。

 鏡を見なくてもわかる。今僕の顔はきっとモヤシみたいに元気なさそうな雰囲気にやつれていることだろう。壁にもたれ掛かるとそのままズルズルと座り込む。しばらく何も考えたくない。でも現状を放置すれば僕は終わりだ。

 しばらく「ああああああああ」とか訳のわからない効果音みたいな呻き声を上げて頭を抱え込んでいると不意に柔らかな感触で正気を取り戻す。


「ええと?これなにしてるの?」


「何か、困っていたから抱っこしてマス!こうすると安心デス」 


 うわああああっ!!?いよいよ僕はもうダメだ。誘拐してきた少女に気を使われている!!人としてクソ過ぎて、死にたくなってきた。

 て言うか僕は何で今こんな状況になってるんだろう。

 そうだ。状況整理だ。

 加藤タカシ(29)無職。DT。

 免許あり、恋人無し歴生まれてから現在、実家でまったり親の脛に寄生する日々。

 そう、僕はついに引きこもり生活に終止符を打つためになけなしの勇気を振り絞り、面接に向かったんだ。

 貯金も無くなったし、両親にも「働け社会のクズ」「死ぬならどっかの樹海か洞窟にしてね」とか言われ始めた。


 幸い車の運転ぐらいなら出来るから、埠頭にある倉庫街から荷物を運ぶ仕事の募集を見つけて僕は出掛けた。面接は倉庫に隣接するプレハブの事務所で行われるはずだった。倉庫が開いていなければ。 


 開いてたから見てみただけだった。興味も無かった。

 めっちゃヤバイ雰囲気の黒魔術系の団体が素っ裸に剥いたエステルちゃんを生け贄にしようと呪文を唱えていた。

 僕は滅茶苦茶混乱したけど角の生えた仮面の男がなんか刃物を取り出してエキサイトし始めたし、明らかにエステルちゃんの心臓めがけて突き立てようと構えたので、入り口付近にあった消火器をぶちまけると、混乱に乗じてパーカーを被せるようにしてエステルちゃんを抱えて逃げ出したのだった。

 煙の立ち込める倉庫だが、非常灯を頼りに抜け出した。倉庫の並ぶ埠頭をジグザグに走ってカルト共をやり過ごし撒く。背後から角の生えた仮面を被った男が「娘はどこだ!?誘拐された!!」

とか叫んでいたが、誘拐の前に殺人が行われようとしていたじゃねえか!!と改めてあの時の選択は間違えていなかったと思う。

 て言うか娘を殺そうとする父親が全部悪いだろチクショウ。

 家に帰るか?ダメだ。うちの両親はロリコンには厳しい。通報される。警察もダメだ。両親よりロリコンに厳しいだろう。僕は厳密にはロリコンじゃないけどあいつらは無職引きこもりのオタクなんてロリコンと決めつけてくるに違いない。詰んでいる。児童福祉系の相談所に連れていって説明するか?父親がカルト教団で虐待の疑惑?誰が信じるんだよ!?後からあのヤバイ父親がイケメン素顔晒しながら「そこのロリコンが誘拐シタンダ!!」とか言い出したら僕は逮捕、エステルちゃんもまた生け贄にされてしまうだろう。


「マジで終わってんなぁ」


「め!デス。諦めたらそこで試合終了ですってほわいとおーがが言ってマシタ!!」


 マジか、バスケがしたくなる台詞をこんな場面で聞かされるとか人生捨てたものじゃないな。でもどうすりゃいいんだ?もういっそ逃げるだけ逃げて僕よりもっと強そうな人にエステルちゃんを預ける。それで僕はしらを切りとおす。あ、これ良いかもしれん。


「よし、とにかく逃げるか!」


「はい!」


 なんかピョンピョン跳ねてるしエステルちゃんも乗り気のようだ。抱えて走ったからさほど問題ではなかったが、彼女は裸足だった。埠頭を出てすぐの駐車場に僕の車はある。僕が抱えて走って逃げるに限る。


 こうして僕と金髪の美少女は逃避行に出た。

 元から非常識な出会いがまさか更に事態をややこしくするとはこの時の僕はまだ知らなかった。

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