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第四章 尻尾の生えた男

頭が痛い。

起きて最初に思ったのはそのことだった。

「やっと起きた」

声のするほうを見るとハスナが自分のほうを見ていた。

「何で俺寝てたんだ?」

「私が殴ったから」

何のためらいもなくハスナはそういった。

「天村海斗?」

「俺の名前だな。つか何で知ってんだ?」

あたりを見渡すと見覚えがある風景だった。

「ここに入る壁の横に書いてたのと、直したほうがいいと思うよ」

「壁の横に俺の名前?直す?」

うなずくとハスナは立ち上がり、歩き出したので天村は後を追う。

(ここ・・・・・・俺の家、だよな)

そんな考えは目の前の光景ですぐに消えた。

無数の穴があいたドアに、血まみれの本に靴などが散乱している。

血まみれなのは仕方ないとこもあるが

「なあ。壊したものは自分で治すよな?」

「こんな未知のものは私には直せないよ。第一、私今魔術使えないし」

といいハスナは手を掲げるが何もない。

「ね?」

怒りよりも呆れた。

「夜?」

外を見ると暗かった。

病室を出るときは、朝の八時だったはずだが時計を見ると、十二時間先の二十時を指している。

「ったい!」

ドアをつぶされたのと気絶させられた怒りで、一発殴っておいた。


「本当に食べないとだめなの?」

ハスナはグーグーなるおなかを押さえながら目の前に出てきた、ハンバーグを見ながら天村に聞いた。

「当たり前だ」

朝から何も食べていなかった天村は、冷蔵庫の中を見たがからっぽだったこともありハスナとレストランに来ている。

ここまでは予定道理だったのだが、注文が届いてからは全くの予想外だった。

ここに来るまでの間も腹を鳴らしていたのに、料理に手をつけようとしないどころか、できるなら食べたくないと言っているのだ。

「病院でそういえばお前変なこと言ってたよな。魔術がどうたら」

「お前じゃなくて、ハスナ・フローリエ。あと魔術がどうたらじゃなくて、魔術で生きるのに必要な栄養を作ってとりこんでるの・・・・・・・・・・・聞いてる?」

ハスナの意味不明な言葉を聞き流しながら天村は一人ご飯を食べていた。

その様子をハスナは、無視された怒りと、なぜか恐怖の表情で見ていた。

「魔術どうたらって言われてもな。俺たち魔術なんて使えないし」

「何言ってるの?君、使ってたじゃない」

「俺が魔術を使った?」

「ん。私が突き飛ばされたとき心臓貫かれたでしょ?」

レストランでする話ではない気もしたが、天村はうなずく。

その場所に手を当てても傷跡もない。

「でもね。普通あんな大けがを、あんな短期間に直すなんていくら高度な治癒術でも無理なんだけどね」

「それならお前もそうだろ?」

「私?」

天村はハスナに、帰ったら血まみれで倒れていて、聞いた話では傷は勝手にふさがったようだ、と簡単に説明した。

そもそも魔術をつかうには意識がなければできないうえ、ハスナはこのときすでに核を破壊されていた。

そんな状態で背中をえぐるような傷以前に、魔術すら発動できるはずがない。

現に今も魔術を発動させようとするが、発動する気配すらない。

「それ私の魔術じゃないかな。その前に私回復魔術使ったことないし」

「話はよくわかんないけど、それが本当なら魔術のことがもっとひろがってるんじゃないのか?」

水を含みながら天村はそう聞き、すぐに食べることを再開する。

その様子をハスナはまた恐ろしい物でも見るような眼で見ると、めんどくさそうに天村の問いに答える。

「まだこの世界に来てすぐだからよくわかんないけど、この世界魔術がないんじゃないの?」

天村は結論を出した。

(こいつは馬鹿だ)

