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ブラックテイル  作者: 榛名
3/3

第2話 侍女の奇妙な冒険

姫様付きの侍女となって3ヶ月。

それはあっと言う間の出来事のようで、それでいて何よりも鮮烈に私の記憶に焼き付いている。


姫様はとても美しい方である。

透き通った白い肌と細くしなやかな手足。

このあたりでは珍しい黒髪はとても艶やかで、まるで夜空を紡ぎあげたかのよう。

何を着ても似合うので、お着替えの度にため息が出そうになる。

国王陛下がご執心なさるのも無理もない事かも知れない。


姫様はとても気難しい方でもある。

その宝玉のごとく美しい瞳から発せられる視線はいつも冷ややかで、近付く者を威圧するかのよう。

使用人や兵士達の間では「姫様が笑う所を見た者がいない」とまことしやかに語られていたし、姫様の逆鱗に触れた事が原因で首になった者も少なくないという話だ。

実際に私も採用が決まった際に「くれぐれも、姫様の機嫌を損ねてはならぬ」と言いつかっていた。



__その姫様が今、まるで別人のような姿を見せていた。


「あなたの名前を教えてもらえるかしら?」

「ジスティナです」

「そう、ジスティナね・・・、ハーブティーのおかわりを」

「はい、どうぞ」

「ありがとうジスティナ、とてもおいしいわ」

「恐縮です・・・」


いったい私の何が姫様の心を開いたのだろうか、姫様の笑顔はとても穏やかで・・・いつもとは違う種類の美しさを放っていた。


「ジスティナ、この茶葉はこの国のものではないのよね?どこで手に入れたのかしら?」

「実家でよく飲んでいたものです、こちら来る時に持ってきました」


私の名前を覚えるためなのか、姫様は先程から積極的に私の名前を呼んでくる。

姫様に覚えられるなど名誉なことだと喜ぶべきだろうか・・・

いや、姫様のお付きとしての最低ラインにやっと立てたと思うべきか。

私は気を引き締め、職務へと意識を向けた。


「それで姫様、お召し物はお決まりになられましたか?」

「そうね・・・思いついたわ、ジスティナ、あなた普段はどんな服を着ているの?」

「ごく普通の服ですが・・・」

「そのごく普通に興味があるわ、見せてもらえるかしら」

「はぁ・・・かしこまりました、自室から取って参りますので少々お待ちくだ・・・」

「いえ私が出向くわ、案内なさい」

「え・・・それはさすがに・・・」

「いいからはやく」

「は、はいっ」


姫様は私の普段着にえらく興味をもったようで、私達が寝泊まりをする使用人棟まで足を運んでいた。

・・・部屋着のままで、である。

もちろん、その途中に通りかかった者達に幾度となく奇異の目で見られたのは言うまでもない。

ある者はいったい何事かとただただ驚き、

ある者は姫様の美しくも大胆なお姿に鼻を伸ばし、

おまえは何をしているのだと、非難がましく私を睨みつけてくる者もいた。


「・・・姫様、やはり何かに着替えられてからの方が良かったのでは?」

「?」

「・・・」


私がそう問いかけると、姫様はきょとんとした顔で首を傾げた。

その無邪気な姿に、同性の私ですら思わずどきりとしてしまう・・・なるほど、これは国王陛下が傾倒なさるのも仕方のないことなのかも知れない。

「我が姫は天使だ」とは陛下がよく仰っているが、今の姫様を見せられて天使だと言われては誰も疑わないのではないか。

普段大人びて見えるせいで錯覚していたが、これが姫様の本来の姿なのだろうか。


「どうしたの?」

「いえ、なんでもないです・・・」

「そう・・・もし疲れているのなら無理せず言うのよ?」

「いえ、大丈夫です!問題ありません」


思わず見惚れてしまっていた私は、慌てて取り繕う事しか出来なかった。

もっとも、当の姫様本人が全く気にしていないので、どのみち私はそれ以上何も言う事が出来なかっただろう。

今の私に出来るのは、自室まで速やかに姫様をご案内する事だけだ。


幸いな事に、使用人達は各々の持ち場について仕事を開始する時間だ。

使用人棟に入ってからは、他の使用人達に遭遇する事なく自室にたどり着くことが出来た。


私に用意された部屋は他の使用人達の部屋と比べてかなり広く、侍女長の部屋よりも豪華な作りをしていた。

やはり姫様付きということで当初はこういった事も想定されていたのだろう、姫様をお招きするのに申し分のない部屋だったのだが・・・


「ここがあなたのお部屋ね」

「はい、部屋を片付けますので少々お待・・・」

「お邪魔するわ」

「ちょ、姫様?!」


私が全て言い切るよりも早く、姫様が部屋に入っていく・・・私の制止は間に合わなかった。


「あぁ・・・」


思わず手で顔を覆いながら次に待ち受ける展開に身構える。

来客、ましてや姫様が尋ねてくるなど思ってもみなかった私は、部屋を散らかるに任せていたのだ。


所構わず無造作に置かれた愛読書の数々。

そこらに脱ぎ捨てられた衣類・・・適当に丸めて転がった下着はまるで雑巾のよう。

食べかけのまま放置されてカビの生えたパンや、果実酒の空き瓶まで転がっている。

まさしく、お部屋ならぬ汚部屋だった。


「・・・」


あまりの光景に言葉も出ないのだろう。

姫様は部屋に入ってから無言で立ち尽くしていた。

無理もない・・・姫様が生きるそれとは全くの別世界なのだから。

そのままどれ程の時が流れただろうか・・・

姫様がこちらへとゆっくり振り返った。


「ジスティナ・・・」

「も、申し訳ありません!」


姫様がそれ以上口を開く前に頭を下げる。

何を言おうとしているかなど聞くまでもない。

この場で解雇を言い渡されてもおかしくはない失態だ。

全身から嫌な汗が吹き出すのを感じる・・・


「ジスティナったら、何を謝っているの?」

「へ?」


そのあっけらかんとした物言いに、虚をつかれた私は変な声を出してしまった。

姫様は怒るどころか、笑顔を向けてきたのだ。

その視線はまじまじと、まるで私を観察しているかのようで・・・これはひょっとして、姫様は私を試しているのだろうか?

姫様のお付きとして相応しいか否かを・・・

これまでの3ヶ月は見習い期間に過ぎなかったのではないか?

そう思った私は今更ながらに姿勢を正した。

既に相当な減点評価なのは疑いようもないが、私にだって意地があるのだ。

まずは謝罪だが、姫様は「何を謝っているの?」とお尋ねになった。

姫様を汚い部屋にお通ししたから?

