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量産型っていうのはザ○のようなものをいうのさ。ゲル○グは違うよ

「お前が言うのかよ!!」


男は思わず叫んでいた。そして、あっ、という顔をして、申し訳なさそうに押し黙る。


再び降りる沈黙。


次に静寂を破ったのは、タインであった。


「がはははははっ」


馬車の屋根を突き破るかのような爆笑。彼は笑いながら男の肩を叩く。戦士である彼に叩かれるのは相当痛いようで、男は顔をしかめる。


「ははは、あんたが人間不信だからって何故奴隷を買うんだ?お前バカだろ?」


にやにやしながらタインは語り掛ける。彼がその傷だらけの顔をにぃっとゆがめるとそれは恐ろしい。その顔を向けられている男は気が気でなく、返答することもままならない。


「タインの言う通りさ。あんた旅人だろ?そもそも人間不信なら旅なんかせず、一生田舎で暮らしたらいいのによ」


「それは、ご主人様は人探しをしておられて、そのために私を買い、旅をしているのです」


綺麗な正座をしながら、メイド少女がタインとルーカスの問いに答える。


「……なんでさっきからお前が言うんだよ」


憎らし気に男がつぶやくが、それを鼻で笑う。


「だって、ご主人様なら無理でしょ?説明するの。対人関係のために私を買うほど会話能力が致命的ですものね」


「……」


男は再び押し黙る。タインらはこの男がかわいそうになってきた。


「なるほど。会話を成立させるためにだけ、この嬢ちゃんを買ったと……お前やっぱバカだろ?」


結局のところそうなのだ。誰が普通わざわざ会話を成立させるために大金を使うか。こいつは常識の「じ」の字も抜けている、ねじのとんだバカな奴だ。タインはそう思った。


「そんなにしても、探したい人って誰か知ってんのかいお嬢さん」


タインと同じ結論に達したルーカスは直接少女に尋ねる方が早いと悟る。


「……さぁ?」


少女の答えは肩をすくめることだった。


「知らないのかい?」


「教えて下さらないので」


ルーカスは少し興味がわいてきた。


「おい、兄ちゃん教えてくれよ」


尋ねるが、男は視線をそらし、「あっ」とか「えっと」だとかいって一向に話にならない。時折少女に視線を投げかけ助けを求めている風だが、無視される。

三度の沈黙。男の顔からは冷汗が流れ、尋ねたルーカスは段々いたたまれなくなってきて質問を撤回しようかとすると。


「幼馴染だそうです」


「早く言えよ!!」


少女があっさりと答え、男が怒る。完全に遊ばれている。見ていると、男は少女に対してははっきりとものを述べられるようである。立場が上だからか……いや、この様子を見る限りその理由はないなとルーカスは思った。思考を切り上げ、質問に戻る。


