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第一章  血まみれの少女

はぁと天村は大きなため息をつく。

「今日も傷増えたね」

その隣を、腰まである茶色の長い髪に、天村と同じ学校の制服を着た鈴木琴音が何やら楽しそうに歩いている。

「人が傷増えてお前はうれしいのか?」

「うん!」

即答だった。

はじめてなら歩みも止めただろうが、この琴音がドエスだということは、小学低学年のころからわかっていたがなぜか悲しくなる。

さらに災厄なことについさっきの怪我も琴音のせいだというとこだ。

ドブの近くでこけたアヤネを受け止めたら、自分だけドブにおちて、琴音は道に寝転がっているという形になっていたのだ。

どういうわけか琴音が怪我をする場面に天村がいると、その怪我を天村が引き受ける形になってきているのだ。

天村海斗は琴音の怪我の避雷針のような役割をしている。

もちろん本人が望んでいるわけではない。

ドエスでドジっ子おまけにドアホというド三拍子をもつアヤネを見て天村はため息をつく。

「あ、じゃあね。又明日」

目の前にそびえたつ六階建てのマンションを見た後、琴音は天村ににそう言うと足早に横断歩道をわたり人ごみに埋もれていく。

「消毒薬余ってたかな」

なかなかしないであろう心配をしながらアパートの四階までエレベータで上る。

上っている途中天村は頬にできた傷に手を当てる。

手を話した時にはそこは肌色をした皮膚があり怪我はどこにもなかった。

おまけに泥で汚れていた服もきれいになっている。

つまり琴音がこける前の状態になっているのだ。

この世界に超能力や魔法、魔術といったたぐいのものは存在しない。

存在しないが天村には生まれながらにして不思議な能力があった。

何でそんな力があるのかなんて誰にもわからない。

医者に見せてもよくわからないまま。

いえば天村だけにある謎の力といったところだ。

ウィーンとエレベーターのドアが開く。

誰もいないことを確認すると、エレベーターから降りる。

ドアが閉ると下に降りて行くのを確認すると誰かが、したからエレベーターを操作したようだ。

自分の部屋のドアをいつものように開け中に入る。

「な・・・・んだよ。これ・・・・・」

目の前の光景に目を見開いた。

血を連想しそうな赤い髪。背中から生えている翼。おしりの上から尻尾のはえた素っ裸の少女が全身傷だらけで倒れていた。

初めて見た。その流れている血の量は異常としか言えないものだ。

一リットルのペットボトルに全部入れると軽く五本は超えるかもしれない。

とくに頭と背中だ。

頭からはまだ血が流れている。

背中の方は所々原形をなしていない部分がある。

血を触ってみるとまだ固まっていなかった。

血が固まるのは大体十五分ほどだと聞いたことがある。

そこまで考えて今自分はなぜこんなに冷静なのか?と、何かしなければいけないことがあるはず・・・

「救急車!!」

天村は急いで119に連絡した。

救急車が来たのは五分後。

その頃には頭の血は止まっていた。


時刻は二十三時を回ろうとしていた。

謎の少女が手術を受けている間、警察の事情聴取や謎の少女の連絡先など聞かれ答えれる範囲で答える。

事件に巻き込まれたと聞いた知り合いから、連絡が着たりしたが全て無視した。

自分でもよくわからないことを聞かれても余計に混乱するだけだ。

睡魔は襲ってこなかった。

ただこのまま自分は殺人犯にされてしまうのではないかと恐怖だけがあった。

時間を見るためスマホを取り出すが電池切れとなっている。

玄関を開けた後のことをもう一度思い出す。

血まみれというのも常識から外れてはいるが、翼と尻尾の方が非常識だ。

天村にはあれがコスプレの道具だとはおもはなかった。

自分でもなぜだかわからないがあれはあの少女から生えているのもで、もう見ることはないような気もした。

なぜ赤の他人のことをこんなに心配しているのだろうか、そんなことを考えているとき手術中と書かれた赤いランプの明かりが消えた。

少女の手術がどんな結果であれ終わったのだ。

最初に出てきた人は天村の謎の力の解析を行ってくれている人だ。

その表情は悲しんでもいれば喜んでもいる何ともよくわからない表情だ。

「・・・・け」

「落ち着いて聞いてくれるかな?」

――結果は?と聞こうとしたとき医師がそう聞いてくる。

天村はそれに無言でうなずく。

最初からうなずくとわかっていたかのように医師の説明はすごく滑らかで、落ち着いたものだった。

「はっきり言って僕たちは、ほとんど何もできなかった」

天村の背中に冷たいものが走る。

まだ見たことのないあの少女の笑顔が頭に浮かぶ。

「じゃ、じゃあ。あの子は・・・・」

目の奥からこみ上げてくる何かがあるが必死に抑え込む。

今の医師の言葉が本当ならあの少女は、涙を流すことすらできないと天村は考えたからこそ抑え込んだのだ。

自分がもっと早く帰っていれば。

「まあ話すより見てもらった方が早いかな」

「!い・・・・やだ」

死んだ人間なんて見たくない、そんなのを見たらどうなってしまうかなんてわからない。

「見たくないのかい?・・・それを聞いたらあの子どうおもうかな?」

「そんなの・・・・聞いたら?」

医師は確かにそういった。

今の言い方だとまるで、

「生きてる?」

「?そうだけど・・・・あ、もしかして・・・・ごめん!」

医師は手をついて誤ってきた。

何が何だかどんどんわからなくなってくる。

ゴトゴトと聞こえてきたかと思うと少女が乗った台が運ばれてきた。

天村は何も確認せず思わず顔をそむけてしまった。

「みてあげたら?かわいい寝顔だよ」

