準備期間―13
洞窟は草原の中にあった。遮るものがなく遠くまで見渡せる草原において、一部分だけが盛り上がりぽっかりと穴を開けている光景は異様なものだ。
穴の前に立ち深呼吸をする。昂る気持ちを落ち着け洞窟の中へと足を踏み入れた。
洞窟の中は意外な事に明るかった。壁の中央から少し上がった所に淡い光を放っているものが等間隔で存在するからだ。
松明で光に触れてみたが松明に火が点くことはなかった。熱を発することなく光そのものがそこにある様に感じられる。
考えて見たが正体は分からず、便利だからまぁいいか、と結論付けて先へと進む。まだ入り口付近だからか魔物の姿は見えない。
緩やかな下り坂になっている道を進んでいくと広い空間に出た。目の前には立体迷路ともいうべき複雑に絡み合った土地が広がっていた。
右側には壁に沿って先ほどよりも急な坂が下へと伸びていた。若干駆け足になりながら坂を下りていく。
急ぐのには理由がある。見渡した時に遠くに人影が見えたのと、今もなお聞こえてくる戦闘音だ。
当然の事だがこの『腕試しの洞窟』には俺以外にも来ている人はいる。戦闘音は誰かがどこかで魔物と戦っているのだろう。
もし、この洞窟に出てくる魔物の数に限りがあるのだとしたら。その考えが頭を過った瞬間居ても立っても居られなかった。
坂を下りきると鞘から剣を抜いた。ここはもう魔物が出る場所なんだ。焦る気持ちを静め、気を引き締める。
探索を開始し少し進んだところで遠くに緑の物体を見つけた。物音を立てない様に注意して近づき緑の物体をよく見る。
ソレは普通のバッタだった。体と殆ど同じ大きさの後ろ足、頭から生える2本の触覚。詳しい種類は分からないけど、バッタと呼んで差し支えないだろう。
ただ、その大きさが問題だった。遠い為測りかねるが、大型犬くらいの大きさがある。そして、姿とは別に問題が浮上してきた。
他のダンジョンはどうか知らないけど、この『腕試しの洞窟』に出てくる魔物の系統は1種類しかないらしい。
今回は虫系だ。虫系魔物には昆虫だけでなく、蜘蛛、ムカデなどが含まれる。そして、口にするのもおぞましいアレも。
以前に『魔物大全』でアレの挿絵を見た時は思わず本を投げてしまった。せめてもの救いは、アレは上位の魔物だからここには出てこない事か。
いや、アレが出てこなくても虫全般が無理だから関係ないか。生理的嫌悪というやつだ。仕方ない、仕方ない。
そんな事はさておいて、現実に目を向けよう。目の前の魔物は『魔物大全』で見た事がある。
名前は『足折蟲』という。名前の由来は攻撃方法が関係している。
足折蟲の主な攻撃は突進だ。一瞬のうちに零から通常の何倍もの速度を出して突進を繰り出す。その攻撃を可能としているのはあの巨大な後ろ足だ。
しかし、それほどに強力な技は代償なしには行えない。その代償というのは『足がもげる』だ。通常ではありえない力が加わる為に足が耐えきれずに取れてしまう。
そのことからついた名前が『足折蟲』だ。




