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困ったら自爆しよう。なんとかなるよウィング。

待っていた方、そうでない方、更新再開します。ホント遅くてすみません。ほかの作品も勢いで書いちゃったので修正してからまた投稿します。

降参して退場したものもいるようだが、大抵は死んじまって予選どころからこの世から退場したものばかりだ。気絶したものも容赦なく殺される。残りの人数も少なくなってきた。


その分この戦いを勝ち抜いている猛者どもが目立ち、闘いは収まるどころかむしろ激しくなっている。

あちらこちらに魔法や、身体強化魔法で底上げされた剣戟が舞う。


気を抜いていたら流れ弾に当たって死んでしまうな。


俺は戦闘を避けるために逃げ回ることにする。あの四人との戦いで図らずも能力を使ってしまった。

おかげで俺の魔力がごっそり持っていかれた。


「くそっ」


来てほしくないときに敵は来る。逃げ回る俺を鴨だと思ったのか、また野郎が現れる。


すかさずカードホルダーからスクロールを取り出す。スクロールも無限ではない。さらにはこんなことになるとは思っていなかったことから、もともとそんなに作っていなかったのだ。残りは少ない。


「おらっ」


数少ないスクロールを投げる。


野郎が詠唱魔法を使う。男から魔法の風が生み出された。

風はいともたやすくスクロールを切り裂く。


術式魔法は電子機器がそうであるように回路切断に弱い。回路が切断され、術式魔法が不発に終わる。


「もったいない」


手作業で作るから大変なんだ。

戦闘中ではあったがスクロールが無駄になるのを見て悲しくなった。


すると、また魔法。俺に向かって飛んできた風の刃。

近くに落ちていた誰のものかも知れぬ剣で俺はこれを防ぐ。


ガィィィィン。


耳を貫くような金属音が響き、俺の持っていた剣が砕けてしまった。

いくら魔力を流していないとは言っても鋼鉄を斬る鋭さに、目の前の野郎が今までの奴らより強いことを認めざるを得ない。


そんな風に招かれざる強敵を苦々しく思っていると。


詠唱魔法で風の刃を放ち、つづけて風の羽を得て加速する野郎。


「連続発動!?」


奴が使ったのは「連続発動」。魔法を放った後に、間髪入れずに魔法を放つ技術である。

最初の魔法のイメージがのこっていると、不発に終わることが多いため難易度の高い技だ。

それを実戦で使ってくるなんて。


き、緊急離脱っ。


無理だ。スクロールを使おうとしても、また斬られる。つづく野郎との肉弾戦も、俺には不利だ。


そう思って足に力を籠めるが、うまく魔力が流れない。


まさか、あの時に


大男を助けに行くとき、あの時に無理をして足に異変が生じたのだ。このままでは奴にやられる!!


「ちくしょう!!」


己の後先考えぬ行動に、絶叫する。

そして、本日三度目の能力発動。


「≪無効化レジスト≫!!」


「なに!?」


逃げられぬ俺に勝利の笑みを浮かべていた顔が急にこわばった。


「俺の魔法が……」


風の加速を受けていた男のスピードがガクンと落ちた。その目の前を先行していたあの鉄をも斬る風もいつのまにか消えていた。


「貴様っ……一体なヌン」


ドサリ。


理解不能のことに俺を問いただそうとする野郎に、小石を叩き込んでやる。四人と同じように野郎は気絶する。ナムサン。精々気絶者狩りに目をつけられないよう、ケツに白旗をぶっさしてやる。退場はできるだろこれで。ただしその後に野郎が野郎にナニされてもしらないが。