その言葉を聞いて恐る恐る少女の顔を見る。

すーすーと医師の言ったようにかわいい寝顔で寝息を立てている。

「あ・・・れ?」

安心したとたん体の力が抜け地面に尻もちをつく。

「でも・・・・」

医師のその表情はさっきまでと違い真剣そのものとなっている。

だが安心しきった天村に医師の表情の変化を読み取ることはできなかった。

「脳の一部だけは機能しなくなってるけどね」

「え?」

医師の唐突の言葉に天村は一瞬思考が停止した。

思考が元に戻ると

「どういうことですか!?怪我だってかん・・・・ぺ・・・き・・・・に」

何かおかしかった。

今台の上に乗っている少女は服をちゃんと来ていてそれ以外の場所は全部見えている。

あれだけ血を流していたというのにしていないのだ。

「あんた・・・・・殺す気なのか?」

自分でも驚くほど冷徹な言葉が自分の口から発せられ驚くが、そんなことは今考えるべきことではない。

「天村。僕は医者だ。医者である以上・・・・いいや人である以上人を殺すことは絶対にしない」

医師はそう断言した。

「じゃあ・・・・」

だが天村はその言葉がウソに聞こえていた。

目の前の状況からしたらそう考えるのが普通だ。

「じゃあ・・・なんで輸血をしていないんだ!」

そう。

あれほどの血を流せば輸血をするのが普通だ。

血が足りないから輸血をしていませんなど、馬鹿なことをいう暇があるならば血を集めるどりょくするはずだ。

だが天村はこの病院ではたとえ百人の輸血必要者が来たとしても、血は足りることを知っている。

「どういうわけか必要がないんだよ。その子には」

といい、医師は首を振る。

「そんなわけないだろ!案だけの血を流して輸血が必要だって事は素人の俺にだってわかる!医師のあんたがそれぐらいわからないわけないだろうが!」

「落ち着いて。位置から説明するから」

今すぐにでも目の前の意思を殴ってやりたいと思うが、それでこの子に何かあったら困ると考え拳を握るのをやめる。

「ふざけたこと言ったら」

「殴ってくれても構わないさ」

「!」

医師の自信にあふれたような声に気押されそうになるが冷静さを保つ。

「まず彼女の背中を見てごらん」

いつの間にか二人きりになっていた部屋の隅に寄せてある少女に医師は指をさす。

「あ・・・ああ」

少女を仰向けにし服を上げようとして戸惑う。

なにしろ女の服を勝手にめくった経験がないからだ。

今はそんなこと言ってる場合じゃないか。そう自分に言い聞かせ背中だけが見えるように服をめくる。

「おかしい」

天村の口から自然とそんな言葉が発せられる。

「そう。いくら優秀な医師でもあれほどの傷を完璧に治すことなんて不可能だよ」

医師の言っていることは正しい。

傷跡どころか糸の跡すらその日のうちに消すなんて絶対に不可能だ。

もしそんなことができる医者がいるとすればその医者は神と呼ばれる存在になるだろう。

「最初も言ったけど僕は何もしていない」

「そんなはずはないだろ。何もしてないのにあの状態から生き延びることなんて不可能だ」

「人なら・・・ね?」

「人?」

医師の言っていることが最初意味がわからなかった。

でもよくよく考えてみるとこの少女は確かにおかしい。

おかしいとこが多すぎて逆に何がおかしくておかしくないのかわからないぐらいだ。

「一応言っておくけど翼と尻尾は勝手に消えたからね」

「何の冗談だ?それ。そんな意味分かんないことはアニメの世界だけだってのは誰でもわかるぞ」

医師は何か馬鹿にするようなそぶりで頭を振り天村を指さす。

「じゃあ、君の力は現実にふつうに存在するものとでもいうのかい?」

「・・・・」

答えられない。

自分の手を眺めそこに炎が宿るのを改め確認するとこの力もアニメのようなものだ。

でもこれはアニメや架空の世界ではなく現実だ。

「もう翼とかの話はいい。おれが聞きたいのは脳の機能停止だ」

「うーん」

医師は目を閉じ説明するかで十秒ほど悩むが天村にせかされ話すことにする。

「簡単に言ってしまえば脳のごく一部が何かに破壊されたかのように使えなくなってるということだよ。それも本来人間の脳には部分がね」

「人間の脳?」

この医師は何を言っているんだ?一瞬だけだが天村は医師の頭の心配をした。

「前に説明したっけ?君の頭にも他の人間とは違うものがあるって」

「そういえばそんなこともあったな」

ずいぶん前にそんなことを聞かされたこともあったと今になって思い出す。

も?

今の医師の言葉は複数形、つまり

「あの少女も俺と同じのが」

「あったといったとこだよ」

「今度は過去形か?」

「今は破壊されて機能停止だよ」

(とんでも少女を見つけたものだな)

ここまで説明すると医師は眠そうにあくびをした後すぐに眠ってしまった。

どういうわけか、この医師は診断中でも眠くなれば寝るといったことが日常茶飯事の得わからない医者なのだ。

本来ならクビになるのだが、寝ている間も診断をしてちゃんとした薬まで出すという荒業をしているためと、手術成功率100%のためなかなかそうはできないのだ。

聞きたいことは山ほどあるが、起きろと何度も医師をゆするが起きる気配もなく、机に置いてあるこの少女の病室まで少女の乗った台を運んでいく。

時計は間もなく二時をさそうというとこだった。

「電車はないよな・・・・・」

個室に少女を入れると突然襲ってきた睡魔に負け少女に布団をかぶせると、その隣で天村自身も眠りにつく。


前話と比べれば刺激は控えめかな?

来週ぐらいには第二章をのせる予定です

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