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第十一章 メロンを選ぶか、タッチを選ぶか

デサリア界

「5月18日まで10日か」

日付を確認すると王はそうつぶやいていた。

「確かその日はハスナの誕生日だったな」

フードをかぶった人物の声が後ろから聞こえてくるが、気にならない。

この男が突然出現することにあせるのは、数回のことですでにわかりきっている。

「我はそなたのことをよくは知らぬが、ハスナのことを我が考えてる時によく来るな。そなたの過去を我は知らぬが、何かあったのか?」

「・・・・・それを答える義務はない、そしてお前が俺に無理やり聞くこともできない」

「どのみち我の行動は変わらぬ」

ディサイロンが右手を胸の高さまで持ち上げると、一つの映像が目の前に現れた。

天村と楽しそうに話しているハスナが映った。

「この男ともう一人ハスナに近づいた女を利用し9日後ハスナを殺す」

「なぜ、この男を利用しようとする。この男の力は貴様の理解を通り越した先にあるものだということは、カッペイとの戦闘中ハスナの魔力が、この男を経由し元に戻ったのはわかっているはずだ」

「だからこそだ。我はあの男の力こそがハスナを救える・・・・・・いや、何でもない」

「救える?貴様何を考えている」

口を滑らせた自分を恨むがもう遅い。

この人物がここまで聞いてきたのは、短い付き合いだが初めてだった。

どうごまかすか考えようとしたが、それは無理だとフードの人物の行動で不可能だと悟った。

魔力を集め始めた。

それも今までディサイロンが見たこともない種類の魔術。

「何を考えているか今すぐ話せ」

「そうせかすな。そんなもの向けられては我も対処ができぬ。すぐに話してやる、我がなぜこの男とあの女を利用しハスナを殺すことを決めたか」

すべてを話し終えたときフードの人物は消えていたが、その前に王の間がほぼ破壊状態にまで追いやられてしまった。

「やれやれ」

何かが壊れ誇りをかぶったのはずいぶん久しぶりなものだ。

「しかし、あやつがここまで荒れるとは」

何か嫌な予感だけがするがその理由までは不明だった。



5月15日10時

天村は今銀行で金を下ろしていた。

金を使って財布の金がなくなってしまった。

「俺が使ってるんじゃないのに、俺が損するって不公平だよな」

「だからあれはごめん」

隣でハスナが謝る。

「いくら下ろすの?」

「お前には教えんからな」

「なんで?」

「教えてほしかったら、自分の金を稼げ!お前がこの世界に来てから1週間俺の財布だけが軽くなってるんだ!」

「財布は今重くなった」

突っ込まれた。

確かに財布は銀行から金を下ろしたから重くなった。

「この場合の財布は銀行の残り講座も含むと俺は思うぞ」

ハスナの扱いはなかなか慣れれない。

ちょっと目をはなしたら迷子になるし、銀行で金を下ろすとき下手にボタンを押されて赤の他人の口座に金を振り込まれかねない。

現に一度あと一歩のところで通帳の数字が0になりかけた。

天村からすれば、好奇心が旺盛すぎて困る。

財布に金を入れている今でも触ろうとしている。

「触ったら当分メロン抜きだぞ」

その一言でハスナは止まる。

(まてよ?ここは俺の指示どうり触らせて赤の他人に振り込ませないようにしたら、メロン買う金が浮くから出費にやさしいんじゃないのか?)

もう一度ハスナを見るとメロンを選ぶか、画面にタッチをするかで必死に悩んでいる。

あまりに悩んでいるのか、指が画面の近くに行くとひっこめるを繰り返しているほどにだ。

これを自分と同じ歳にもうすぐなるやつがやってるんだと思うと、頭が少し痛くなる。

「そんなにメロンも食いたくて、それに触りたいのか?」

「触ったらメロン食べられないからメロン食べたいけどこれにも触りたいしメロン食べたいけどメロンも触りたいしメロンさわりたいしこれも食べたいし・・・・・・?今私これ食べたいって言った?」

