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おまもりアラカルト  作者: 標津ひかり
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1. タイムカプセル

あらすじ

 お守りマニアな幼馴染の佐紀に、ある日タイムカプセルを開けるため三箇国さんかこく神社へ行こうと誘われる。小学校の時、佐紀、聡一、俺の三人で埋めたものらしいのだが、そんなもの埋めたなんて、すっかり忘れていた。何を、埋めたんだったか。おもちゃの類だとか未来の自分へ宛てた手紙だとか、数ある予想は、数日後その全てが外れることになる。タイムカプセルに入っていたのは、ある「契約書」だった。三箇国神社の神様、「シホロ」と、佐紀が交わしたとある契約に、俺は知らず、巻き込まれていたらしい。

 ある学校の帰り道、いつものように三箇国神社を抜けると、境内の隅で数人の男が何かを話していた。


 黄色いヘルメットをかぶった人が一人、何か地図のようなものを持った恰幅のよい人が一人、そして神主さんもその中にいる。

 何か工事でもするのかと思っていたら、案の定で、近いうちその境内の一部を道路工事用に売却するのだという。


「まあ神社自体がなくなるわけじゃないみたいだけど、気になるよね!」


 情報源の佐紀は幼馴染で、小さい頃からあの神社で毎日のように一緒に虫取りをしたものだ。

 いそいそと工事の知らせを持ってきた彼女は「わたし、もうちょっと調べてみるわ!」と言うと放課後も一人でそそくさと帰ってしまった。


 部活はいいんだろうか。


 数日後彼女は、関係者かお前は、っていうほど詳細な情報を持ってきた。


 登校一番、扉を開けてからクラスの他の席で聡一としゃべっていた俺を瞬間で見つけ、途中机を何個か蹴っ飛ばしながら、乱れた机を直しながら、ついでにクラスメイトに謝りながら、その長い足を駆使しまっすぐ速足で向かってきた。

 バラバラと大量にぶら下げたお守りの束が鞄で暴れている。話したくてしょうがないのはもうわかった、だからとりあえず、


 気をつけろ、ゆっくり来い。


「わかったぜ、工事の内容!」


 右手親指を立て、左手を腰に当てたスタイルバッチリなポーズを決めて、いたずらっぽく笑った顔の、真っ白な歯がまぶしい。腰に下がる一段と大きい「交通安全」のお守りが歪だった。


 佐紀は俺と聡一が何かを言うより先に鞄を下すと、たぶん誰も見たことないだろうスピードでジッパーを開け、傷だらけのファイルから少しヨレたA4用紙を勢いよく取り出した。同時に関係ないプリントがくっついてきてバラバラと床に落ちる。


「ああああああっ!」


 意味のない絶叫はともかくそれをまた慌てて拾おうとしたもんだから机の下側に頭をぶつけ、今度は聡一の缶の筆箱がしゅるるるっと小気味良い音を立てて滑走し、机上から射出された。

 スローモーションで流れる映像のその向こうで、聡一の激しくゆがむ顔が網膜に焼き付く。聡一の延ばす手のわずか二センチメートル先を落下していった(聡一曰くちょっとレアな)缶の筆箱は角っこから床に落ち、授業に備えてミリ単位で位置を整えてあったシャーペン消しゴムその他諸々を美しく四方八方に散らした。


「ああああ!! ごめんん!!」


 クラス中の視線を集めた。

 落ちた筆箱は角がへこんだ。


 いつもの平和な朝である。


 机上における缶筆箱の位置を調整する聡一を背景に、佐紀は殴り書きのようなメモをびっしと指さした。


「工事、夏休みからだって」


 何の図を見て書いたんだか、地図みたいなものが描かれていて、神社と書かれたカクカクを横切るようにして、道路らしきラインが突っ切っていた。着工が七月二十五日からと書いてある。


「神社の一部を抜ける道路を作るみたいね。ちょうど木しか生えてなかったところだったから、特に建物を取り壊すとかはないみたい」


「コンビニがある側なんだな」


 神社のすぐ向かいにコンビニ、そこがまた絶好の買い食いポイントである。夏はアイス、冬は肉まんを買って、神社の境内に座って食べるのだ。


「神主さんもだいぶ迷ったみたいよ。工事関係の人、何度も神社に通ってたみたい」


 足を開いて椅子に逆向きに座り背もたれに肘を乗っけて佐紀が言う。スカートが少しめくれている。


 ちゃっと座りなさい、はしたない。


「へえ、道作るんだな」


 机の位置を黒板と平行にし終えた聡一が覗き込んできた。無造作に書き殴ってあるメモを凝視する。このメモを整頓された形式にフォーマットするにはどうすれば良いか、を考えているに違いない。


「聡ちゃん髪の毛にホコリ付いてるよ」


 佐紀が長い腕をすらっと伸ばして指をさす。

 ちょっと高めの美容院(笑)で整えてる前髪に、鉛筆を拾い集めた際に付着したらしいタマボコリが輝いていた。


「なにぃいいい!! くそぉ!」


 声がでけぇ。


 急いでトイレに鏡を確認しに行った聡一はほっといて、佐紀は机に目を落とし、ショートヘアの前髪を指でくるくる回した。

 佐紀が何かを隠しているときの仕草だった。でもちょうど、俺は気が付かなかった。


 そういう土地をめぐるやりとりってなんだか面倒なんだろうなと漠然と思う。しかも神社なんて、神聖な土地がとか、神様がなんとかとか、もっとややこしい話になるんじゃないだろうか。やっぱり何かお祓いとかするのだろうか。したとしても、お祓いすれば大丈夫、ってそんなもんなんだろうか。


 とりあえず休憩の空間と、帰り道に抜ける道がなくなってしまうなら、それは、確かに、残念と言わざると得ない。


 まあ自分には大して関係ないだろう、なんて考えていた俺は佐紀の次の言葉に不意を打たれる。


「あのさ、タイムカプセル、覚えてる?」


「え?」


 タイムカプセル?


 もう完全に忘れていて佐紀には申し訳なかったのだが、俺と聡一と佐紀の三人で、小学校の頃そこにタイムカプセルを埋めたらしい。聞けば、ちょうど道路が横切っていくあたり、神社の土地ではなくなるエリアの木の下あたりだという。


 それでか、と思った。


 ここ数日、佐紀がやたらアクティブに工事のことを知ろうとしていたのは、そこに埋めたタイムカプセルが気になっていたからだったのだ。このまま黙って工事を見ていたら、埋めたはずのタイムカプセルは道路の下敷きになってしまうかもしれない。


 重機で掘り返したときに、もしかしたら掘り出した業者の人が見つけて、神主さんに届けてくれるかもしれないが、可能性は低いのではないだろうか。


 つまり、佐紀が何を言いたかったのかというと、こういうことだ。

 佐紀は俺をまっすぐ見て、明快な発声で言った。


「取りに行こう、タイムカプセル」


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