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剣戟の幻想物語 4 紅血の鬼  作者: やきたらこ
終章~鬼と少年の血戦録記~
14/17

2.

 暗い通路。右側の窓々から青白い月光が通路に差し込む。 

 後方から金属がぶつかる音が断続的に聞こえてきた。置いてきた相棒の勝利を祈り、前を見据えて駆ける。


 隣を走るゼノが、不意に声をかけてきた。

「お前ぇ、なぜ吸血鬼を狙う」

「えっ?」

 驚きを隠せず、ゼノの横顔を見た。彼は真剣な表情を変えず、通路の奥から視線を外していなかった。

 ゼノの問いは俺もゼノに対して疑問に思っていた。


「俺は、シエルを……仲間が囚われているから……」

 その事を言葉にすると、ぐっと胸が締め付けられるが、それでも言い切った。

 俺の回答に対し、ゼノはそうか、と言っただけだった。

「ゼノが、追う理由は?」

 教えてもらえないだろう、そう思ったが聞かずにいられなかった。

 しばしの沈黙が流れる。その間も、断続的に響く金属音は遠ざかっていった。





 走る方向を変え、階段をのぼり始めた時だった。

「一人の子供ガキの為だ」

 唐突にゼノが先ほどの問いの答えを口にした。

「誰かの、子供?」

 ゼノの表情は変わらず真剣で、階段の先を見ていた。しかし、隠そうとしているが、言葉の端々から焦燥のようなものが読み取れてしまう。

「名前も知らねぇ子供ガキだが、高熱にうなされてやがる。治すには吸血鬼の血が有効らしいんだが……」

 そこまで話すとゼノは押し黙った。なにか迷いがあるように目を伏せたが、すぐに開き、言葉を続けた。


「罪滅ぼしにもならねぇ、贖罪になんざならねぇってこたぁ分かってる!! でも、あの子供ガキがこんなんで死んでいい理由にはならねぇだろ!!」

 言葉を吐き出し、彼はなおも続ける。

「今まで散々殺してきた。だが、あの子供ガキの笑顔だけは殺したくねぇんだ…………こんな俺に“救い”なんてものが無いのも分かってる……俺と関わちまったあの子供ガキにまで“救い”が無いなら、俺が助けなきゃなんねぇんだよ……」


 ゼノが言葉を吐き終えてから二人に沈黙が流れた。金属音も聞こえなくなり、二つの足音のみが通路に響く。

 俺は、重い覚悟を持つゼノに言葉をかけることは出来なかった。だが、俺の覚悟がゼノより軽いことは絶対にない、と思った。



 お互いの重い覚悟と理由に言葉をかけられぬまま、大きな扉の前に着いた。

 一対の観音開きの、木製の扉の隙間から重い殺気が漏れている。

(ここにシエルが……)

 俺は奥歯を噛み締めた。拳を握ろうとしていたが、深呼吸とともに両手の力を抜いた。

「絶対に倒す……奴を倒してシエルを助ける!」

 俺はゆっくりとした動作で背中の剣の鞘を握った。

 力を入れ、一気に抜剣。じゃりんという音が通路の最後に響く。


 俺は隣のゼノを見やって言った。

「その子、助かるさ」

「絶対助けんだよ……!」

 ゼノも抜剣した。お互いに視線を合わせ、次に観音開きの扉を視界の中央に収めた。


 不思議な気分だった。一度は殺しあった仲だが、ずっと前から共に戦ってきた相棒のような安心感を感じた。こいつが一緒なら恐くない。恐怖し、逃げてしまったあの時とは違う何かが俺の中にあった。

(シエル……ゴメンな、一度は逃げちまったけど、絶対にそこから連れだしてみせるから。だから、待っててくれ!!)


 俺とゼノはそれぞれ扉のノブに手をかけ、合図も無く同時に開いた。

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