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犬の爪は切っておかないとお手するとき結構いたい

前の話でようやくアナンの両親の名前が出せました。

今回もとある人物の名前が出てきますが、テキトーです。

「……やば!」


俺のアッパーで吹っ飛んで行くダンを見て我に返る。


ボッコボッコにしてしまった。

いくら日頃ムカついているからと言って八歳児を気絶するまで殴るのはマズイ。しかも能力まで使ってしまった。

もっとも能力については、ダンの方が勘違いしてくれたようだが、ばれていたらと思うとゾッとする。


教会の鐘が鳴れば点呼が始まる。

その時にあんな状態のダンたちが居たら……。


俺は最初の一発以外まともに喰らっておらず、無傷だ。こんな状態なら俺がどれだけ自分がリンチにあったことを訴えても、良くも悪くも民主主義、奴らが口を合わせたら完全に悪者は俺になる。


家族に迷惑がかかっちまうな。



取り巻きどもみたいにサウナ地獄にすれば良かった。でも、ムカついたんだよなー、痛めつけたいほどに。けどマズイよなコレ。


やってしまってから後悔してももう遅い。


頭を抱えていると……


鐘が鳴る。だが、教会の鐘ではない。

人の不安感を掻き立てる音、これは……警鐘だ。

この警鐘は結界に何かが近づくと鳴る。ということは、何かがこの村に入ろうとしているのだ。


一体何が?まさか。


俺はその正体をさぐるためダンとの喧嘩の中で使用したままだった「眼」を使う。


範囲拡大。精度は最小限に。人や、家畜、ペットの犬や猫を除く魔力を検索。


……多いな。どうやら虫や鳥までも認識しているようだ。


ならば一メートル以下のものを検索対象から排除すると……これは……。


出てきた結果に俺は驚く。


ーーーマジかよーーー





シスターとお茶を楽しんでいた男は驚きのあまり座っていた腰を浮かす。


男の名前はシェンと言った。

この村の出身で三十三歳。十四のときこの村を飛び出したのだが、七年前にふらっと帰ってきた。

以来、シスターの好意で彼は学校の教師をしている。


「何ですか!?」


村全体に鳴り響く音。シェンの周りで遊び疲れて寝ていた子供も何事かと辺りを見回す。


「先生!!」


シスターがまさかという顔をする。


「これは……」


つぶやきハッとしたシェンは急いで子供達を集める。子供達はオロオロとしながらなんとか集まってくるが、当然ながら人数が数人足りない。


「シスター、私はこの場にいない生徒達を探しますから、あなたはこの子達と待っていて下さい」


シスターにそう言うと、長年使われている古びたマントを翻しシェンは子供達の名をよびながら駆けて行く。


途中で、突然のことに怯え、蹲っていた生徒を見つけ、シスターのところへ行くように言う。

同じような子も見つけたが、まだ数が足りない。広場は探し尽くした。


「森の方か」


足を森へと向ける。


「おーいユッケ、カリビ、ダン、オルモン、アナン~」


いまだ見かけぬ生徒の名を叫ぶ。


「せんせ~」

「!!」


か細い声が聞こえる。シェンは声のする方へ近づく。


「カリビ君、ユッケ君……オルモン君!どうしたんですか!?」


声の主カリビの足元には何故か半裸のオルモンがいた。理解が追いつかず、狼狽えるシェン。

森の中、人目につかない場所、呼んでも来ない、半裸の少年。

え、あ、そういうこと?