違う、ここで間違えてはいけない。


「姫様に直接お仕えする身でありながら、自分の部屋ひとつ満足に整えられない体たらく、何とお詫びしていいか・・・」

「・・・ジスティナはそんな事まで気にしていたのね・・・ごめんなさい」

「ひ、姫様?」

「四六時中私の世話をしていれば、こうなるのも当然よね・・・自分の部屋を片付ける時間もないような労働環境は改善すべきだわ」

「え・・・いえ、それは・・・」


決してそこまでハードワークなわけではなくて、私の自由に出来る時間もそれなりにあるのだが・・・

読んだ本とか散らかっているし・・・

と、床に置かれた本を見た私の視線を追ったのか、姫様の興味はそちらへと移ったようだ。


「ジスティナは本も読むのね、その本は?」

「それは・・・ダイアナ・Mの小説です」

「どんな話なの?面白い?」


・・・それを聞かれると返答に困ってしまう。


ダイアナ・Mは作家の中でも癖の強い・・・型破りな文章を書く事で知られている、いわば奇才だ。

難しい本の苦手な私でも読みやすく書かれていて、とても面白い・・・と私は思うのだが、教養のある方々の間での評判は芳しくなかった。

姫様は・・・教養のある方だ、おそらくつまらないと感じるに違いない。


「あくまで個人的に気に入っているだけで・・・姫様が読んで面白いと感じるかどうかは・・・」

「あら、私には理解できないと言うのかしら?」

「決してそのような・・・」

「なら今読ませてもらうわ」


どうやら姫様は負けず嫌いだったらしい。

無難な言葉で流そうとした私の発言はかえって姫様を煽ってしまったようだ。

姫様は私のベッドに腰掛け、床に置かれたダイアナ・M著「鏡の向こうのアンジェ」を手に取ると、ゆっくりとページをめくった。

窓から差し込む朝の日差しの中で本を読む姫様の姿は、まるで絵画のような幻想的な雰囲気で・・・ここが自分の部屋だということを忘れそうになる。


「・・・」


次第にページをめくる手が速くなる・・・

王族としての教育を受けてきた姫様だ、もっと難しい書物を読む事も多いのだろう。

果たして姫様はこの本にどんな感想を抱くのか・・・

固唾をのんで様子を伺っていると、不意に姫様がその視線を本からこちらへと向けてきた。


「ジスティナ」

「は、はい」

「本に気を取られてあなたを放置してしまったわね、ごめんなさい。これを読むのにしばらくかかりそうだから、その間は自由にしていて」

「自由に、とは・・・」

「自由は自由よ、好きになさい」


そう言うと姫様は、再び読書に集中してしまった。

しかし、自由にしろと言われても・・・姫様を部屋に残してどこかへ出掛けるわけにもいかないし、姫様の前でだらけるわけにもいかない。

とりあえず私は、散らかっている部屋を片付ける事にした。

姫様の邪魔にならないように気を付けながら部屋に転がる空き瓶を拾い集め、ゴミをひとまとめにする。

下着を洗濯用の籠へ放り込んだあたりで、ぱたんと本が閉じられる音が部屋に響いた。


「とても面白かったわ」


その言葉に嘘偽りはないらしく、姫様は満足げな表情を浮かべていた。

その瞳を輝かせ、興奮した様子で姫様は語る。


「世の中にはこんな本も存在していたのね、本を読んで面白いと感じたのは初めてだわ」

「えっ・・・」

「王族としての教育とか言って、これまでたくさんの本を読まされたけれど、どれもこれもよくわからない内容ばかりで・・・辟易としていたのよ」

「わかります。私も実家の書斎でこの本に出会うまでは、本というのはなんでこんなに難しいのかと思っていました」


・・・今思えば、あの薄汚い書斎で私がこの本に出会ったのは運命だったのかも知れない。

この本が全ての始まりのような気がしてならないのだ。


私のその発言に姫様は深く頷き・・・


「その点この作品はとても分かりやすいわ、言葉の一つ一つが頭の中に素直に入ってくる・・・この作者は天才ね」

「天才、ですか・・・」

「ええ、100年に一人の天才よ、人類の宝だわ」


・・・力強く断言した。


姫様にそこまで言わせるとは・・・本当にすごい作家だ。

私もなんだか自分の事のように嬉しくなり、少々舞い上がってしまったのだろう。

相手が姫様だという事も忘れ、しばらく話し込んでしまった。


「鏡の向こうに左右が逆になったもうひとつの世界がある・・・荒唐無稽な話だけれど、あの世界には何か引き付けられてしまうものがあるわ」

「はい、私など、あの世界に憧れるあまり家中の鏡に触れて回ったりしました」


いずれかの鏡から向こうの世界に行けるのではないかと、鏡をべたべたと汚して怒られた思い出が甦る。

もちろんそんな事は一度もなかったし、普通はそんな事を試す事もないだろう。

しかしやっている本人にとっては、物語の世界の一部になれたかのような、独特の楽しさがあるのだ。

そしてそれは姫様にも伝わったようで・・・


「それは楽しそうね、私も後でやってみようかしら」

「おやめください、私達の仕事が増えてしまいます」

「ふふっ、それもそうね、ごめんなさい」


そう言いつつも、表情からは試してみたくてうずうずしている事が伝わってくる。

今後しばらくは城内の鏡をチェックすることになるだろう。

そんな事を思いつつ、私はこのあたりで職務を再開した。


「それより姫様、ここに来た理由をお忘れではありませんか?」


私自身「仕事が」と今口にしたことで思い出した、という事は胸の内にしまっておこう。

とにかく、姫様に服を選んでもらうのだ。

手持ちの中からなるべく上等な服を・・・と言っても私の所有する衣服などたかが知れているのだが。


「ふぅん・・・ジスティナはこういう服を着るのね」

「実家にはもう少しあるのですが、ここでは私服を着る機会も少ないので・・・」


私とて、どこぞの田舎娘というわけではない。

実家は隣国でそれなりの地位にある貴族だ、服だってそれなりにある。

しかし使用人として働くにあたり、そう多くの衣類を持ち込む必要も場所もなかった。

姫様付きになった時点で実家から何着か送ってもらうよう頼んではいたが、届くのはもう少し先になるだろう。

決して、おしゃれに興味がないわけではないのだ。


今ここにあるのは、普段着として動きやすさと、長く着られるように丈夫さを重視した地味な服たち。

こんなことなら無理してでも給金で服を買うべきだったかも知れない。

そんな後悔をしながら姫様の様子を伺うと、姫様は真剣な目つきで服を見比べ・・・


「これにするわ、お願い」


と一組見繕って、私に差し出したのだった。

私はそれらをへ目様に着付け・・・る程でもないので、軽く説明する程度に止めた。

幸いな事に私と姫様の体格に差はなく、無理無く着ることが出来た。

姫様は自分一人で簡単に脱ぎ着出来る事を喜んだようで・・・


「便利な服ね、気に入ったわ」

「よろしければ差し上げましょうか?」

「良いの?・・・でもそうするとあなたの着る物が・・・そうだ、代わりに私の服をどれか好きな物をあげるわ」

「はい、姫様のご自由に・・・って、ええっ!」


姫様の服?!・・・ってあの中から?好きな物を?!

