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剣戟の幻想物語 4 紅血の鬼  作者: やきたらこ
一章~少年たちの追跡開始~
2/17

1.

「いいのか? こんな噂話なんか信憑性無いよ?」

 酒を呑んでいた男はコップを置いて言った。それを受けた少年は百セル硬貨を二枚置き、手を振った。

「参考になった。あとは俺の方で探してみる」

 紫を基調とした衣服を着た少年が酒場のドアをくぐった。




(西方。帝国領と共和国領の境目あたりで、ギリギリ共和国領の辺りってぇところか。そこで吸血鬼を見た、という目撃談が頻繁に流れると……他に希望も無ぇし、時間も無ぇ。行ってみるしかなさそうだな……)

 少年は手近な店に入る。そこは馬を扱う店だった。


「いらっしゃい」

 白いシャツに黒いエプロンを着けた男性が手元の誌面から目を離し、少年を見据える。

「馬を一頭借りる。必ず返すさ」

 男性店員は眉毛をピクリと動かしただけだった。

 そして男性店員はおもむろに口を開く。

「賃貸料金、ニ千セル。保険金、五十万セル」

 当然の額だ。馬一頭はそれだけで一財産になる。貸したあと戻ってこなければご破産という寸法だ。故にこの馬貸うまかしでは、馬が戻ってこない時のために保険金を預けるのだ。


「これで十分か?」

 少年は札束を置く。その札束を見た男性店員は無言のまま、手元の引き出しから『五番』と書かれた札の付いた鍵を投げ渡される。これは、馬の戒めを解く鍵である。逃げ出したり、盗まれたりなんてことでは、商売上がったりなのでしっかりと繋いでおく。

「それじゃ借りるぜ」

 一言告げると、男性店員は手元の誌面にまた視線を落とした。




 茶色い毛並みを持つ馬の拘束を解いてからまたがり、馬を走らせる。夜の、冷たく流れる風が少年の紫がかった髪を揺らし、頬を撫でる。

 少年は口の中で何かをブツブツと呟いたあと、周囲に人が居ないことを確かめると、誰かと話すような調子で言った。

「おい、ゆっくりでいい。子供ガキ連れて西方に来い。どっかの街に着いたら術式で俺に伝えろ……」

 そして少年は僅かな間を開けたが、力強く言い放った。


「……すぐに血ぃ持っていくからな!!」


 少年は再び口を閉じ、馬の走る速度を速めさせる。馬の方も乗者の意思を汲みとったのか、少年の願いに応え、走る速度を速めた。





 金色短髪で、大きめの鎧を着た青年の堅く握られた右拳が、相棒の、黒髪が特徴で、黒が基調の衣服を纏う少年の左頬に突き刺さった。

 少年はニメトもの距離を飛んだ。座り込み、右手を地面に突いて体を支える少年。その双眸はまっすぐに青年を睨みつけている。

「何しやがる。アイゼン!!」

 その少年の声音は怒気を孕んでいた。

 声を受けた青年は、酷く落ち着いた声音で、抑えるのに必死な様子で続けた。

「……てめぇが…………そんなんで……いいのかよ……」

「っは!?」

 少年は何を言ってるのか分からないという表情を作っている。

 それに構わず青年は続ける。

「……だから…………このままヤツを追うのかって聞いてるんだよ……」

 それを聞いた少年が立ち上がる。その表情は怒りに満ちている。

「ふっざけんな!! 恐いからってヤツを追わないのか!? シエルを、俺たちの仲間を奪ったヤツを許しておけるのか!? 俺は許さない……ヤツも、ヤツに対しての恐怖でビビっちまって、剣も抜けなかった自分自身も……」

 少年は深く俯いた。その姿は神の前に深く懺悔しているようにも見えた。


「そう、言ってるんじゃねぇよ……」

 青年は続ける。俯いてしまった相棒へ向けて言葉をぶつける。

「悔しいのが、てめぇだけだと思うんじゃねぇよ!! 今は追いかけるより大事な事があんだろ!!」

 ゆっくりと、顔を上げかける少年。黒髪で隠れ、その表情は見えない。

「……な……ん……だよ」

 青年は荒げた声の調子を戻すべく深呼吸をして、続けた。


「情報収集だよ。今の俺たちにはヤツに関しての情報は皆無といってもいい。だったら情報を集めなきゃだろ! てめぇ一人が突っ走ってどうする? 助けられるモンも助けられねぇぞ」

 少年は俯いたまま、小さくコクリと頷いた。その拳が堅く、力強く握られるのを青年はしっかりと見た。

 少年の弱々しい背中をバシンと叩き、青年はにこやかな笑みを浮かべた。


「先ずは酒場に行こうぜ! 大抵の情報はあそこで揃う。無きゃ、情報屋でも探せばいい」



 青年に連れられ、少年は弱々しい一歩を踏み出した。

 その一歩は弱々しかった。しかし、彼の表情は強い決意が宿っており、拳は血が滲むほど強く握られていた。

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