彼の思考は一瞬、一瞬だが、明々後日のほうにぶっ飛んでいた。


「先生、アナンが!アナンがやったんだ!それで俺たち気絶して……それで目が覚めたら急に鐘がなるし……」


固まりながら「……愛にはいろいろな形があるし……認めるべきだろうか……しかしさすがにこれは彼らには早いのではないか……」とブツブツと呟くシェンにカリビが説明する。横のユッケもうんうんと頷く。

シェンの思考がそれによってようやくこちら側に戻ってきた。


「アナン君がですか……信じられません」


アナンはおとなしい生徒である。筆記はできるが、詠唱魔法が使えず苦悩しているもののそれに腐らずちゃんと学校にきている真面目な生徒だ。

そんな彼が喧嘩をしたことは耳を疑う話であった。


「本当なんです!!」


信じてなさそうなシェンをみてカリビが訴える。


「そうですか……とにかく話は後で聞きます、集合場所にシスターがいるのでそこまで行ってください……それでアナン君、あとダン君は何処に?」


いまだ納得していない様子であったが、シェンは視線を巡らせると尋ねる。

二人は目を合わせると首をふる。どうやら知らないらしい。


ガサガサ。


その時近くの茂みで音がした。

シェンは瞬時に三人の生徒を庇うように立つ。


「……」


手を茂みに向け、いつでも魔法が出せるよう構える。

警鐘が鳴った状況では、結界があるにしろ万が一という可能性で外敵の侵入があり得るのだ。

ゆっくりと接近する音。緊張でシェンの後ろの二人から冷や汗が流れる。


ガサガサ。


ついに何かが現れる。


「……ダン君!」


シェンは出てきたものを見て手を下ろす。出てきたのはダンであった。


「ダン君!何があったのですか?」


出てきたダンはボロボロだった。

その精悍そうな顔は血と泥で汚れ、同様にその金髪はくすんでいた。

左肩を抑え、ふらつきながら歩いている。


「うっ……」


シェンの前へと歩んだダンはその場に倒れ伏した。シェンたちを見て気が緩んだようである。


「「ダン!」」


その様子をシェンの後ろから見ていたカリビ、ユッケが飛び出し、ダンを必死に揺さぶる。

シェンは脳にダメージがあってはいけないとこれを制す。


「これは魔獣や魔物によるものではないようですね……詳しいことはあとで聞くとして、カリビ君、ユッケ君。身体強化魔法が使えるなら、ダン君も連れて先ほど言った場所へ」


ダンの怪我の様子を調べていたシェンが指示を出す。カリビとユッケは早速ダンとオルモンを丁重に抱えると、シェンに尋ねた。


「先生は?」

「私はアナン君を探します」


後は彼一人である。最悪の結果になる前にシェンは彼を見つけなければならない。


「あんな奴ほっとけばいいのに」


シェンの背中に小声で言うが、それは身体強化魔法を使っていたシェンの耳に届いていた。


「こらっ。君達もアナン君もみんな大切な私の生徒です。見捨てるなんてできません」


ユッケに軽く叱るとシェンは再び、アナンを探しに走り出すのだった。





「よいしょっと」


俺は反応のあった場所へ体が自壊しないギリギリまで魔力を流してジャンプしてきた俺は、着地の衝撃に顔をしかめながら、結界の奥の対象を見据える。


「そうか……やっぱりこいつか……」


大きな口にずらりと並んだ牙。あの口に噛まれたら人間の体なんぞは、一瞬でバラバラにされるだろう。スラリと伸びた足もその四本全てに鋭い爪が生えている。色は黒色、顔に三つ存在する目は紅く輝いていた。


