まずこれからをかんがえよう。俺TUEEEE?却下だ
目が覚める。窓から見える太陽は空高くにあることから、今が昼間であることが分かる。
太陽を見て細めていた目をまわりへと向け誰もいないことを確認する。
———俺は、死んだんだよな———
確かに死んだ。思い出そうとすれば、はっきりと思い出せる。
自分にまきつく縄の感覚、身をあぶる炎の熱さ、俺を見る人々の目。
そこでされたこと、そこで感じたこと、思ったこと。体感時間ではつい先ほどまでのことであり、忘れられそうにもない記憶。それが、確実に死んだという実感をもたらしている。なのに、だ。
死んだのに生きてる。この不可思議で矛盾した現状を一発で説明してくれた自分の腕を見る。
まるまるっとして、皮ははちきれそうなくらいに張っている。しかし、手首を少し動かすと深いしわが現れることから相当な柔らかさをもっていることが窺え、しみや傷が一つもない肌は女子がうらやむ柔肌で健康的な色をしている。
うん、プニプニだな。
つまりなにが言いたいのかというと、この腕は赤ちゃんの腕そのものだということだ。
えぇっ、なんで赤ちゃんの腕が?最初にこのことを理解した人はまずこう思うだろう。そしてパニックになる。
だが、俺は違う。なぜなら、これが二回目であるからだ。
果たしてこの世界が一回目と同じ世界かどうかははっきりとわからないが、先ほどの男女をみておそらくは同じだろうと見当をつけている。
さらに、この俺もともとこの世界の人間ではない。
俺は<過去>において加賀 良光と呼ばれていた。
日本国籍の十七歳。彼女いない歴一応十六年と七か月。夏休み中に一気に何もかも失い、泣きながら死んだ。
死んだ死んだと思っていたら今俺がいる状況とまったく同じ経験をする羽目になった。
時系列的には、そっちの方が過去であるから少しややこしいな。
そのときは当然取り乱したわけで、この体の感情をセーブしにくい特性も相まってわんわん泣いたっけか。それはさておき。
というわけで死んだと思っていた俺は赤ちゃんの腕を持った、当然赤ちゃんとなっている。そして、そこから導き出される結論はいわゆる死に戻りで現状二回目の異世界転生中だということ。
———さて、これからどうするかな———
では、ここで質問。前世が不幸で冴えない少年×異世界転生=?
はい、答えは俺TUEEEEです。
<過去>において読んだラノベの数々は異世界転生もしくは転移した主人公が特殊能力でばったばったと敵をなぎ倒し、かわゆいヒロインとハーレム一歩手前まで行くのが大抵だった。
当然それ以外も少なからず在ったのだが、最終的にはヒロインに好かれたりなんなりで幸せになっていた。
じゃあ、俺TUEEEEするか?答えはNOだ。
一回目において転生していることが分かった俺はラノベ知識をフル活用し、俺TUEEEEを目指した。で、実際なったし、俺TUEEEEEEEぐらいまで行ってたと思う。
しかし、結果このザマだよ。家族とまではいかなくても親しみを持っていた人たちに裏切られ殺されるというバッドエンド。なんで?
火あぶりにされている中、出なかったこたえは冷静な今だからこそわかる。
———俺TUEEEEEEしすぎた————
頼られるのがうれしくて、力を誇示するのが楽しくて安請け合いにホイホイ問題を解決することは人の役に立っているようで立っていなかった。
なんでも解決する存在は、人々が外敵や問題から身を守るために行ってきたことを無意味にしてしまった。そうして、思考することをやめた人々は二度と元の生活に戻ろうとはしない。
だから、その生活を続けさせてくれる方を選ぶ。簡単な話だ、あいつに負けた時点で俺の利用価値はなくなった。それだけ。
友達とか、仲間とかは俺を縛り付けるための鎖でしかなかった。かけられた言葉も向けられた表情も、全部全部。
はは、笑いしか起きない。<過去>で散々な目にあったのに、異世界なら違うと思った?馬鹿馬鹿しい。どの世界でも人は人。自分と他人とをメリットデメリットでしか推し量れない存在。
わかりきっていたことだ。もう、絶対に他人を信用してなるものか。
___ただ、彼らは違う。初めてできた家族。彼らだけが最後まで俺を愛してくれた。彼らだけはこの世界で唯一本当の言葉と表情を与えてくれた。だから。
———だから。俺はこの世界で彼らを幸せにする——
あ、でもなるべく表立って活躍はしたくないな。
この世界ではどんな力であれ、力あるものは周りにその使用を強制される。
一回目で嫌というほど学んだことだ。なるべく、ひっそりとだけれど彼らに降りかかる災難をすべて吹き飛ばせる存在になる。結構難しいな。
けど、やると決めたからにはやろう。それが俺ができる精一杯の恩返しだと思うから。
そうと決まったらこれからの計画を立てるとするか。この世界が全て一回目と同じように物事が進むなら、十三年後村が襲われる。一先ず、ソイツを回避しないとな。
よし、とにかく力をつける。まずはそれからだ。