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準備期間―5

靴下を脱いで裸足になって滑らないようにする。バケツの中から小さなブラシを取り出して浴槽の側面を擦る。


側面の汚れが面白いように落ちていく。夢中になって掃除をしていると、いつの間にか日が傾いていた。


掃除は終わったのでブラシを片づける。ホースを蛇口から取り外し、巻いて小さくまとめた。


「お~い、そろそろ飯の用意をするぞ~……って、めちゃくちゃ綺麗になってるじゃねぇか!!」


「え、そうですか?」


「ああ、太陽の光が反射してるしな。はぁ…こんなに綺麗になるものなんだなぁ…」


ゲンさんが風呂場を見渡して感心したように呟いた。褒められて何となく背中がむず痒くなって、誤魔化すように掃除道具を纏めて靴下を履いた。


ゲンさんはすでに正気に戻っており風呂場を出ていた。後を追いかける為に靴を履こうして止まった。玄関に残っているのは上履きだった。


そう言えば教室にいる時に召喚されたのだった。暫くは上履きのままだけど仕方がない。給料が入ったらすぐに靴を買いに行こう。


頭の中のやる事リストにメモしてから上履きを履いた。外ではゲンさんが待っていてくれた。ゲンさんにお礼を言ってから歩き出す。


物置に掃除道具を置きすぐに薪割りを始めた。まだ2回目と言う事で他の人たちよりは遅かったが、最後の方では何となくコツを掴めた気がする。明日はもう少し手伝えると思う。


配膳も皿洗いも僅かながら進歩した、かもしれない。何にせよ明日が本番だ。


で、今はというとこれから風呂に入る事になっている。ここでまた問題が起きた。俺、替えの服を持ってない。


そのことをゲンさんに相談すると、若干小さくなって着れなくなった服があるから、それをくれる事になった。ゲンさんにはお世話になりっぱなしだ。


そんな訳で今は自室のベッドに腰掛けてゲンさんを待っている。こうして落ち着いて過ごしていると色々な事を考えてしまう。


クラスのみんなは今頃どうしているだろうか、だとか。魔王の攻撃から助けてくれたあの女の子はどうなったのだろうか、だとか。


この世界の生活様式について、とか。この世界の建物は何となく古い時代のものに思える。レンガ造りだったり木造だったり。


それなのに服装や食事などその他に関しては現代社会と比べても遜色がないほどだ。そのアンバランスな様子がなんとも気持ち悪い。


江戸時代の町を半袖Tシャツ短パンの人がハンバーガーを片手に闊歩している、といえば何となく気持ち悪い感じが伝わるだろうか。


現代日本人の俺にとって落差が小さいのは有難い事なので慣れるしかない。一先ず結論を出すと戸が叩かれた。


廊下にそれなりの量の服を抱えたゲンさんが立っていた。夏用と冬用のどちらも持ってきてくれたらしい。


夏用から一組だけ取り、残りはベッド下の小さな収納箱に押し込んだ。タオルは風呂場にあるらしく服だけを持って部屋を出た。


未だに疑問に思っている事がある。俺は今日風呂場を掃除したが、男湯しか終わっていない上にお湯を張った覚えもない。今日は家の風呂に入らないのだろうか。

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