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天国と地獄

「その袋とったら?素顔の方がいいわよ」


「だめだ。これは脱がん」「どうして?」


「それは……言えない」


「ふーん。そう」


妻には悪いが言えない。素顔で泣かれたらもう立ち直れないと思ったからなんて言えない。俺は男だから好きな女の前ではかっこつけたいのだ。


「よく、寝ているわね」


「そうだな。でも、寝すぎじゃないか?」


「こんなものよ」


「そんなもんか」


「そんなものよー」


妻の間の抜けた声に一応同意しておく。


でも、会ったときから半日以上たってるぞ。いくらなんでも、お腹は空くだろうし、排せつも行わなければいけない。それなのに、一向に起きる気配も泣く気配もない。やっぱりおかしい気がするが……まぁ子供なんて初めて育てるから、何が普通かわからないので、妻が言うようにそんなものかもしれない。うん、納得した。


心の整理がついたので俺の息子になった赤子を眺める。


見たこともない、墨で塗りつぶしたかののような混じりけのない黒一色の髪。平べったいように見えるその顔は珍しい独特の容貌をしている。


でも、そんなことはどうでもいい。大切なのは。


「かわいいな」


「かわいいわね」


「この黒い髪も平たい顔も、かわいいな」


「そうね。でも特にこの白目をむいているのがたまらないわ」


「ああ、その白目をむいている姿も、ってあれ?」


え、おかしくない?赤ちゃんて白目むいて寝るもんなのか。


「白目むきながら寝るのって普通か?」


「普通よ」


きっぱりと言い放つ妻。


おお、そうか普通か。やはり、俺は子供を育てた経験がないから判断が難しいな。しかし、妻は頼りになるな。惚れ直したぜ。


「.....たぶん」


「へ?」





やけに周りがうるさいな。おかげで、目が覚める。一体何だったんだろうか、あれは。


魔力とは違う何かが、しっかりと見えていた。


というより感じ取ったという方が正しいかもしれない。目を閉じても情報は入ってきていた。


考えれば考えるほどあれは《観察眼》とは全くことなるものだということが分かる。それに、急に痛みが消えたこと、これも不思議だ。なにが起こったんだ。


うーん、わからない。もう一回やってみるか。でも、あんな痛いのは嫌だけどなぁ。どうしようかな。と考え始めていたが……


ホントうるさいなオイ。何してんだ?


「うぉぉい! い、医者か?医者なのか?」


「ど、どうしましょう?」


「くそ、医者の所まで一時間もかかる。どうする」


「ど、どうしましょう?」


「おい、息はしてるか!?」


「はっ!」


はっ、じゃねえよ。生きてるよ。俺のことで騒いでいたのか。これ以上何もしないとこの二人、斜め上の思考を始めそうで怖い。そろそろ、行動しないとな。


「あぅ~っ」


「!」


「!」


そんな涙目で見るなよ。悪かったって。元気なことをアピールするために、手をあげてやる。なかなか思うように動かない。よいしょっと。


「うおおおおお!!!!」


おいおい、どったの。急に叫びだして。てか、なんでチェ○ンソー男のまんまなの!?そのせいで、また泣きそうになったよ。


「よ゛がっだ~」


「ホッ」


目が腫れているが安心した表情を浮かべる彼女が俺を抱きかかえる。

奥さん、そんなに抱きしめられるとあんたの母性が俺を押しつぶしてしまうぜ?へっへっ。


「あなたを無くすかとおもったわ」


ぎゅっと、俺を抱きしめながら彼女はつぶやく。


その震える声にふざけていた俺はぴしゃりと冷水をかけられたかのようになる。


「あなたは、もう私たちの子。お願いだからいなくならないで」


強く優しくいいきかせるように彼女は言葉を紡ぐ。


「そうだぞ、これからお前は俺たちと家族になるんだ」


彼も近づいて、そっと俺と彼女をその大きな両手で包みこみ言う。


そっか、そうだったな。生まれもわからない子供を自分の子供のように本当に愛せる彼らだからこそ守りたいと思ったんだ。


あぁもう、最高だぜあんたたち。



最悪だぜ、あんたたち。


俺の安否を確認した後、しばらくの間うざいくらいのキスの雨を降らせていた彼らは


「今から買ってきたミルクでご飯を作るからまっててね」


といって出ていった。


どうやら、部屋にいなかったのは近所に買い物に行っていたためらしい。


ばらくしてから出来た乳粥のようなものを食べさせてもらいながらそれに舌鼓打つ。赤ちゃんの頃は味覚が変わるようで凄くうまいんだよなコレ。


やがて、食い尽くして満腹になった俺はげっぷをさせてもらいながらぼーっとしていた。


すると、食ったら出すという原理に従って意志とは無関係に出すもんを出してしまった。


あちゃ、と思うと同時に泣き出す。だって赤ん坊だもん。しかし、尻に感じる不快感より泣き出す原因がある。それは


「おお、くせー」


「あら、あら」


やっちまった俺をニタニタ笑いながら見るあんたたちだよ!!


赤ん坊だけど十七足す十三で三十の精神を持つ俺としては若かった一回目よりクるもんがあるわけですよ。三十のいい年したおっさん?が強制赤ちゃんプレイでさらにくせーくせーと笑われる。どんな拷問だよ。


しかもこの拷問、おまるになるまで毎日続く。精神崩壊まっしぐらだな。一回目ってどうやって耐えていたっけ。だめだ、思い出したくないのか脳が記憶を消去してやがる。


「くせーくせー。ハッハハ」


そこっ!笑うんじゃない!


ホント最悪だぜあんたたち。




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