準備期間―20
暫く観察してみる。ゴブリン達は好き勝手に動くから正確な人数を数えられない。ゴブリンマスターになってゴブリン達を見分けられれば正確に数えられるだろうけど。
数えられなくても分かる事はある。あれだけ移動していても同時に4体が視界に入る事はなかった。という事は、多く見積もっても5体程度だろう。
部屋はそれほど広くないのは靄の先にうっすらと右側に壁が見える事から分かっている。
あの感じから全体を見積もるとどう考えても靄に隠れられるのはせいぜい2体だ。奥が想像以上に広かったら知らない。
予想以上に多かったら潔く逃げよう。戦略的撤退というやつだ。俺にとって負けとは死だ。生きている限り勝っている。
さて、5体として考えるとして、無策で突っ込んでは幾らゴブリンと言えど殺されてしまうだろう。ここは1つ釣り出し作戦で行こう。
足元に転がっていた小石を拾い、廊下の中央辺りを目掛けて投げた。静かな廊下に小石が落ちた音が反響する。
ゴブリン達の叫び声が止まった。が、すぐにまた騒がしくなった。どうなっているのか気になるが、今頭を出すと気づかれる。
頼れるのは音だけだ。注意深く音を聞く。ゴブリン達の叫び声はまだ聞こえる。音に気を取られたのは一瞬だけだったか。
ゴブリン達に音の正体を確かめるとか頭を使う行動は出来なかった。釣り出し作戦は失敗か。…いや、待て。叫び声に混ざってザリッザリッと歩く音が聞こえる。
叫び声は遠くから聞こえるから全員が近づいている訳ではない様だ。足音も…1体分…か?分からない。叫び声が邪魔だ。
人数は分からないが何体かは確実に近づいてきている。剣を握り直し構える。ゴブリンが見えたら斬りかかる。
2体目が現れたら高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応するしかない。がっちがちに作戦で固めると異常事態に対応できなくなる。
足音は段々と大きくなっている。もうすぐだ。鼓動が速くなる。手汗をかき、呼吸が乱れる。落ち着かなと。どうやって落ち着く。
曲がり角から緑色の塊が現れた。一歩踏み込み近づき大上段に構えた剣を振り下ろした。いきなりの事にゴブリンは身体をこちらに向けることしかできなかった。
ゴブリンの左肩から入り右脇腹に抜ける様に斬りつけた。途中で骨を砕く感触が何度か伝わってきた。
ゴブリンは後ろに吹き飛び背中をダンジョンの壁に打ち付けた。振り下ろした勢いから倒れそうになるのを何とか踏み止まる。
すぐに追撃できなかったがゴブリンを見ると項垂れて動かない。最初の攻撃と壁に背中を打ったのが効いた様だ。
「グギャアアァ!!」
「ゲガアァアア!!」
2体のゴブリンが手に武器を持って叫び走ってきていた。後ろにはいない。全部で3体だったか。
盾を構えながら右側のゴブリンに向かって走り出した。すぐに盾を通じて衝撃が伝わってきた。ゴブリンを吹き飛ばすように盾を押し出す。
同時に足を止めて左側のゴブリンに回し蹴りを入れて後ろに飛ばした。ゴブリンに挟まれる形になるがどちらも倒れているから問題ない。