もはや自分でも何を言ったのかわかっていないようだ。

この前タッチ形式のドゥーエスを買ったのだがすぐに飽きたようだった。

「わかったわかった、今日メロン倍にしてやるから我慢しろ」

瞬間ハスナの指が画面から離れ、出口に歩いていく。

「何してるの?早くメロン買いにいこうよ」

「切り替え早すぎるだろ!」

「?だってメロンは美味しいけどあれは食べれないし、触らなかったらいつもより多く食べれるんだからメロンを選ぶのは当然だよ」

その説明に半分飽きながらも銀行を出る。


「ところでお前何を買ったんだ?」

天村は銀行に来ることになった理由をハスナに尋ねる。

「・・・・・・」

「今日突然サアゾンから大量の荷物が代引きで来て、俺がそれを財布から代金を払ったわけだが、それを買ったハスナさんは、代金を支払った俺には何の説明もしないのでしょうか」

ここに教えなければ、メロン今日は抜き、とつければ速攻で教えてくれるだろうが、それはあえてしなかった。

「怒らない?」

さっきまでメロンが多く食べられるのがうれしいのか鼻歌を歌っていたが、今はそれも止まっている。

「買ったもの次第だな」

「・・・・・・最初はただカート?に入れてあとで海斗に相談しようと思ってたの」

「・・・・・」

「で、知らないうちにカートの中が消えてて、不思議に思ってたらあの人たちが来たの!だから私は悪くない。悪いのは勝手に来たあの人たち!」

「要するに、俺には言えないものを買ったのか?ハスナ」

その後ハスナは必死に言い訳をするが最後にはうなずいた。

どうやら知らないうちに注文していたのは真実らしく、本人も反省しているところがあったので、今日増やす予定だったメロンをいつもと同じ量にすることで話はついた。

それを涙目でハスナがうなずくとき、周りの人たちの視線が冷たかったが、気にしないことにした。

「海斗は学校行かないの?」

突然ハスナがそんなことを聞いてきた。

メロンが入っている袋を嬉しそうに持ちながら、首をかしげている。

その視線の先には天村が通っている高校がたっている。

「ああ、俺は行っても行かなくても変わらないからな。そんなことより早く帰るぞ」

学校は窮屈だ。

校内では誰とも話せない。

話さないではなく、話せない。

天村の力のうわさは誰もが知っている。

それが故にか、天村が近づいた途端生徒たちは逃げていく。

草野のようにごく少数の人間は話しかけてくるが、それでも校外でだけだ。

もし天村と仲良くしていると噂がたてばグループから外される可能性がある。

実際そうなったやつを何度か見た。

そのたびに罵倒され離れていく。

それさえも噂になり草野も窓越しぐらいでしか話しかけてこないし、学校では天村のことを嫌っているようなそぶりを見せている。

「海斗?どうしたの怖い顔して。そんなにメロンが早く食べたいの?言っとくけど私の分はあげないからね」

ハスナのおどけた声で我に返る。

ついでに靴を踏まれていた恨みとして軽くデコピンをかました。



5月16日

今日もいつものように草野に学校に来るよう言われたが、天村はまだ家にいる。

そもそも、学校に行かないと今日も決めているのだからまだという表現は少しおかしいのかもしれない。

腹のなる音を合図に時計を見ると9時をとうに過ぎていた。

「お姫様が起きる前に飯作るか」

ベッドの上を見ると寝息を立ててぐっすりとハスナはまだ寝ている。

いつものことだが、ハスナが寝ているとき最初に見るのは結構心臓に悪い。

「・・・・・・これは喜ぶべきなのか呆れるべきなのか判断に困るな」

上着とズボンの間から肌色が見えた。

最初のころはうろたえたが、ほぼ毎日見るうちに無防備に寝ているハスナの腹も見慣れ初めて来ていた。

