鍛えるなら計画的に
叔父さん、叔母さんお久しぶりです。良光です。
お元気ですか。こちらは元気です。今、僕はファンタジーな異世界にきています。
そう、ファンタジーな異世界にいます。いるんですよ、ゴルフばっかしてた叔父さん、宝石と韓流が何よりも好きだった叔母さん。二度と会うことはないだろうけど今までありがとうございました。
あれ、この流れ一回目でやったな。ま、いいや。
とにかく伝えたいことは、この世界が剣と魔法のファンタジーな世界だということだ。
先ほど力をつけることを目標にしたが、今俺は他でもない赤ちゃんだ。普通に考えて力なんてどうあがいてもつくわけがない。せいぜい、あんよが上手になるくらいだろう。
しかし、ここは魔法が存在する世界。科学技術の代わりに魔法が生活の大半を占める。そして、魔法を行使するための力、魔力は誰にでも存在し、なんと鍛え上げることが可能なのだ!
なにをしたいか分かっただろう。ザッツライト。魔力を鍛え上げるのだ。
魔力があれば何でもできる。元気ですかー?
一回目では、魔法の存在に気付いたのが三歳ごろだったから今からやれば前よりも強くなるはず。これで、十三年後もバッチリだ。
ただ、問題がある。この魔力、枯渇するまで使わないと鍛えることができない。つまり、鍛えるには魔法の行使が必要不可欠なのだ。
ゼロ歳児が魔法を使う。ひっそりと陰ながらに家族を守るという目標を早速ぶち壊す事態はさけたいな。困ったな。
なにも、《ファイヤボール》のようなど派手な魔法ばかりではなく、身体強化魔法など傍から見れば変化が見えない魔法もあるにはある。
しかし、身体強化魔法は加減が効かない。
例えば、最大握力が40キロある人が身体強化魔法を10倍になる様かけたとする。
それによって最大握力は400キロとなる。そこまではいい、だが問題はここからだ。この身体強化魔法、力を10倍にしたものの、解除しない限りすべての行動が10倍になり、さらにそれ以下になることはないのだ。
歩く力も常に10倍、ドアを開ける力も常に10倍、箸をもつ力も常に10倍だ。
そんなもん、日常生活に支障をきたす。それに、俺はいま赤ちゃんだ。野を縦横無尽に駆け回ることも出来ずこのベビーベッドで一日を過ごす身である。
で、あるから身体強化魔法で鍛錬を続けていくと、寝返りをうってはベッドを壊し、ベッドの柱を握ったら壊す、夜泣きをしたら近所迷惑の話どころではない。
その度に解除するか?いや、この体いまだ本能に従うためか時々自分でも無意識に何かをしてしまう。
予想が出来ない以上、ON、OFFで対処は無理だろう。
やっぱり困ったな、何か周りに全く影響を及ばさず、目立たない魔法はないかな。
うーん。あ、あった。《観察眼》だ。
こいつも、身体強化魔法の一つだが効果は、視力がよくなることと、魔力が見えることこれだけ。
魔法を強くかけても物や魔力がよく見えるようになるだけであるから、これなら常時ONでも、魔法の強度を強くしても問題はないな。デメリットは入ってくる情報の量によって頭痛がするくらいだ。一度は死んだ身、頭痛くらいなんぼのもんじゃい。
一回目では、戦闘に必要な程度だけ使用していたから、さて強度を上げるとどうなることやら。
とにかく、まずはやってみよう。
集中する。すると、体の中心にある心臓とは別の脈打つものを感じる。そこから漏れるあたたかいもの、魔力ををゆっくりと目へと集めてっと、
よし成功だ。まあ、一回目で慣れているからな。
視界には俺の腕が青い靄のようなものに包まれているのが映っている。
この靄のようなものが魔力だ。魔力はこのように色がついている。この色、俺の場合青だが人それぞれ違う。二人として同じ色を持つ人はおらずこの世界では指紋のように本人確認の手段として用いられている。
また、魔力は体のいたるところに流れているが、魔法を行使するための魔力はかなりの量を必要とするため先ほどのように魔力の源泉からくみ上げなければいけない。これが、うまくできない人は一生魔法を使えないのだ。もっともそのような人はめったにいないが。
目に集中する魔力を強める、次第に単なる青に見えていたものが、少し赤や緑が混じっていることが分かる。魔力がよく見えている証拠だ。
さらに強める、もっと、もっとだ。
強めれば強めるほど情報量は爆発的に増え、脳に与える負担が増していく。頭痛がしてきたが、火あぶりの時ほどではないなと、痛みをねじ伏せる。強めた≪観察眼≫はいまや細胞の一つ一つから魔力が立ち昇っているのが分かるほどまでになっている。
ん?思ったより魔力があるな。まだいけるか。
予想より長く続けられていることに驚きながら、さらに。そして、どれだけ魔力を注いだか分からなくなったとき、一瞬にして見ていた世界が変わる。
「ギ、ギギギ__ィア゛ア゛」
頭がとんでもないほど痛み出す、脳に無理やり何かを詰め込まれているのを感じる。
さっきまでの情報量をはるかにしのぐ情報が流れ込んだために脳の負荷が限界を超えたのだ。
目を閉じろ__。おもわず情報を遮断するため目を閉じる。が、激痛は止まらない。瞼を越えて情報は入ってくる。
なんだこれ。
集中力はとっくに切れているはずだが魔法は展開されている。目を閉じても止まらない痛みに俺は必死に魔法を解除しようとするが、激痛と情報の濁流にのまれ上手くいかない。そうしている間にも暴走を始めた魔法はその威力を高めていく。
目に映る、自分の腕だけじゃないすべてのものを形作る何かが存在を俺に訴えている。
部屋にある木が、鉄が、水が、空気が、すべてが同じものではないと明確にわかり始める。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
耐えられない、もう、やめてくれ!!!!
与えられる痛みと情報が頂点に達し声にならない叫びをあげる。
『__い適化を_始しま_』
『術式___者補助を展開。開始します。アラストル体確認。以後タイプAと呼称します。タイプAの脳機能に最適化。確認。成功。続いてタイプAに思考パスを接続。確認。成功。並列思考開始します。確認。タイプAの人格に変化なし。成功。《分析眼》の最適化を終了します』
痛みが、引いていく。魔法が解除されたのか?違う、見える世界は変わらない。
いや、変わっているといった方がいいのか。目を向けたものの、すべてが何かで構成されているのが見える。魔力ではない。
なんだこれ?触れようとすると再び視界が変化する。今度は暗転だ。あ、これ、魔力切れだわ。
理解した瞬間意識が闇の底へと沈んでいった。