「計画が狂いに狂いまくっているよ……俺も白旗上げよっかな。あげちゃったけど」


能力を使わないはずが、使いまくっている。自慢の逃げ足もこのザマだ。


それでも、来てほしくないときにあらわれるもんだ……。


「兄ちゃん。手合わせと行こうか」


勘弁してくれ。

俺は対人にはめっぽう強いがそれは一対一の時であって、こんな乱戦の中では精々中の上ぐらいだろうということを痛感していた。まったくティアの奴は……。

でも待てよ……よくよく考えれば生き残りさえすればいいんだよな。そういうことならこうやってわざわざ相手にしなくても。

あぁなんで気が付かなかったんだ。カッコつけて「全員相手してやるぜ」と意気込むのがまずかった。

少し特殊な力があるからといって過信は禁物だよ、ホント。


「おい!!」


突然声を上げた俺に相手は驚く。一瞬とも呼べないような瞬間の動揺。だが俺はすかさずスクロールを投げていた。


「フラッシュ」


相手が身構えた時にはもう遅い。ぼそりと呪文を俺がつぶやくと、周囲が凄まじい爆音と閃光に包まれた。

動かない足。カツカツの魔力。もう、継戦能力はないに等しい。なら、闘わなければいい。

俺は「眼」があるので平気だが、フラッシュバンを模した術式魔法はそこらにいる剣闘士たちの平衡感覚を根こそぎ奪っていくだろう。その間に俺は地面にでも潜って息をひそめておくかな。地面に穴を掘るべく、手のひらを下に向けた時。


「眼」がそれをとらえた。


奇跡的に無意識から俺は地面に向けていた右手でそれをガードする。

今日一番の衝撃が闘技場に走った。闘技場の観客席がどよめく。


「すごいねアンタ」


衝撃による砂煙が晴れた後。俺にたたきつけられた身の丈ほどもあるハルバードの後ろには妙に人懐っこい狐の仮面があった。


「お前!!」

「ん~。タイミングは完ぺきだったのになぁ。アンタ全然強そうに見えないのに。それにコレ」


驚く俺をよそに狐の女はハルバードを受け止めている俺の腕を見る。そこには石英に包まれた右手があった。


「見たことない魔法だよね。結晶化?」


のんきにしゃべりながらも女は力を緩めない。むしろ力を込めてきた。先ほど痛めた足が悲鳴を上げるが、身体強化魔法を必死で施しこれに耐える。俺の腕とハルバードの間に火花が散った。


「さっきの戦いもさぁ見てたよ。不思議だよね相手が急に魔力切れなんて」


ハルバードが不気味に光る。


「くっ」


女の会話に付き合えるほど余裕はない。彼女は今、身体強化魔法以外の魔法を使っていない。そして俺の能力は生体には効かない。

つまりこの状況を打破するにはこの鍔迫り合いに打ち勝たねばならない。

しかしこの女。メッサ強ぇ。


さらにまずいことに、腕を覆う石英が嫌な音を立てている。石英は下手な鉄より硬い。だが、これはあくまで単純な硬度であって、石英やダイヤモンドのような結晶は衝撃に弱いという特性がある。この女の最初の一撃。あれでだいぶやられたようだ。すぐにでも砕け散ってしまいそうだ。

再構成しようにも相手が少しとはいえ時間を許してくれるだろうか。


これ以上の鍔迫り合いは不利と考え、一旦退こうとするもあっちはグイグイくる。

仕方ない。


「くっ」


苦渋の決断だったが、俺は自分の腕を爆破した。

身体強化魔法でただの生身よりはダメージは減ったが凄まじい激痛が俺を襲う。

しかし効果はあった。


爆破したのは俺の腕とそれを覆う石英のほんの少しの境目。がたが来ていた石英はその内側からの爆発に耐え切れず霧散。ショットガンのようにあたりに飛び散った。


「!!」


突然の攻撃に女は大きく飛びのく。

その隙にすかさずスクロールを投げる。


「フラッシュ」

「させないよ」


だがスクロールの効果をおそらく知っているのか、女は飛びのいてすぐに攻撃に転じた。俺に迫りながら投げナイフを投げるとスクロールを切り裂く。恐るべき判断力と命中精度。全く忌々しい。

俺なんかとは比べ物にならない身体能力で彼女は駆ける。念のために大会が始まってからあちこちに仕掛けていた地雷型スクロールが起爆させるが、あまりの速さに爆発したときには彼女はその場にいない。


「おいおいマジ?」


身体強化の恩恵による自然治癒能力の高速化はあるものの、足と右手は使い物にはならない。スクロールもダメ。どうする?考えろ。

周囲を爆破させるか?石英でいっそのこと全身を覆うか?