極力ハスナを見ないように足元に蹴り飛ばされている布団をかぶせる。

胸まで見えていたら何もできないと天村は前々から思っているが、そういうことは今のところ一度もない。

上着とズボンの間の肌色も見えなくなったところで天村は調理に取り掛かる。

朝はいつもパンと天村家では決まっている。

最初のころは新鮮さでハスナも喜んで食べていたのだが、最近では白い米が食べたいやメロンまるまる一個食べたいなど、文句が増えてきた。

「今日のごはんはまるまる一個のメロンがいい」

トーストが焼ける少し前にハスナが寝言を言いながら起き上ってきた。

寝癖が付いているが本人は気にしている様子が全くない。

「今日もパンだ。そしてため息をつくな!」

「だって私朝パンと卵とサラダしか食べたことないんだよ?昼と夜はいろいろ出るけど、なんで朝だけは毎日同じなの?」

何回もしたことのある馬鹿なやり取り。

それが当たり前になっているが、二人ともずいぶんと長い間こんな風に誰かと会話していたということがなかったということを、徐々に忘れ始めていた。

「ちょっとお願いあるんだけどいい?」

朝食を終えると下を向きながらハスナが聞いてきた。

「なんでもするから聞いてほしいの。聞くんじゃなくてかなえてほしい」

今まで頼み事は主にメロンを買ってなど多かったけど、何でもするからと言われ頼まれたことはなかった。

その間、ずっと下を向いているハスナの頬が、朱色に見えたのもなんとなく気になった。

「別にいいけど、お前も女なんだから男に何でもとか頼むなよ。めんどくさいやつ相手だったら、本当にめんどくさいことになるぞ」

「今は海斗だから別にいいっていうより、めんどくさいことって何?」

うつむいたままなのは変わらないが、首をかしげている。

「わからないならいいんだけど」

そうなの?とハスナは一瞬だけ顔をあげたが、すぐ下を向いてしまった。

何か大変なことをやらかして、怒らないでとでも頼まれるのかとなぜか思ってしまう。

もし今後のことにかかわることならそれを守れる気がしない。

「・・・・・会・・・・・げて・・・・・ほしい・・・・・」

「なんて言ったんだ?」

「・・・・・・・聞こえなかったの?」

「あ、ああ。残念ながら俺は草野のように、100m先の針の音を聞き取ることはできないからな」

今のは比喩でもなく、本当に草野がやってのけたと聞いた話だ。

確かに草野は、ハスナが恥ずかしそうに何かを小さな声で言ってもすべて聞き取っている。

それを何か聞いても教えてくれないから、あとでハスナに聞いても教えてくれないからずっと気になってしまう。

「今度はちゃんと聞いて」

「俺の聞こえる声ならちゃんと聞く」

「・・・・・・誕生日、お祝いして・・・・・ください」

それを言うとハスナは後ろを向いた。

今までの人生で誕生日を祝ってと頼まれたこともないし、ハスナの誕生日も知らない。

それに、後ろを向いたハスナに誕生日がいつなのかなんとなく聞きにくい。

もし今日がハスナの誕生日で聞けないまま明日になってしまったら、どう謝ったらいいかおも見当もつかない。

どう答えたらいいのか考えているとハスナが最初に口を開いた。

「明後日だから」

「明後日?」

「私の誕生日。それで、海斗はしてくれる?」

「祝うって言ってもケーキ買ってきて、プレゼントあげてとかでいいんだよな?誕生日会開けって言われても俺知り合いあんまいないから無理だけど」

先手はうっておくに限る。

ここで誕生日会がいいと今までのハスナならいいそうだが、今のハスナは祝ってくれるなら何でもするというほどだ。

(まぁ、どうしても誕生日会がしたいなら草野に頼んでみるか)

