準備期間―15
最初の階層と言う事もあって魔物に苦労する事はなかった。そして、いま俺の目の前には下へと続く階段がある。
周りの安全確認をしてから壁際に座り休憩する。懐中時計は昼を少し過ぎた頃を指していた。さて、これからどうしようか。
当初の予定では第1階層までだったけど、体力にはまだ余裕がある。時間も思っていたよりもある。先に進むのもありかも知れない。
よし、帰ろう。まだ大丈夫はもう限界。と聞いた。新米冒険者は自分の限界を見誤って命を落としてきたらしい。
初めての冒険。初めての戦闘。初めてのことだらけで知らず知らずのうちに疲れが溜まっている、そうだ。自覚はないけれど。
水を飲み一息ついてから立ち上がる。来週は第2階層に挑戦しよう。土を払い盾を装備し直して歩き出す。
「なんだ、もう帰るのか?」
「はい、今日は1階層までと決めていましたから」
今の今まで静かに見守っていた藍華さんが口を開いた。ここまで危なげなく進んできたから、藍華さんの出番はなく存在を忘れかけていた。話しかけられた時にびっくりしたのは内緒だ。
その藍華さんはというと何やら考えている様子。ここまで付き合ってもらった手前、無視して先に行けず藍華さんの言葉を待った。
「だったらこうしよう。ここからは私が先行する。君は私の後についてきなさい」
「…はい」
なぜか先に進むことになってしまった。帰りたかったが仕方がない。藍華さんの後に続き階段を下りていく。
階段はすぐに終わり2階層に着いた。2階層も1階層と同じで立体迷路の様になっていた。藍華さんはその中を迷いなく歩き出した。
魔法紙を片手について歩き、藍華さんを観察する。藍華さんの装備は両刃長剣だ。片手でも両手でも扱える便利なモノ。
いつかは同じような武器を扱うかもしれない。その時の為に立ち居振る舞いを学んでおくべきだ、と思う。
そんな思いも数回の戦闘できれいさっぱり消え去った。藍華さんは出会う魔物全てに素早く近づき一刀のもとに切り伏せていた。
あんなものは参考に出来ない。力をつけていけばゆくゆくは出来る様になるのかもしれないが、今は、というか当分は出来ない。
参考にならないものを見続けても仕方がないので地図に目を落とす。地図上には何か所か宝箱が映し出されていた。
今回は取りに行けないだろうから次の機会だな。出てくる魔物も代り映えしないのでそろそろ退屈してきた。
「う~ん、やっぱり帰るか」
藍華さんが急に立ち止まりそう言った。俺としても反対する理由はなく首肯する。藍華さんは何がしたかったのだろうか。
ここ最近、道場にずっといたから動きたくなったのかもしれない。だが、いざ動いてみると敵が弱すぎて運動不足は解消されなかったといった所か。
藍華さんは地図も見ないで進んでいくが、迷うことなく階段の場所まで戻ってこられた。藍華さんの記憶力が凄いのか、何かのスキルなのか。
後者であるならばぜひとも習得したい。今後の活動に大いに役立つはずだ。