「幼馴染?」


「なんでも連れ去られたとかで」


「へぇ~なんだかおとぎ話みたいだな」


使い古されたストーリーだがロマンがある。子供のころはこういった話に胸をときめかせたものだが、今の自分は果たして子供のころ思い描いていた自分になれているだろうか。


「えぇ。さしずめご主人様は囚われの姫を助ける王子様(笑)というところでしょうか」


「いま(笑)ってみえた、絶対見えた!!」


男が狭い馬車の中、立ち上がって向きになって叫ぶ。なんだかどちらが主人かわからなくなってきた。珍しいものを見るかのように三人は二人のやり取りを眺めていた。





「俺の名はルーカス、でこっちがタイン、それにあんたと同じで会話が苦手なのが、ベルン」


ひとまず男の癇癪も収まり、ルーカスらは自己紹介を始めていた。呼ばれた者たちは片手を軽く上げ返事をする。


「私はティアと言います。御覧のようにご主人様の身の回りの世話をしております……なんですか?」


少女が自己紹介をするが、男がそれを引き留める。

それをいぶかしがる少女の耳に口を寄せささやきかける。


「あほか!知らない人に簡単に名前を教えたらだめだろうが!!」


「せっかく乗せていただいているのに名乗らないのは失礼ではありませんか?」


「そうだけど」


「ご主人様、ご主人様はこうも習いませんでしたか。人にお願いをするときは礼を尽くしなさいと」


「……そうだけどわざわざ名乗らなくても、偽名でいいじゃないか」


「別にやましいことはしていません。何故偽名を名乗るのですか」


「なんていうんだろ……やっぱり日本人としてそれはどうかなって……」


それ以上は言葉にならないようだ。説得では効果がないと、次にその黒い瞳をうるませ情に訴える作戦に切り変える。


「訳の分からないことを」


しかし、少女、ティアは強引に話をやめる。なおも男は食い下がるがティアは止まらない。ルーカスらに向き直るとしつこい男の首根っこを押さえつけ紹介を始める。奴隷が主人に手をあげる。信じられないことだ。その際抵抗した男のターバンから、黒髪が見えた。


黒髪? ルーカスらは不思議に思う。この広い世界で黒髪など見たことも聞いたこともないからだ。染めれば黒髪になるかもしれないが、不吉の色に染めるなんて、やはりこいつはどこかおかしい。


「そして、こちらが私のご主人様である、アナン様です」


「ぐえっ」


悲鳴をあげて男が返事をする。


「私たちは、先ほどのご主人様の幼馴染の方を探す旅に出ております。今回はこの先にある村に泊まりたく、同行させていただくことになりました」


説明している間にも、ティアの腕には力がこもる。

「ギブ!!ギブ!!」男が叫ぶが、煩わしいとさらに力を籠め(物理的に)黙らせてしまった。

痙攣していることから死んではいないのだろうが、何から何まで常識外れの二人である。その一部始終を見ていたベルンの血の気が失せた。もともと青白い顔であったがますます蒼白になった。


「そこの伸びてるご主人。仕事は何してんの?」


「武器職人です」


「鍛冶屋か。そりゃぁいい。もしよければ俺らの得物を見てもらえないかい」


男の荷物は鍛冶道具だったわけか。魔物との戦いを前に鍛冶屋と巡り合えたのは運がいい。若干人間性に不安が残るが、こんな上玉を買えるぐらいの資金があったってことは相当腕がたつに違いない。


「おっ、そいつはいいなルーカス。馬車賃ってことでさ」


「えぇ、かまいませんがご主人様はお眠りですし」


困ったというように頬杖をつき嘆息する。お前がやったんだろという言葉を辛うじて飲み込み、ルーカスが提案をした。


「なら、そこのご主人の打ったものがみたいな」


「かまいませんよ」


二つ返事でつぶやくと、ティアは男の背負っていたトランクを強引に下ろす。物のように扱われた男は馬車の隅に放置される。隣のベルンがもう紙粘土のようにくしゃくしゃになった顔でティアをみる。


「なにか?」


視線に微笑みで返す。ひっ、とベルンは声を上げ鼠のように縮こまってしまった。

ありゃだめだ。繊細なベルンはこの異様な出来事の連続にパンクしたのだ。せっかく先ほど気を利かせたことがぱぁになってしまった。これでは儀式もへったくれもない。ベルンはもう戦闘で役には立たない。

この二人を乗せたことはやはり間違いだった。ルーカスは後悔するがもうおそい。

せめて武器だけではいいものであってくれ。そう願わずにはいられなかった。


「見せるといっても、これしかないのですが」


男の背丈ほどもあるトランクから取り出したのは一本の棒に見えるものだった。


「ん?火筒か?」


武器に詳しいタインが首をひねりながら尋ねた。


「いいえ」


「しかし、それ以外にこいつは……」


タインでもわからない物か。ルーカスは改めてティアがもつものをしげしげと眺める。

長い全長。棒は七三の割合で、緩く湾曲した部分と、おそらく持ち手によって構成されていた。持ち手の部分は滑り止めのためか、糸が巻かれている。ところどころに金属の装飾が見え、その見事さからどうやら男の腕は確からしい。