しばらくの沈黙の後ハスナが部屋から出ていった。

確かあの方向にはハスナの服がおいていたはずだ。

昨日草野が何かをハスナに渡していた記憶が浮かんできた。

嫌な予感が的中しないことを祈るばかりだ。

「やっぱりそうなったか」

戻ってきたハスナを見て思わずそうつぶやいていた。

水色の胸からへその上までを隠せる程度の服に、膝の上までしかない白いスカートで現れた。

「やっぱりとか言わないでよ。私は海斗と違って着てる側なんだから、見られると恥ずかしい」

もじもじしてるのと、顔を朱色に染めてそらしているからそうだろうとは予想していた。

それともう一つおかしい。

いつもなら胸を見られているとわかると激怒してくるのに、今は隠そうとはせず必死に隠さないようにしているようにも見えてしまう。

「昨日草野に何を吹き込まれた?」

そう思うのが妥当だと天村は判断した。

「由美は関係ない。この服を着て頼むことと、何でも聞くっていうと多分何でも聞いてくれるとか言ってただけ」

それが問題なんだと天村は頭を抱える。

「誕生日会は無理だけどお祝いはするからその服は脱げ。明後日風邪ひいたら元も子もないぞ」

「え・・・・脱いだほうが風邪ひきやすく、でも・・・・・・・・・」

ハスナが何か言っているがよく聞き取れない。

ビシュッ、とでもなりそうな勢いでハスナがベランダを指さす。

草野のマンションが日陰になっているから、何かを干してもすぐ乾いてくれないのが難点になっている。

最近では外に下着を干すのをやめろとハスナに言われ中で干していることから荷物置き場になってきている。

理由を聞こうとしたら「黙って」と言われてしまい、何も聞かないままベランダに天村は出ることにした。

ベランダから中を覗こうとしたら慌ててハスナにカーテンを閉められ、鍵をかけられた。

「追い出されたのか?これ」

この時にはもう気づいておくべきだったと天村は数分後後悔することになった。

マンションとマンションの間から空を眺めていると、鍵が開く音がした。

「もう入って大丈夫」

かなり小さな声だったが、何とか聞き取れた。

(服着替える時追い出されたのはそういえば初めてだったな。女にしかわからないやつな・・・・・・・)

部屋に入った瞬間天村の思考が停止した。

意識が戻ると瞬時にこの状況の理解に取り掛かる。

目の前にはさっきまで来ていた水色の服とスカートを両手に持って座り込み、見られたくない場所を隠すハスナの姿がある。

顔は下を向いているがやはり頬は朱色に染まっている。

「もしかして着替え中に入った?」

うなずいてくれると思ったが首を横に振られた。

「こ、これでお誕生日・・・・・・お祝い、してくれるんだよね。服・・・・・どけるのは、恥ずかしいから、その、どけたくない」

なぜハスナがこの状況なのか大体の予想がついてきた。

「さっき俺が脱げって言ったから脱いだのか?」

「自分から脱ぐような変態じゃ私はない!」

天村は少し考える。

今のハスナはおそらく大体のことは聞いてくれるだろう。

いろいろな想像が膨らんだがそれらすべてを消した。

「俺が悪かった」

「なんで謝るの?それで、服着たらダメ?」

「さっきの脱げは別の服に着替えろって意味だったんだ。本当に脱ぐとは思わなくて」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

ハスナが顔をあげ、目で本当?と聞いてきたから天村はうなずく。

数秒後、怒りを込めてハスナは一番近くにあったものを思いっきり天村に投げつけた。

「ばっ!」

次の言葉を口にする前に飛んできたものに顔を覆かぶせられた。

この時、ドアが開く音があったのだが二人は聞いていなかった。

それを外すと天村は即座に後ろを向き一言謝る。

ハスナは目線を動かす。

勢いに任せすぎて自分が何を投げたのかわからなかった。

「な・・・・・んで」

ハスナは自分の姿を見る。

後先考えずに投げたものは、顔を覆えるもの。

そして一番近くにあったものといえば自分の身を隠すために、数分前脱いだ服。

そして、それを投げたハスナの姿を見て慌てて後ろに体を向けた天村。

スカートも投げた時の勢いでハスナの体を隠してはいない。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ごめん」

隠すことも忘れ、ただ天村の背中を呆然と見る。

目があつくなるのは涙だとわかっていても、何とかあふれ出すことはしなかった。

「ハスナちゃん起きて・・・・る?」

ハスナの後ろにあるドアが開くと草野が現れた。

その音に天村が振り向いて、自分を見られたハスナはようやく草野が来たことが分かった。

後ろを振り向くと草野はハスナと天村を交互に何度も見ている。

裸で涙目になって座り込むハスナ。

その前で、背中を向けてハスナの服を持っている天村。

少し離れた場所にあるスカート。

「天村君?ちょっとこっちに来てくれるかな?」

「い、今こっち向いちゃダメ!」

もう一度天村にこの姿を見られたら、恥ずかしさのあまり絶対なくと、ハスナは思った。

何とか天村の視界に入らないようにスカートを取り、部屋に戻ると草野の怒声が聞こえてきた。

「恥ずかしかったけど、お誕生日お祝いしてくれるなら・・・・・・・・頑張っていいことにしよう」

それと服を着ながらこの世界の言葉を、もう少し覚えるようにしようと心に誓う。

もう一度同じ過ちは死んでもしたくなかった。


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