だからもう何も聞かないようにしようと。




「ねえ?」

なんでこの人しゃべらなくなったんだろう?とハスナは黙々と食べている天村を見ながらそのことを考えていた。

魔術やらこの世界やらよくわからないことを言われた天村が、ハスナを適当に馬鹿と判断したからだとは気付かずに、目の前の少年が食べている謎の物体を体内に取り込んでいるせいかな?などと、見当違いのことを考え始めていた。

ぐー自分のおなかのあたりから音が鳴ると少し苦しい感じがするけど、どうやって直したらいいのかわからない。

(こんなことはじめてだし。やっぱり核を破壊したせいなのかな)

そういえばさっき天村も何度かおなかがなっていたが、今は鳴っていない気がした。

「・・・・・・・・」

この苦しさから逃れるためには、食べるしかないと情報を分析すると、恐る恐る天村と同じように端を持つ。

「い、いらっしゃいませー」

新たの客の訪問に店員の声が一瞬だけ詰まっていた。

その声で決心が鈍ったハスナは、なぜ詰まったのか見てみたい好奇心が出てその客を見てしまった。

ごく普通の高校生の体格をしている客だ。

「な・・・んで・・・あいつ、が」

その客は明らかにこの世界の物ではないとすぐに分かった。

強い魔力をもったものが、その肉体に抑えきれなくなった時に自然と現れる尻尾を持っている。

そして何かを食べに来たというより、何かを探しているような動きをしている。

そしてハスナはあの男を知っている。

「海斗」

「呼び捨てか?」

「生きたかったら・・・・・もう遅いかもしれないけど早く、今すぐここから逃げて」

天村が返事をしようと口を開いた時、尻尾の生えた男と目があった。

瞬間。

紫の光が心臓を貫いた。



口を開いた恰好のまま天村は止まっていた。

家で血まみれになって倒れていた少女とファミレスで、夕食をとっていると突然ハスナと名乗る少女が、生きたかったら逃げろ、と叫んだ瞬間胸から血を噴き出していた。

わかったことは、血が噴き出すほんの少し前、そこに紫の光がどこかから飛んできたこと。

それがわかったからこそ、天村は紫の光が来たであろう場所を見た。

明らかにこの世界の人間ではない者。

ハスナが血まみれで倒れていた時ついていた尻尾を持つ男。

そして、その手にはかすかながら紫の光が残っている。

「てめえか!」

激怒した。

何の罪もない女の子の命が失われそうなことに。

それを実行した者に対して。

そして・・・・・・この女の子の話を途中から聞かなかった自分に対して。

「誰かね?君は」

男の声は同じ人間に話しているように聞こえなかった。

そしてその視線も冷たい。

だがその視線は天村を見ていない。

「うーん。心臓をつぶしてもすぐ死なないってのは本当のようだなぁ」

ハスナのどす黒い穴ができた場所だけだ。

「おい」

「ん?」

天村はハスナの近くに行くと傷跡に手を載せる。

「てめえはあとだ。今は動くんじゃねえぞ」

今は一刻も早くしなければならない。

一人の命を助けるために。



小学生の時、あだ名がつくことはよくあることだ。

あるものは名前をいじった物。

天村海斗もあだ名をいくつか持っていたが、最初についたあだ名が何だったか、高校生になった今でもはっきりと覚えている。

化け物

高学年になればなるほどそのあだ名は頻繁に使われるようになり、中学生になってからは化け物退治といわれ暴力にもあったこともある。

けど天村はそれで誰かに頼ることはなかった。

すでに認めていたからだ。

自分が化け物であることを。



尻尾の生えた男が近づいてくるのがわかった。

店にいた客も、ハスナが突然血を噴き出した時店から出て行ったようだ。

いるのは、死にかけのハスナ。

傷口に手を載せている天村海斗。

確実にとどめをさすためハスナに近づく男。

天村はこの時、初めて感謝した。

自分が化け物であることに。

ハスナの傷がふさがっていく。

流れ出た血が傷口に戻り、敗れた服が元の形を取り戻していく。

「何をしているんだい?」