この棒は丁度金属板によって七三に仕切られており、その金属板も見事に装飾されていた。

一方、緩く湾曲した部分。特殊な塗料を塗ってあるのか黒一色に染められ、あまりの滑らかさにこちらの顔がうつりこむほどだ。

美しい。素直にそう思ったが、これが武器だとは到底思えない。ただの、目が飛び出るほど高いだろう用途不明の芸術品にしかみえない。


「持たせてくれないか」


見ているだけではわからないと、タインが申し出る。


「どうぞ」


その美しい芸術品をあっさりとティアはタインに渡した。

タインはてっきり断られるか、承諾してもらえたとしても手袋をはめろなど言われると覚悟していたので拍子抜けした。


「おっおう」


戸惑いながらも受け取る。


手に取るとわかった。結構重い。ずっしり、というほどではなかったが、想像していたより重かった。

タインは持ち手の部分を握る。するとさらに分かった。


「こいつは」


タインは持ち手を握ってから、感じたままに手を動かす。途端に一体だと思っていた「棒」が金属板を境に分離を始める。と同時に隠れていたこの「棒」の正体が分かった。


「すげぇ……」


タインの腕には光が握られていた。馬車の中の薄暗い明かりの中でも鋭い光を放っている。薄く、それでいて強さを感じさせるそれは


「……剣」


「はい。ご主人様が言うには刀、と呼ばれるものらしいのですが」


ルーカスのつぶやきにすまし顔でティアが答えた。


「すげぇ!!すげぇ!!」


タインは興奮してきた。彼は今童心に帰ったかのようにはしゃぐ。彼の手に握られているのは、彼が今まで握っていたどの剣よりも、繊細で、奇抜で、力強く、美しい。

興奮しないわけがなかった。


「刃は片刃か……薄いが力強さを感じるのは何故だ……そしてこの波のような模様、何から何までわからない」


「おい。俺にも持たせてくれ」


夢中になるタインの姿にルーカスも我慢ならなかった。


「いやだ。もう少し待て」


剣を守るようにしてルーカスに背を向ける。


「くそっ。このガキが」


ルーカスが馬を操りながら毒づく。


「なんだと」


たまらずタインも喧嘩を買ってやろうとする。

馬車内には殺気が充満する。チームではあるが仲間ではない。人間関係に苦労するのも利益のためだ。もともとは血の気の多い連中であるから、ひとたび均衡が崩れると一触即発なのだ。

この場を収められそうなものはいないかのように見えたが。


「どうぞ」


「えっ」


ルーカスに差し出されたのはタインが持っているはずの剣だった。思わずタインを見るが、タインは剣を持っており、ルーカスと同じく目を丸くしてこちらを見ていた。


「こいつは一体」


答えを求めてティアに二人は視線を向けると、さらに目を疑った。

あの芸術品レベルのものが彼女の手にさらに二本も握られていたからである。


「一点ものなんじゃ……」


「いいえ。それは量産品です」


バッサリと切り捨てられる。

量、産、品……彼らのなかの量産品という概念が粉々に砕けた。

こんなものを量産品と言ってのけるなんて……頭がおかしいとかそんなレベルじゃなかった。唖然とする彼らに、ティアは微笑んだ。


「試し切り……なさいます?」





馬車はいったん道を外れ停車する。

馬車からは人影が三人降りた。その三人は森の奥へ行ったがしばらくすると戻ってくる。人影の内二人は疲れ切っていた。


「うそ……だろ?芸術性もありながら、実戦にも使えるだと!」


「こんなに細いのに、魔力を流しただけで大木が一刀両断なんてな」


二人とも涙声である。よほどのショックがあったに違いない。しきりに手に持ったものを眺め、ため息をつく。


「量産品ですが」


「ふぐっ!!」


一つのつぶやきが二人を貫く。彼らの中の常識が完膚なきまで撲殺される日は近い。





「で、いくらだい?こいつは」


緊張した面持ちでタインは尋ねた。ルーカスもごくりとつばを飲み込む。剣と言えば平均相場が三十万ギル。量産品と言えどもこれほどの出来だ、百万はくだらないはずだ。かなり高いが、試し切りをした彼らはこれがたまらなくほしくなっていた。

幸い相手は奴隷で、その主人は伸びている。強引に値切りをし、先に購入してしまえばこっちのものだ。しかし、元がとびっきり高いと強引に値切りしても手の届かない可能性がある。このチームの残金はたった七十五万ギル。この残金だと百三十万ギルまででないと、そこまでの値切りは難しい。