・・・姫様のクローゼットの中にあった超高級そうなドレスの数々が脳裏をよぎる。

さすがにそれ以外の比較的安価な服が別に・・・ない、姫様付きとして働いた記憶にそんなものはなかった。

あまりの事に思わず声が震えた。


「そんな・・・よ、よろしいのですか?」

「よろしいのです、ジスティナには色々と無理を言ってしまったもの」

「あ、ありがとうございます」

「じゃあさっそく私の部屋に戻りましょう」


あの服が余程気に入ったのか、上機嫌で歩き出す姫様に続いて自室を出る。

私はすっかり動転していて、すれ違う人々に奇異の目で見られている事など気にする余裕もなかった。


「さぁどうぞ、ジスティナはどれを選ぶのかしら?」


そう言ってクローゼットを開く姫様はさながら天使、いや女神そのもの。

続いて目に入ってきた輝き・・・本来なら一生縁が無かったはずのきらびやかなドレスの数々を前に、私はもうこれ以上ないくらいに真剣に選び始めた。

もう一度言おう、私だっておしゃれに興味がないわけではないのだ。

実家にある衣類とアクセサリの数々を思い出し・・・それらとの組み合わせ、相性を考えながら、なるべく多くのパターンで着れるようなものを・・・上下に分けて使うのはダメだ、生地の質が違い過ぎて浮いてしまう。


「ジスティナには・・・これなんかどうかしら?」


ああでもないこうでもないと悩む私に、そう言って姫様が示したのは・・・

青を基調としたデザインの服で、もこもこの白い毛皮で出来た着脱式のパーツの数々によって季節に合わせたコーディネイトが出来る・・・ただしその分、他との組み合わせの難しい一品ものだ。

