清純異性交遊
「好きは賞味期限があって、恋愛は消費期限があると思う」
彼女は至って真面目な佇まいで、しかしニヒルな形の唇を作り、そう言った。
斜陽の差す音楽準備室は笑う事さえ許されない様な雰囲気で。それでも文学チックな台詞を唐突に吐く彼女が面白くって、思えば初めて言葉を交わしたのは大嫌いな数学のテストを教師にバレない様にカンニングし合った時だったか、なんて途方も無い事を思い出した。
「そういうことを無闇に言うのは恥ずかしいよ」
僕はすまし顔を作ると巻貝の親分みたいなチューバを丁寧にケースへ納めた。
「あー、あんたは恋愛した事が無いから解んないのよ」
彼女も僕に倣いサクソフォーンを片付けている。無駄のないしなやかな手の動きは見惚れる程で、リードに関しては変態と揶揄われそうだが妙な色っぽさに濡れている気がした。
「僕が恋愛した事無いって、何を根拠に言ってるの?」
「その口振りが何よりの証拠よ。それに、なんというか、パッとしないし」
「……パッとしないのは関係ないだろ!それに僕だって恋愛したことぐらいあるよ」
「はぁぁあああ!?何よその話!あたし全然知らないんだけど!!」
「言う必要がないじゃないか!」
「……あるに決まってんでしょ!パッとしないあんたに惚れる女がどんななのか見る権利を持ってるのよ」
「……意味が分からないよ。それに僕に惚れてる女って何処から出てきたのさ」
「だってあんた恋愛したことあるんでしょう?」
「恋愛したことはあるけど、お付き合いしたことはないよ」
「お、お付き合いって……」
「なんか文句あるのかよ!」
「別にないわよ。でも、好き合ってるのならどうして付き合わないの?あんたもしかしてクリスチャン?」
「僕の家がお寺なの知ってるでしょ!それにクリスチャンだって恋愛はするよ」
「本題から逸れてるわよ。どうして両思いなのに付き合ってないのか答えなさいよ!」
「逸れる様に誘導してるのは君だろ?後、僕は両想いなんて一言も言ってないよ。絶賛片思い中だよ」
「ならどうして恋愛してるなんて言えるのよ」
「一方通行でも恋愛は恋愛だろ!?」
「うわっ、あんたそれ、えー……正直、気持ち悪いわよ」
「君の言った賞味期限云々も相当だと思うけど」
「はぁぁあああ!?あたしのは詩的な表現よ。あんたのはストーカー予備軍の戯言!教科書でも熟読して恋愛について学びなおしてきなさい!」
「教科書に載っている作品なら『山月記』が僕は好きだよ」
「はっ、精々片思いを拗らせてストーカーにならない様に心掛けるのね」
「そんな話じゃないけど……そもそも、恋愛なんて教科書で学ぶものじゃないだろ?」
「確かに一理あるわね」
「……じゃあ、僕はもう帰るよ?」
「待ちなさいよ。ほら、賞味期限や消費期限はあるかも知れないけれど、あたしは蜂蜜みたいなもんだから……だから、その大丈夫っていうか」
「……本当だ、殺菌能力が高いところなんてハニーにソックリだね」
矢張り、恥ずかしい。
清純異性交遊を読んで頂き有り難う御座いました!
前回同様に動画化の企画が進んでいるのですが如何せん素人の、更には烏合の衆なもので小説の投稿の方が先行する形になります。また当分の間は短編を毎日更新しようかと考えております。
@uraki_rekisei
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