準備期間―7
「それはな、調理に直接関わらない俺達の仕事はもうちょっと後なんだ。盛り付けが一日の最初の仕事だからみんな大体7時半に起きてくるな。ホントは薪割りしないとダメなんだが…昨日のうちに朝の分も割ってしまうからなぁ…」
少しでも長く寝ていたのだろう。その気持ちはよく分かる。俺も休日は昼頃まで寝ていた。
ただ、ここではそれは望めそうもない。朝から仕事があるのもそうだが、今日みたいに頭の上で音が鳴り続けたら嫌でも起きてしまう。
「そうなんですか。でも、あっち忙しそうですけど、あれは何してるんですか?」
「ああ、あれは門下生の人たちがこれから走り込みに行くんでその軽食作りだな。梅干しが平気だったら1つくらい食べても大丈夫だぞ」
「手伝わなくていいんですか?」
「手伝わない方が早く終わるから良いって昔言われてな…」
炊事場を見れば短時間で大量のおにぎりが大皿に並べられ食堂に運ばれていた。必要ないと言われている以上様子を伺うだけに止めておく。
その後は特に会話もなく淡々と薪を割っていった。食堂が一瞬賑やかになり、それが消えると次第に仕事仲間が起きてきた。
そこからは昨日と同じだ。ぼちぼちと薪を割って、盛り付けをして長机に並べ、みんなと食事をして、皿洗いをし棚に片づける。
未だに余計な疲れを感じるが流れは掴めてきている。朝ご飯を食べた後は昨日の続きで女湯を掃除した。昼までには終わらなかったが、おやつ時には終わった。
本格的にする事がなくなったら自由にしていいらしい。そうは言われてもこちらの娯楽には疎い。正確には娯楽だけでなくこちらの常識を知らない。
そのことをそれとなく伝えると書斎に案内してくれた。夕飯の準備が始まるまでずっと書斎に籠って様々な本を読み漁った。
殆どが事象の考察書で流し読みした程度だったが、この2冊は面白い上に役に立つ。『魔物大全』と『職業全集』。
まず面白いのはどちらも1ページ目に目次ではなく、『*これは魔物(職業)を網羅している訳でありません』という注意書きが書かれている。
そんな注意書きを書くぐらいなら『大全』や『全集』なんて題名につけなければいいじゃないか、と思ってしまったのは仕方がない。
そんな冗談みたいな文言で始まった本だが中身は至って真面目だった。最初の注意書きも真面目なのだろうけど。
挿絵がありその横に魔物や職業の説明がある体裁をなしている。ここの本は自由に持って行っても良いと言われていたのでこの2冊を持って書斎を出た。
自室に本を置くと読む暇もなく夕飯の準備に駆り出される。夕飯を食べ終わっても少しすると風呂に入らなければならない。
風呂から上がり漸く自由な時間が出来たが、『魔物大全』を数ページ読んだだけで眠たくなってしまい、これ以上読むのは諦めてランプを消して寝た。
その日から仕事の時以外は書斎で本ばかりを読んで過ごした。買い出しなので外に出る時は店主と話して本からでは分からない情報を得た。
そうして過ごしている内にいつの間にか給料日が明日に迫っていた。明日はこの世界で初めて自分の自由になるお金を手に入れるのだ。