パーツをつけるためのボタンもかわいいデザインで、未装着の夏仕様でも申し分がないクオリティだ。


さすが姫様が選んだだけあって、すごくかわいい。

一品で完成する上にバリエーションまで出せるのもありがたい。

更に付け加えると本体の生地が丈夫そうなのが良い・・・せっかく姫様からいただくのだ、出来るだけ長く使いたいのだ。

各パーツも替えや補修がしやすそうだ。

見れば見る程、これ以上の物はないという思いが湧いてくる。


「うん・・・これにします」

「ふふっ、気に入ってもらえたみたいね」

「でも・・・本当にこれをいただいてよろしいのですか?」

「そんなに大事そうに抱えながら言う台詞かしら」

「あっ・・・」


自分でも気付かないうちに私は「もう誰にも渡さない」とばかりにがっちりとそれを抱え込んでいた。


「もう返せなんて言わないから、安心なさい」

「はい、ありがとうございます」

「私が差し上げた、という証明も必要よね、ジスティナが盗んだとか疑われては困るもの」


そう言って姫様はすらすらと一枚の書面を書き上げる。

王族の印をされた証明書だ。

この服が姫様から私へ譲渡された旨が書かれており、この服の名前が『湖畔の妖精』というらしい事を知った。


「さっそくそれを着て見せてほしいところだけど・・・そろそろ昼食の時間だわ」

「では昼食の後、こちらに着替えて伺います」


残念そうな顔をする姫様・・・本当に今日は色々な表情の姫様を見ている。

それだけ姫様の信頼を得たのだろうか。

だとしたら今後はその信頼に応えていかなければならない。


・・・そんな思いを胸に自室へと戻った私は軽い食事を済ませると、その手始めとして自室の清掃を始めたのです。

その後、姫様にいただいた『湖畔の妖精』に着替えた私は姫様の部屋へと向かいましたが、姫様の姿を見る事はありませんでした・・・



「・・・以上が、私の知りうる全てでございます」


激しい緊張で手に汗を握りながら、私は全てを語り終えた。


私の目の前に立っている男は審問官?だろうか。

私から視線を外すことなく、私の発言を一言一句聞き逃すことなく、その手で書面に何かを書き綴っていた。

その人物が何者なのかは一介の使用人に過ぎない私には知る由もない。

だが後ろに見える玉座におわすのは国王陛下に間違いない、その厳しい視線が先程から私に突き刺さっていた。


「して、どうだ?」


国王陛下が口を開いた・・・短く、しかし重々しい声が強く印象に残る。

審問官と思しき男は何枚かの書面を見比べていたが、その発言を受けて口を開いた。


「姫様の供述との矛盾点はありません。件の証明書も姫様本人の筆跡と判明しております。特に疑うべき点は見受けられないかと」

「では、この者が姫を唆したわけではない、という事か」


・・・あの後、姫様は城を抜け出したのだ。


しかし姫様の脱走計画は失敗に終わる。

城を抜け出した所で油断したのか・・・翌日になって「姫様を見た」という通報があったらしい。

発見された時に姫様が「私の服を着ていた」ことから、私が容疑者として疑われたのである。


姫様を言葉巧みに唆して城の外へ出し、共犯者による拉致を企んだ。


罪状はこんなところか。

幸いな事に、姫様の方でも私の無実を主張してくれていたらしく、私の疑いは晴れそうだ。


「しかし、この者が職務をおろそかにしたが故に、このような事態を招いた・・・その可能性は否定できません」

「たしかに・・・」


陛下の目に険呑な光が宿る・・・

どうやら最悪の展開は避けられたものの、何らかの処罰は免れないようだ。

私が目を離した隙に姫様が脱走した事を思えば、これは大きな失態だ。