このままじっとして、ハスナが目を覚ますまで待っていたい。

「なんでこいつの命を狙ったんだ」

「何をしたんだと僕は聞いたつもりだけど?」

「んなことはどうでもいい。こいつが、なんで狙われてるかってのが、今一番問題だろうが!」

紫の光が顔の横を通り過ぎて行った。

「僕は何したんだって聞いているんだ。意味わかるよね?」

命令と男は付け足す。

答えなければどうなるかぐらい予想はできる。

天村は店にかかっている時計を見る。

九時二十分。

(今俺かこの子が致命傷を負ったら助からない。素直にあいつに俺の力のことを話しても殺されない保証はない)

天村は後ろを振り返る。

窓際に座っていたこともあり、ちょっとよれば窓にあたる距離だ。

傷を治すために置いた手はまだそのまま。

テーブルの上には食べかけの料理と全く手のついていないハンバーグの上に、フォークが乗っている。

(一か八か!)

俊敏だった。

天村は空いている手でテーブルの上のフォークをつかみ取ると男の額向け強引に投げつける。

結果など見るつもりはさらさらなかった。

もし当たったら自分が人を殺す瞬間を見ることになるのだけは嫌だった。

だけど目に入ってしまった。

投げたフォークが額にあたる瞬間を。

投げた後、ハスナを抱え窓を割って逃走を図ろうとしていた天村の動きが止まる。

確かにフォークは額を貫く勢いで飛んでいったはずだ。

なのに何もなかったかのようにフォークは地面に落ちていく。

額に傷などない。

逆にフォークの先が折れ曲がってる。

「・・・・・っ!」

思考を無理やり引き戻し逃走を図ろうとするが遅かった。

ハスナを抱え窓を破ることには成功した。

だが、その直後あの、人の命を簡単に消し去る紫の光が天村の腹を貫通した。

音があったのはハスナが天村の手から滑り落ちたこと、天村が倒れたことぐらいだ。

「・・・・がはっ!げほっ・・・・・げほっ!!」

「.うるさいなぁ。どうせ死ぬんだから黙っといてよね」

苦しい。

息をしようにも逆流した血がのどに詰まって、上手くできない。

「だいたいさぁ?僕質問に素直に答えていたら・・・・・・な・・・・・な、んで」

男の声が明らかに震えている。

致命傷の天村ですら瞬時にそのことを理解できた。

だがそもそもなぜ、この世界の住民ではない尻尾の生えた男の声が震えたのだ?

致命傷を負った天村が何かできるわけもない。

では、誰かのピンチに駆けつけたヒーローか?

これも違った。

もしそんなのが現れても、この世界の人間なら紫の光ですぐ死んでしまう。

たとえば知らないものがいないほど強く、この世界の人間ではないものが現れたらどうだろうか。

だが、こんなタイミングよくそんな存在が現れるだろうか?

そもそもそんな存在も現れていない。

野次馬の一人もいない状況で、誰かがいれば天村もすぐに気づき、避難を必死に呼びかけようとするだろう。

だとすれば何におびえているんだ?

天村は一人を探していた。

あの男が震えだしてから見つけれない存在が確かにあった。

ハスナ・フローリエ

あの血に縁がある存在が見当たらない。

だけどよく似た存在ならいる。

それは天村とあの男の間にいる。

まるで天村を守るように。




心地いい。

意識ははっきりしないが、悪い気分じゃないことだけはわかる。

尻尾の生えた男に紫の光を心臓をもろに受けて少ししてからだ。

別に痛いのが好きなのではない。

むしろ嫌いな方だ。

もし、死にかけの状態で心地いと思うやつがいたらマゾ以上だ。

ハスナはそれに値はしていない。

目が開かないからはっきり確かめられないけが、傷が治ってきている。

そして明らかにあるものが入ってきている。

天村がハスナの傷を治すため傷口に置いた手から流れ込んできている。

つい昨日まで生まれてからひと時も離れることがなかった物。

けど、つい先日失ってしまった物。

魔力が。


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