また、そうなるとどちらか一方しか手に入れられないのでタインとルーカスの間には火花が散っている。

どちらが値切りをうまく進め、七十五万になったところで先に購入するか。

そして、競争に負けたとして、どうこの金を守るか。これがなくなれば一文無しである。

かくして、ティアの言葉を開戦の合図として待っているのであった。


そしていよいよ開戦のラッパがならされる。


「十五万ギルです」


ラッパじゃなかった、砲撃だった。まさかの伏兵。

彼らのコモンセンス号は出航を待たずして、撃沈。海底に沈んでいき水圧で原型がなくなるまで圧縮される。それを深海魚がつまみ、さらに消えていく。


「……」


「あっ、同乗させていただいているのでさらに五万ギル値引きいたしまして、十万ギルでどうでしょうか」


沈黙を抗議と受け取り、連続して砲撃。十万ギルって、それ、最安値でも聞いたことないわ!!

艦長、奴はわれわれの心をどれだけ壊せば気が済むのでしょうか。


二人はこの日、成人してから初めて世界の広さに泣いた。





「ん~あれ?もう着いたの?」


「はい」


俺は伸びをして尋ねる。こいつに気を失わされることにはもう慣れてしまった。それもどうかと思うのだが、最初はもっと優しかったはず……何がどうしてこうなった。

馬車の固い木の板で寝たせいか、こわばり痛む体をもみほぐしながらあたりを見回す。

着いた、とさきほどティアは言ったが、相変わらずの森だ。夜明けのようで、橙の光が森の木々を地平線から赤く染め上げている。


「着いたって、森じゃん」


「ですから、ここが目的地です」


俺のトランクを横にして、その上に座りながらティアが答える。おい、そこに座んな。

抗議の目を向けるが、降りようとはしない。むしろ感謝しろといって胸を張る。


「はぁ?なに胸張ってんだ。そんなことしてもないものはn」


視認不可能、回避不能の一撃が腹に決まる。衝撃が背中を突き抜けていくのを感じ、肺の空気が一気に出る。


「がひゅっ」


抜けた空気が声帯を不自然にふるわせ、音が出る。それからたまらず地面を転げまわり、悶絶する。


「いってぇ~~~っ!!」


えっ?何?何されたの。もしかして殴られた?まだなんも言ってないのに、ご主人なのに?疑問と激痛が交互に襲い目がちかちかする。必死に耐えていると、収まってきた。咄嗟にかけた回復魔法が効いたようである。


「なにすんだ!!」


痛みがある程度収まったので文句をいう。言わせてもらう。


「いえ。ご主人様が私に感謝もせず、暴言を吐かれるので少し……」


申し訳なさそうにティアがうつむく。ティアは美人なので、人間不信の俺でもぐっとくるところが……ないね。だって誰が神速の一撃を自分に放つ奴にときめくことができるか?ヤンデレなんてね二次だけで十分だ!!


「暴言?真実だろう……なんでもありません。っていうか感謝って何にだよ?罵られていることか?あいにく俺はノーマルなんで、それを俺のために~とかいってやってるんなら可及的速やかにやめてください、マジで」


途中、拳をぐっと差し出されたので戦略的撤退をせざるを得なかった。決して怖かったわけではないぞ。


「誰があなたが寝ている間に接客したんですか?誰があなたを下ろしてやったと思っているんですか?それに罵りはあなたのためではありません」


「寝ているってお前が寝せたんだ……すいません。てか最後のおかしいだろ!!それ単に俺のこと軽蔑してるだけじゃね!?」


「……してないとでも?」


きょとんと小首をかしげる。小悪魔的なんてレベルじゃねぇ……こいつはサタンだ。

持ってくれ俺の心。


「それに刀を売りましたし」


「何!本当か」


思わぬ朗報。痛みをこらえて立ち上がる。


「一本いくらで何本売れた?」


あの男たちはハンターのようだったから、きっと俺の刀の良さが分かったのだろう。一本売れるだけで、適正価格なら高級宿に二、三日は泊まれる。最近は、地面か木の上でしか寝ていなかったので、ふかふかのベッドを想像してにんまりとする。