俺が必死に頭を回転させている間に無情にも彼女は迫る。もうすでに時は遅かった。女はハルバードを振りかぶり、つぶやく。


「ごめんね」


あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁあぁ!!!!


何故だか悲しそうな声で彼女が死を振り下ろしたその無慈悲で残酷な攻撃は。


「なんで?」


何故か、あっけなく空振りに終わる。憂いから一転。間の抜けた姿勢で硬直する彼女にすぐ横から俺は待ってましたと叩き込む。


「≪爆発イクスプロージョン≫!!」


地を揺らす轟音がとどろく。その爆風は大量の砂を巻き上げ、視界を埋めつくす。そんな大爆発を至近距離で受けた俺は情けなくもぶっ飛び、闘技場の壁にぶち当たった。


さらなる痛みに声を上げようとするがもう気力は残されていない。足に、手、全身打撲。動けすらしない。ずるずると重力に引かれ、壁を背にうずくまる。

参ったな……。もう戦えない。あの女を倒しても他の奴がいる。畜生ティアのやつ絶対許さねぇ。あと白旗上げちゃった過去の俺にも腹が立つ。後悔してももう遅い。せめて今はある程度回復するまでに誰も来ないことを祈るだけだ。

そう思いながら「眼」で周りを確認する。


(だいぶ倒されたみたいだな……。周囲に反応は少ない……いや待てよ!この反応。そしてこの方向は!!)


はっとして目を向けるとそれが砂煙を切り裂いてやってくる。

ズタボロの服に、よほど丈夫なのかあの爆発の中ひび割れだけで済んだ仮面。

より肌の露出が増えたため彼女が確かに女だと感じさせる柔肌が見えていた。胸はやはりさらしを巻いていたようだ。二つのふくらみが窮屈そうにしている。

状況が違ったなら万歳したくなるその恰好。


だが、ひび割れた仮面から見える眼光と肩に担いだハルバードがこれは殺し合いであることを示していた。


あぁ死ぬのか。人生三度目の最後の光景がさらしかよ。火あぶりよかましか……だけどなマニアックすぎるよ。俺にはまだ早い。だからまだ死ねない。


「くぅぅぅぅぅッ」


体をほんの少しだけ動かしても痛い。それを奥歯を砕きそうなほど歯を食いしばり耐える。

魔力はある。だったら今度こそこの一撃で。

さっきは殺さないように手加減した。だけど次はもうしない。

自分を殺そうとする相手に二度もお慈悲をやるほど俺は優しくない。

だから先に言っておくよ。


「ごめん」


奇しくもそれは彼女と同じ言葉で。あの悲しそうな声を出した時、彼女もこんな気持ちだったのか。

だとしたらこんなところで出会わなきゃ、またべつの関わり方もあったんだろう。


「はあぁぁぁ!!!!」


だけど迫りくる彼女に向けて俺は指をさす。


「……奪え」


彼女が近づく。俺はその顔をじっと見る。忘れないために。

目的のため、正当防衛のためとは言っても俺が殺す相手。

素晴らしかったか。悪夢だったか。あんたにどんな人生があったかは知らない。

だけど殺すことはその人のすべての可能性を奪うことだ。それを俺は痛いほどわかっている。

だから俺はあんたを忘れない。

あんたの人生を奪っても、あんたが生きていたっていう事実は奪いやしない。

それで何の罪滅ぼしになるかは分からない。

でも、大切だと思うから。


仮面から覗く以外にも優しい目。

それを脳に焼き付けながら続く呪文を俺は唱える。


「強欲なる炎、第七の呪文!!」


そしてその声は。


大きな銅鑼の音にかき消された。



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