1.
手入れの行き届いていない庭を抜け、中庭と隣接している古扉を開いた。
「不気味なモンだな」
隣でアイゼン・グリッダが呟く。心中で同意し、俺は中へと足を踏み入れた。
向かって正面にあるのは横に大きな階段。上がると、左右に分かれている。
「簡単には行かせてくれないよな……」
アイゼンの声と重なり、重そうな金属が擦れる音が響く。
暗い階段上から降りてきたのは、重厚な鎧騎士だ。
鎧騎士の顔はバイザーで隠れて見えないが、二つの紅い輝きは隙間から微かに見える。
「リアン、ゼノ。お前らは先に……俺はコイツを止める」
既に抜刀している相棒に向け、俺は言葉を投げた。
「でも! お前一人だと――」
「いいから、行け!!!!」
返ってきたのは怒声だった。
僅かに気圧され、身を引いた。
その瞬間、アイゼンの眼前、俺の右隣で火花と金属音が飛び散った。
「早く……行かねぇと………シエルが……手遅れに……」
一人の少女の名前が出た途端に、俺の思考がフル回転し始めていた。今は何を優先するべきなのかを自然とはじき出していた。
「グズグズしてんじゃねぇ!! 行くぞ!」
既にゼノが先に走り始めていた。
俺もすぐにその後に続いた。
誰に語りかけるでもなく、アイゼンは独りごちた。
「ようやく邪魔者がいなくなったな」
アイゼンの独り言に答えるかの如く、全身鎧騎士の大きな両手剣の重みが増す。
「始めようぜ!!」
大盾で両手剣をいなし、右手の長刀を振るう。
元が歴戦の戦士だったのか、鎧騎士は凄まじい速度で両手剣を引き戻し、アイゼンの長刀を防いだ。返す刀、両手剣は長刀を弾いた軌道から勢いを殺さず、アイゼンの首へ迫った。
咄嗟に構えた大盾も大きく弾かれ、仰け反ってしまい、致命的な隙を見せてしまった。
この隙を見逃すほど甘いレベルの相手ではない。
「ぐ、ぶるぉあ!!」
金属に阻まれた奇怪な声をあげ、重そうな両手剣を大上段から振り下ろされる。
(ここじゃ、終われないんだな、これが)
アイゼンは地面から左足を上げた。仰け反った勢いを殺さないように、右足を時計回りに半回転。そしてそのまま倒れこむように左足を後方へ踏み出した。
体勢を整えるとそこには両手剣が床に突き刺さった鎧騎士。
「ここまでだぜ?」
アイゼンは準備の整った術式を展開。眼前に複数の拳大の大きさの岩粒が出現した。鋭い方は全て鎧騎士へ向いている。
「地の力は悪しき者を浄化する!!」
言葉と共に、長刀の剣先を勢い良く鎧騎士へ向けた。長刀の動きと呼応したかのように岩粒が一斉に動き出した。勿論鎧騎士へ向かって。
(終わったな……)
アイゼンの考えが覆るのに時間はいらなかった。
「ごぅるぅぁあああ!!!!」
低く太い声が城一階層に響き、両手剣の刺さった巨大な床タイル一枚が動いた。
鎧騎士は引きぬいた巨大な床タイルを巨大な盾として扱い、岩弾を全て防いでしまった。次いで、両手剣から床タイルが外れるように器用に振るったため、アイゼンの方へ床タイルが飛んでくる。
大質量の物体を真っ向から受け止めるのは自殺行為である。
「あっっぶね!!!!」
間一髪、上体をかがめ、回避に成功した。
後方で床タイルがバラバラに砕け散る音が響くが、アイゼンは視線を鎧騎士から離さなかった。
「只者じゃないな……」
アイゼンの言葉に鎧騎士は何も答えない。答えたのは鎧騎士の持つ両手剣。
両手剣がブウンと空を斬ると、アイゼンが構えた大盾と激しくぶつかった。
「楽にはいかないな……」
またしても答えたのは両手剣による一撃だった。