体はシェパードより一回りも大きいこいつはダークハウンド____魔獣である。


「ひはははは!!」


俺は堪えきれず笑い出す。

腹の底からおかしくて堪らない。だってさ、


「この世界で恐れられている魔獣!詠唱魔法が使えない今はこの力を全開にしないと勝てないと思ったが……何だこれは!!!!」


俺は両手を広げて空を見る。そうでもしないとおかしさで腹がよじれ、まともに立てない気がした。


「あはははは!!魔獣の群れだって?いくらでも来いよ!」


それでも笑いは止まらない。身体の隅々まで愉悦が浸透しているかのようだ。こんなに楽しいのはいつ以来だろうか。


愉快愉快。

俺がそんな風に心地よくなっていると


「ガルルルルルッ!」


ダークハウンドが唸り声をあげる。

一回目の俺でもビビらされた声であるが、今の俺には子犬の鳴き声にしか聞こえない。いっそ、子犬の方がまだ怖いといってもいいかもしれないな。


「おっといけない、ごめんな、放っておいて」


子犬をあやすように俺はダークハウンドに言うと、ダークハウンドはその牙をむき出しにして威嚇してきた。

可愛くないな、一丁前に威嚇しやがってと、愉快な気持ちを壊された俺はこの状況を終わらせることを決定する。


対魔獣の王国騎士でさえ、一対一はベテラン以外は厳しいとされるダークハウンドに向かって俺は何気なく手を払う。

攻撃らしい行動ではない。


しかし……それだけで結界奥のダークハウンドは消えていた。

代わりに、ただそこには魔石が一つ転がっているだけであった。





「アナン君!」


探し回っていたシェンはこちらに向かってスキップしながらやってくるアナンを見て声をかける。

アナンはシェンに気付くと笑顔を見せる。

シェンはその笑顔に面を食らったかのような顔をする。教室でのアナンはもの静かで大人しく感情を表に出すのが少ないからだ。


「大丈夫ですか……?」


アナンの体は砂で多少汚れているようだが、無傷である。

シェンが尋ねたのは、「頭」についてだった。


「はい。先生」


笑顔。


「そ、それは何よりです。わかっているとは思いますが、異常事態です。すぐに集合場所に行って、シスターと共に家に帰ってください」


早口で要件を伝えるシェン。

アナンが見つかり、生徒が揃ったため、シェンは彼の次なる仕事である警鐘の原因解明へ向かわなければならなかった。


「それでは、私はまだ仕事が残っているので……」

「先生」


踵を返したシェンは今度はいつもの顔のアナンに呼び止められる。


「何かな?」

「僕……あの、魔獣を見ました!」


アナンからの衝撃の一言。シェンは目をパチクリとさせアナンを見つめる。

すると、わずかながらアナンの口角が上がっているようにみえた。

笑っているのか?

いぶかしむシェンであったが


「何だって!?」


アナンにシェンは詰め寄る。


「本当かい?数は、種類は?」

「数は一匹、ダークハウンドでした」


矢継ぎ早に質問するシェンにアナンは淀みなく答える。


「ダ、ダークハウンド!」


シェンは飛びのく。

ダークハウンドは主に群れで行動する。それが現れたということは、その個体とは別にも存在するということだ。これはほかの魔獣より厄介なことになる。


「本当だね?」


大切なことなので念を押す。


「はい。間違いありません」


アナンははっきりと肯定した。

日頃アナンの勤勉さを見ていたシェンはアナンの証言を信じることにした。


「で、そいつは?」


「結界に入れないことがわかると帰って行きました」


帰って行ったとなると、今から調査に行っても無駄足だ。シェンが今すべきことは。


「そうか……ならこれは村長に話すべきだな……」

「では、僕は戻ります」


アナンは考え込むシェンにぺこりとお辞儀をし、スタスタと歩き出す。変にそわそわし、落ち着きがない。


「ああ、私も行きます。ダークハウンドが襲来したことを村長に報告しなければいけませんから」


シェンはそれを引き止めた。

今までの子供達は子供だけで帰していたが、魔獣の存在が判明したためアナン一人で帰すのは危険だと判断したのだ。


「そうですか」


アナンは足を止めると、その横にシェンが並ぶ。


「危険があるといけませんから私から離れないように……」


はい。と機械的に答えるアナン。

さっきの笑顔が嘘のようだ。疑問に思ったシェンはアナンに問う。


「そういえば、先程は嬉しそうでしたが何かありました?」


ギクッ





今回も読んでいただきありがとうございました。

なかなか思うように文がかけず、改稿しまくりですいません。

面白いもの作れるよう努力します。

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