準備期間―11
トレーニングを始めた日から1週間が経った。初日は辛かったが最近は慣れてきて、筋トレの回数を25回に増やしている。
そろそろ新しい事を始めようと思う。新しい事というのは素振りだ。その為に昼に木刀を買っておいた。
素振りは筋力をつける目的の他に武器を持つ感覚を確かめる目的がある。筋トレとランニングを終わらせてから素振りを始める。
門下生の人たちがしている様子を思い出しながら、毎回気持ちを込める様に振り下ろす。回数をこなすのではなく一回一回を大切に。
「なかなか楽しそうな事をしているじゃないか」
素振りをしていると突然声を掛けられた。今の時間は道場のみんなは疎か町の住人も寝静まっている筈だ。
予想外な事に驚きながらも声がした方を向いた。そこには女の人が立っていた。鎧を身にまとい腰には帯剣していた。
夜だから見え難いがよく見ると鎧には傷が幾つもついていた。それなりに戦いに身を置いてきた証拠だ。
「君は門下生かな?こんな時間に自主練だなんて見所があるな」
「えっと…どちら様ですか?」
「ん?ああ、すまない。まだ名乗っていなかったな。私は釼持 藍華。一応この道場の者だ」
釼持と言えば親父さんの苗字だ。と言う事はこの人は親父さんの血縁者なのか。そうと分かれば身構える必要もない。
「初めまして、四宮亘亮です。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。ところで、どうだ?私と打ち合ってみないか?ただ素振りをしているのもつまらないだろう?」
「せっかくの提案ですが辞退します。僕はコレしか持っていないですし、人と戦って何かを学べるほどの基礎がありませんから」
素掘りを再開した。藍華さんは無理強いするつもりはない様で黙って僕を観察している。誰かに見られるのは居心地が悪い。
結局、藍華さんは僕の素振りが終わるまでずっと傍にいて僕を見ていた。
◇◇◇
翌朝、いつもの様に階段が軋む音で目を覚まし、髪をセットしてから薪割り場に行くとそこには藍華さんがいた。
「おはよう。早いんだな。朝から特訓か?」
「おはようございます。いえ、仕事です」
挨拶をしながらも丸太を持ってきて薪割りを始める。素振りをしたせいか腕を上げるのが怠い。素振りはほどほどにしておかないと仕事に支障が出るか。
「ん、門下生じゃなかったのか」
「お嬢、コースケの事知ってるんですか?」
「ああ、昨日の夜に……ちょっとな」
咄嗟に藍華さんの方を見ると察してくれた様でぼかしてくれた。出来れば夜の筋トレの事は知られたくなかった。
知られると止めさせられるかもしれない。まだ仕事で大きな失敗はしていないが、失敗する可能性が高まるという理由で。現に腕が怠くて薪割りが思うように出来ていない。
その事が悟られない様にいつも通りを装い薪割りをしていった。どうにかこうにか誤魔化せたらしく、何かを言われる事はなかった。




