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心残り  作者: 久乃☆
5/5

5.冗談じゃないよー!

「もしかしたら、食べても太らないのかな」


「なんだい?」


「タバコを吸っても肺がんにならないんでしょ?」



 おじさん、タバコを口から離すと、その手に目を向けた。



「あぁ、そうだね。生きてるころから気にしてなかったけど。死んだ今は、どんなに吸っても健康に害はないね」


「ということは、どんなに食べても太らないってことじゃない?」


「確かに、死んだときのスタイルは維持してるね」


「私、ダイエットを考えずに食べたかったの! 幽霊も案外いいかも!」



 要するに考え方の問題じゃない。成仏してあの世に行くというのもありだけど、果たしてそれが素晴らしい世界かどうかなんて、誰が知ってるの?


 それより、幽霊としてでもこの世で好きなことをして、楽しく暮らした方がいいじゃない。


 気持ちを切り替えたら、あとは簡単。行くべきはケーキ屋さん!


 ずっと食べてみたかったケーキ屋があるのよね。でも、お母さんが『あそこは高いから買えないわよ』って言うのよ。食べたければ、働けって。そりゃわかるけどね。働きたくないんだから、仕方ないじゃない。


 風に乗るようにふわふわと心浮かれながら、高級洋菓子屋の店の前に立った。



「ここ?」



 なぜかおじさんが未だに付いてきてるけど、別に構わない。きっと、暇なんでしょ。


 私は店のドアをすり抜けて店内に身を滑らせた。店内は甘い香りで満ち、ショーケースには可愛いケーキが並んでいる。それは可愛いだけではなく、宝石のようにも見える。



「おいしそうー!」



 ショーケースにへばりつくように顔をつけても、その姿は誰にも見えないのだ。ということは、誰にとがめだてされることもない。


 私は店員が並んでいるショーケースのバックに回ると、ガラスに手を突っ込んだ。


 あまりにも美味しそうなケーキに誘われて、衝動的にガラスに手を入れたけど、突っ込んでみて驚いた。なんと、ガラスにぶつかっても痛くないし、通り抜けることができるのだ。


 そりゃぁ、空をとぶことも壁をすり抜けることもできちゃうくらいだから、当たり前なのかもしれないけど。やっぱり驚きだよね。


 そんなこんなで、ガラスに手を入れたり出したりしながら、しばらく楽しんで、やっとケーキを食べる気になった。そこで気がついたんだけど、ボールペンも持てない初心者幽霊が、果たしてケーキを持てるのだろうか。


 果たして、持てたとして、ケーキが浮遊してたら店員さんもびっくりなのではないか。


 しばし考えた。いくら考えても答えなんて出てこない。なにせ、全てが始めてたのだから。



「どうしよう。もしも、ケーキに手を伸ばして、掴めなかったら。目の前にして食べることができなくて、最低最悪の展開になるような……」



 悩んで苦しんで、冷や汗が出てきちゃった。そんな私を楽しそうに見てるのはおじさんだ。店の片隅で、腕組みなんてしちゃって、ムフムフしてる。



「ねぇ、おじさん。幽霊でもケーキを持てるの?」



 とうとう自己解決できない私はおじさんに聞いてみた。



「そうだなぁ」



 何を勿体つけてるのよ。早く教えてくれたらいいのに。



「実態は触れないけどね。なんていうのかなぁ、感覚的にっていうか、コピーというか……そんな感じで触ることができるから。ちゃんと味もあるしね」



 へぇ~。そういうことなのか。


 それなら安心してリトライだ。


 私は再度ガラスに手を入れて、そっとケーキを手に取った。


 なんと! 確かに、実態は持てないけど、私の手にはケーキがある。そして、ガラスケースの中には実態のままのケーキがある。


 あまりの嬉しさに踊りだしたいけど、ここは我慢だ。


私は手にしたケーキを口に運んだ。

 

口の中に広がる甘さ。その上品なことと言ったら、初めて経験する豊かな旨み……と表現していいのだろうか。初めてだけに分からないけど。それでも、楽しい、嬉しい、美味しい。ということで、次から次へと口へ放り込んだ。いくら放り込んでもケースの中のケーキはなくならず、私の方も太らない。勝手に食べても怒られることはないし、泥棒扱いもされない。



「最高―! こんな幸せがあったなんて、大満足だわー! 死んでよかったー!」



 ショーケースの中にある幾多の種類。それらの種類を全て堪能しつくし、最高の幸せがここにあったなんて、大満足だ! と喜んでいた時だった。天から光がさし、天使の声が聞こえてきた。



「いらっしゃ~い」


「あ! これがお嬢ちゃんの心残りの原因だったのか。よかった、本当に良かった。これで成仏できるねぇ」



 おじさん、真面目に涙して喜んでくれてるけど、冗談じゃないわよ! やっと最高の幸せを手に入れたのよ! これからもっと食べて食べて、それでも太らない幸せに溺れてやるつもりだったのに、何で今、お迎えに来ちゃうのよ!


 と叫んでも許されないみたいで、天使が私の両手を引っ張る。



「ちょっと待ってよ! ケーキだけじゃなくて、パフェだって食べたいのよ!

やっとやり残したことが分かったのに、何で呼ばれなくちゃならないのよ!」



 抵抗してみたけど、一度呼ばれると強制成仏?


 もう、私の意志は認められないわけ?


 冗談じゃないっていうの! 



「お嬢ちゃーん、あの世についたら、おじさんのこと迎えに来てねぇ」


「だから、私は成仏したくないっつーの!」



 どんなに文句を言っても、天への道が閉じることはなかった。




満足するまで食べるんじゃなかったぁー!!!




end


最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

どうでしたか? 楽しく読んでいただけたでしょうか?

幽霊ものは結構好きで書いてますが、どれもこれも楽しい幽霊になってしまって(^_^;)

どうしてでしょうねぇ。

また次回作もよろしくお願いします。

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