「故になんらかの処罰は必要かと思われます」

「娘よ、何か申し開きはあるか?」


「ありま・・・いえ」


この期に及んで何も言う事はあるまい、解雇されるのも仕方ない・・・一度はそう思ったのだが。


「私の処罰につきましては何も言うことはありません。ですが、一つだけお願いしたい事があります」

「ほう・・・申してみよ」

「私の部屋に置いてある本を姫様に・・・姫様はあの作者をとても気に入っていたご様子でしたので、是非読んでもらえたら・・・と思いまして」

「・・・それだけか?」

「は、はい・・・それだけ、です」


陛下が念を押すかのように問いかけてくるが、私には他に言うことなどない。

私を射殺すような視線に身体が震えあがるのを感じながら、声を絞り出すように私は答えた。


「ふ・・・自分が処刑されるかも知れぬという時に、そんな事を言うとはな」

「えっ・・・」


処刑?

今、処刑と言ったのか?

返答次第で私は処刑される可能性があったと・・・

気が動転しそうになる私に掛けられた陛下の声は、少しだけ優しい響きを含んでいた。


「この者への処罰は国外追放とする、なお『湖畔の妖精』は姫の証明の通り、この者に所有権を認めよう」

「さすがは陛下、寛大な措置にございます」


審問官の男がホッとしたような表情を浮かべて応えた。

・・・本当に処刑される所だったのか。

後で知った話によると、私の前任者は姫様に粗相を働いた罪で処刑されていたらしい。

他にも姫様関連で陛下の逆鱗に振れた者は数知れず・・・私が就いていたのは相当危険な仕事だったのだ。


『くれぐれも、姫様の機嫌を損ねてはならぬ』


あの言葉に秘められた本当の意味を、私は今更ながらに知ったのだった。



それから数日後。


出国する日を迎えた私は荷物を纏めて城門へと向かう。

身に纏うは『湖畔の妖精』・・・追加パーツを裏返して付ける事で見た目が地味になる優れものだった。

高価な品だからともったいぶらず、出来る限り使っていこうと思っている。

荷物の中に本はない、無事に姫様の元に届けられたらしい。


それがいつになるかはわからないが・・・

近い将来、姫様は必ず脱走を果たすだろう・・・姫様は賢い人だ、同じ失敗は二度と繰り返すまい。

あの時、戯れから見つけた鏡の向こうの隠し通路を知る者は「私達2人以外には」いないはずだ。


そう、私は噓をついた。

姫様が失敗した時を想定して二人で考え話を合わせた。

姫様が動きやすくて丈夫な私の服を着たのは、最初から脱出の為に。

私の服が汚れていたのは、部屋の掃除をしたからじゃない。


姫様と二人で挑んだ城外への脱出行は最高の思い出だ。


 誰 に も 話 す も の か


姫様の元へ届けられたダイアナ・Mの本には「脱出後の合流プラン」が仕込んである。

いずれ必ず、姫様は動くだろう。

その時の為に準備をしよう、私の・・・いや、私達の冒険はもう始まっているのだから。

なかなかひどいタイトルで送る第2話です。

侍女のジスティナさんが奇妙な冒険をしたので、このタイトルで問題はないはず・・・はず・・・

そういえば前作も第2話のタイトルが・・・後に「再び」とかもあったような・・・


ジスティナさんの名前を空欄のまま書き進んだ結果、今回はそこそこの文量になりました。

後から差し込んだので、ひょっとしたら名前の入れ忘れとかあるかも知れません。


そして、姫様の名前はまだ決まってません。

姫様呼びのままでもいけるなって気付きました(何)が、きっと最終回までには決まるでしょう。


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