表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣戟の幻想物語 4 紅血の鬼  作者: やきたらこ
三章~迫る刺客と死闘奮戦~
9/17

1.

 吸血鬼住まう古城は眼前まで迫っていた。

(やっと、追いつける……)

 知らず知らずのうち、俺の歩調は速まっていた。


「おい、リアン。急ぎすぎだぞ――」

 アイゼンの静止は遅かった。



 突如、右方から巨大な黒い物体が、轟音と共に俺とアイゼンたちの間を横切った。

「ッッ!?」


 ソレは四対の足を持っていた。その足は一本一本が丸太くらいあろうかという太さで、強靭な剛毛に覆われていた。先端辺りへ向かって太くなっており、その足々がソレの巨体を軽く支えている。

 太い足が付いている根本部分。そこは巨大で黒く、いびつな球体。足と同じく猛々しい剛毛が生えている。ソレは巨大な黒い球体の前面に付いていた。ソレには三対の紅い眼。下部には獲物の生命を吸い尽くすべく発達した――――


 俺の身長を軽く越す、巨大な化け蜘蛛ぐもがそこにいた。

 その時、俺は僅かにも気圧された。それが悪い事態を招くこととなってしまう。



 若干引いた左足。その拍子に、木の根でつまずいてしまった。

「な!!??」


 反転する視界、かろうじて化け蜘蛛を視界のうちに収める。

 化け蜘蛛はその残酷な表情を一つも変えず、前足を振りかぶる。


 俺は咄嗟に抜剣し、前面に構え、衝撃に備えた。




 しかし、その衝撃は来なかった。




「かつて、世界を救った英雄がこのザマかよぉ!!」

 俺と化け蜘蛛の間に割って入ったのは、紫がかった黒髪に、紫調の衣服を纏った紫黒の少年――ゼノ・レークだった。

 ゼノは、振り下ろされる前足を剣で弾いて攻撃をいなす。

「なんなら、俺が英雄代わってやろうか?」

 ゼノは皮肉めいた笑みをこちらに向ける。俺は立ち上がりつつ言った。

「よく言うぜ」



 直後、俺は大きく前に出た。

 数瞬目をつむる。これでは化け蜘蛛の動きが分からないため、すぐにまぶたを上げた。


 目を開けると、眼前に緑の液体が迫っていた。化け蜘蛛の口元から緑のヨダレが滴る。

 対する俺は、慌てることなく右手を前に。


 右手に握られた純白の刀身から紅い炎が吹き出す。

 一瞬で緑の液体は霧散した。しかし炎の勢いは止まらない。化け蜘蛛を呑み込むべく、進み続けていた。


――キッッシャァァァァアアアアアアア――


 けたたましい悲鳴が耳をつんざき、周囲に広がる。

 炎が止まり、黒煙の中の黒いシルエットが段々と鮮明になっていく。

 動きを止めた。そう思ったが、シルエットはすぐに動き出した。


――クルルルシェァァァアアアア!!!!――


 さきほどよりも猛々しい叫びを放ち、黒煙を掻き分け、俺めがけて前足を振り上げた。

「クッッ!!」

 咄嗟に剣で防ぐ。勿論勢いを殺すことは出来ず、大きく仰け反った。無防備な腹部があらわになる。

 もらった、と言わんばかりに、全ての獲物をすり潰せる口を広げ、俺に迫った。


 俺の腹が食い千切られる。

 その瞬前、俺は仰け反る勢いを殺さず後ろに倒れた。

 どさりと、地面に倒れこむことで、化け蜘蛛の口を回避。それと同時に柔らかい胸部を視認する。

「ここだぁぁぁ!!」

 俺は腰の小型ナイフ――戦闘用ではないが、長めの愛剣ではこの狭い場所で使えない――で、化け蜘蛛のベージュ色の胸部を数回斬りつけた。

 斬り口から、緑の液体が吹き出す。幸い、体が溶けるようなことはなく、ほんのりとした熱を感じた程度だった。

(生暖かい。ということは、先ほど噴射したのは自らの血液。なんらかの細工をしているのか――)


 そこまで考えたところで、思考が寸断される。

 蜘蛛が両脇の足を器用に使い、俺を押し潰そうとしたのだ。

 俺は体をひねって回避し、すぐに蜘蛛の下から這い出た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