「一本十万ギルで、二本売れました」


「じーざす」


ああ、神よ。なんでこんなことに。俺の安眠はかなわないようだ。

一本十万ギルの剣なんて聞いたことないわ!!確かに原価は安いけど、ふざけてんのも大概にしろ。

あのむさい男たちどんだけ値切ってんの、んでなんでそれ普通に受けちゃってんのこの子。天を仰ぐ。


「最初はいくらで売るつもりだったんだ?」


「十五万ギルです」


「OH……」


言葉が出ない。男たちが値切っても五万ギル。元凶はこいつだ。すまし顔の中に、なぜか誇らしげな感情が見える。


「もしかして高かったですか?」


俺が絶句しているので、はっとして聞き返してきた。


「安かったんだよ!!!!」


俺はそれに怒りを叩きつけた。


「えっ。でも、まえに原価はタダだからって……」


きょとんとした表情。


「そう、だけどさ……違うんだよ」


誰かこの子にまともな商売の勘を与えてくれ。


「この刀はなぁ、素人が見ても百万ギルはくだらねぇ品物なんだよ。それをお前、十万ギルって……閉店セールじゃないんだから」


十万二本で、二十万。旅をするのには十分だが、何だろう、何だろうね。


「もう……いいよ。お金は手に入ったんだし、次ちゃんと売ってくれれば」


諦めた俺は会話を切り上げる。

もう、よそう。こっちが辛くなるだけさ。


「わかりました。では、私に感謝してください」


「できるか!!」


どんだけ感謝されたいんだよ。てか、感謝されると思っているところが恐ろしいよ。

俺は恐ろしさに身を震わせた。


「あっ、そういえば伝言が」


ティアが突然思い出したかのようにポンと手を叩く。


「伝言?」


「はい。あの方たちから、兄ちゃんあんたすごいぜ、だそうです」


あの人たちも、こっち側だったんだなぁ。人は嫌いだが妙な親しみを感じた。そして、彼らの心に傷がありませんように。

心の中で彼らの幸せを祈った。


「さて、接客に関してはなぜか感謝されませんが、ここにつれてきたことに関しては感謝してもらわないと困ります」


トランクから足の振り子運動で飛び降り、俺の後ろに着地しながらティアが振り向く。

さらっとそのヒスイ色の髪が流れ、上ってきている朝日に照らされた。


「……俺が連れていってほしかったのは、裏闘技場なんだが」


見渡す限り森、森、森。こんなところにあるのか?

聞けば、裏闘技場は権力者たちがより暴力的な刺激を求めて作った闘技場だという。その非合法性や参加者に有力者がいることから、その場所は秘匿されているのだが、こんな人里にも近いところにあると考えるにはいささか腑に落ちないところがある。

しかし、場所を知らない俺はティアの言葉に従うしかない。ティアは俺のことが嫌いなようだが、情報はちゃんとしている、と信じたい。


「ご安心ください。間違いなくこの先が裏闘技場でございます」


ぺこりとお辞儀される。辛辣な態度から急に丁寧にされると戸惑うな。


「わかったよ」


納得し、乱れたターバンをなおしてティアの横に並ぶ。


「行きますか」


「そうだな……おい、まてよ!!」


返事を聞くと、ティアはすたすたと行ってしまう。

俺は慌ててトランクを持ってその背を追いかける。

途中、なんだかんだ言ってついてきてくれるティアが頼もしく見えた。あの町で出会って、最初は何にも話さない奴だったけど、次第に話して、喧嘩して。なんだか友達みたいだな、と思った。この世界での二番目の友達か。ティアがどう思っているかは知らないけれど、うれしく思う。

人間不信といっても、どこかで人とのつながりを求めているんだよな。何度裏切られて、疑い深くなってもやっぱり人は人の中でしか生きられない。


「ティア!!」


「なんですか?」


じとっと鋭利な目でにらまれる。

俺が文句をいうと思っているらしい。

違うんだ。


「その……ありがとう」                                                                                                                                                                                                                                                              


感謝の念を伝えることは、年を取るほど難しくなる。相手が自分を嫌っているならなおさらだ。それでも、人との付き合いが難しい俺だからこそ、こういうことはちゃんとしなきゃって、そう思うから。文句を言いながらついてきてくれたことに感謝。


「……行きますよ」


ぷいっと顔をそむけ、ぶっきらぼうに再び彼女は歩き出す。

俺にはその顔が見えないけれど、彼女の足取りは軽くなっていた。


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