3. きっかけ
「タイムカプセル探しに行くのはいいけどとりあえず地図をもっとちゃんと書かないか」
昼休み、佐紀の持ってきたA4用紙のシワを人差し指で伸ばしながら聡一が言う。
あらかじめ予想していた通りである。
佐紀がタイムカプセル堀りに聡一も誘おうと言ってきたので、俺はまためんどくさくなるぞと返しておいた。でも三人の方が探しやすいだろうしということだった。
果たして、聡一はまず、ずっと気になっていたらしい佐紀の描いた神社の図面についてああだこうだと言い出したのである。
「行けばわかるって」
頭の後ろで腕を組んで、鼻下にシャーペンを挟んだまま佐紀がもにょもにょ言った。その拍子にシャーペンが床に落ちる。
この娘は物を床に落としすぎだと思う。
「いや、俺は埋めたことしか覚えてないぞ。だいたいでいいから目星をつけてからにしないと」
「みみっちいこと言ってたら女の子からモテないぞ! 大志を抱けよ少年!」
聡一の背中を叩く。叩く力が強すぎて音がでかい。
バンバン!
大志を抱けは関係ないと思った。
日程の調整がどうのこうの言っている聡一はいつものことなのでそっとしておくとして、はて、その時三人が何を埋めたのか、俺は思い出そうとしていた。小学校の頃だから何かおもちゃとか描いた絵とかだろうか、それともありがちに未来の自分へ宛てた手紙とかだろうか。
ありがちなものを思い描けばその映像をヒントに埋めた時の様子を思い出すかと思って教室の天井を仰いで過去世界へ想いを馳せていたら、大変に間抜けな顔をしていたらしく、頑張って部屋を掃除した後にまだ残っていたゴミクズでも見るような目で佐紀がこっちを見ていた。
俺には何の罪もない。
「なら明後日の土曜日、俺と佐紀は部活が昼過ぎであるから、四時神社前集合な」
ワンダーランドからはっとカムバックしたらいつの間にか日時が決まっていた。聡一がいるとこういう詳細がすぐ決まるから助かる。詳細の詳細を決めすぎる以外は。佐紀がテキトーすぎる分、二人に決めさせるとバランスが良い。
っていうかいつの間にかもう聡一は参加確定なんだね。
「当たり前だろ! 俺が何を埋めたのか、すごい気になる。このままじゃ気になって眠れないからな」
ドヤ顔で言うことでもない。
かく言う俺もタイムカプセル掘ったことなんてなかったから少し楽しみではある。そもそもタイムカプセルってもっと大人になってから開けるもんなんじゃないのだろうか、普通。
土曜日、少し遅れるという佐紀を待って、俺と聡一が神社に腰かけアイスをなめている。聡一は十分前にはもう神社に着いていた。
「なあ、聡一は何入れたか覚えてんの?」
カップアイスを溶けた部分から削り取るようにして食べていた聡一はアイスを注視したまま答える。
「うーん、覚えてないな」
ちょっと意外である。マメなこいつのことだから覚えてると思ったんだけど。
「さすがにね、小学校の頃だからな。佐紀は、何入れたと思う?」
聡一は最後の一口を正方形に造形した後、一気に口に入れた。
「またお守りでも入ってると思うな」
俺が誰でも思いつきそうな推測をすると、アイスの棒を加えたまま、少し間を置いて聡一は言った。
「いや、どうだろう」
当然賛同してくれると思って言ったので俺は少し驚く。そして妙な歯切れの悪さが気になる。
「うーん、俺、佐紀がお守り集め始めたタイミングを知ってる気がする」
「何の話? 気がするってのはまたやけに曖昧だな」
聡一はバイト代を使ってデパ地下で買ったという手鏡を駆使し前髪の角度を気にしていた。今日の体育の授業で日焼けして、おでこに自慢の前髪のラインがプリントされてるみたいになっていたのである。なんとなくいい気味であった。
「いや、最初びっくりしたんだよ」
何に。
「多分だけど、やたら俺のお守り欲しがりはじめてさ。俺がランドセルにずっと付けてたやつだったんだけど」
三人幼馴染で、お互いのことはだいたいは知っていると思っていたんだけれど、そうでもないらしい。わかったような気がしていただけなのかもしれない。たった今、そう、実感した気がする。
「欲しがり始めた? いつの時それ?」
聡一は少し考えて、言った。
「多分、あのタイムカプセル埋めた時からだと思う」
アブラゼミの鳴く声で、聡一の声は少し聴き取りづらかった。