第九章 破壊特化
天村の申し立てと、ハスナ自身これ以上殺しをしたくないということもあり、神器だけ奪い取ると意識を失ったままのカッペイをハスナが作ったゲートに放り込んだ。
ハスナ自身、どこにカッペイがどこにとんだかわからないほど深く飛ばしたから、もう二度と会うことはないはずだ。
「あ、れ?」
ドスンと音を立てながらハスナが地面に座り込む。
今まで命がけの戦いをしてきたことはあったが、どれも自分の命が危険になることがなかったハスナにとって、今回の命の危険はかなり堪えたのかもしれない。
「大丈夫か?」
もともと座り込んできた天村にそう聞かれ気が付いたら、「君こそ大丈夫?」と心配していた。
「まぁ、明日か明後日には、俺の力を使えばこんぐらいの傷すぐ治るから大丈夫だとは思う。けど・・・・・」
天村がせわしなくさっきからあたりを見渡しているのはなぜだか、ハスナにもすぐわかる。
「魔術のことで一つ聞いてもいいか?」
「ごめん。これは無理」
天村が魔術のことで何かを聞いてくる前に先手を打つ。
「・・・・俺、何もまだ言ってないぞ」
天村もハスナが天村からハスナが読み取ったことを読み取ったらしく、最後に「何とか頼む」と付け足してきた。
ハスナが化け物と呼ばれ続けてきた理由は、殺しまくったからだけではない。
1つ例を挙げるとすれば、破壊に特化しすぎているのだ。
本来魔術をつかえるものは、物を直すことと物を壊す力を普通平等に持ち合わせているのだが、ハスナはたとえ誰でも壊すことのできないものがあったとしてもそれを壊すことができる。
逆に、子供でも直せる程度のものでも直すことができないのだ。
それを天村に伝えるとしばらく無言でおられた。
カッペイとの戦闘の範囲が狭かったのか、壊れた建物は天村の住んでいたマンションと、草野の住んでいるアパートが少し破損した程度だが、住処に困るのは一目瞭然だ。
天村は天村で、ほかの人アパートに住んでいた人たちはどうするのだろうか、と自分の心配をしていないのだが、ハスナの知る由ではない。
「そういえば、あの子って海斗の、か、彼女・・・・・・とか?」
「あの子?」
ハスナは草野のことを言ったのだが天村に伝わっていない。
「えーと、茶色の髪の毛で短い髪の毛の子」
思い出すだけでむかむかするが、ほっておくのもなんだか無責任な気がしないけど、頭にたんこぶを作った罰として、今日は自分で帰らせることにした。
「ああ、草野のことか」
「髪の毛の印象だけで誰のことか君はわかるの?」
「ほかのやつはどうか知らないけど、俺と親しくやってくれるやつ結構少ないからよ、茶髪でショートってのは、草野ぐらいかなーって思っただけだ」
ふうんと相槌を適当に打つ。
「今までと・・・・これからも2年間と同じことになるのかな」
「2年間?」
ハスナはうなずくと話を続ける。
「私ね、2年前お母さんが殺されてからたまになんだけど、体の自由が利かなくなって勝手に動いちゃうことがあるの。その時、一番最初に何をしたか海斗、わかる?」
「・・・・・・・」
クスッっと、ハスナは笑う。
「殺し」
「・・・・・それ以上言うな」
「君が望むなら別にそれでいいけどこれだけは言わせて」
天村が何か言う前に先に言う。
もしかいしたら、天村に「言うな」ともう一度言われたら、本当に伝えたいことを伝えれなくなる気がした。
「君が今までと同じような生活を送りたいなら今すぐ私のことを全部忘れて、それが無理なら君は多分死ぬ」
今まで自分の事情を話したうえでこの問いをかけたら、全員忘れると断言した。
別に悲しいとは思わなかった。
(でも、ちょっと、ほんのちょっとだけど、嘘でもいいから海斗にもう一回あったかい言葉かけてほしいな)
その願いは―
かなった。
天村の喋る言葉にハスナは目を見開いていた。
「だったら死んでやる」
ハスナは素直にうれしかった。
だけど、同時に怖かった。
天村には悪いとは思ったけど、天村の考えてることを勝手に読んだら嘘じゃないことが分かった。
もし、そんな風に言われるとしても、心では全く別のことを言われると予想していたのにそれすらなかった。
完全な善意。
それを向けてくれた人を殺してしまうかもしれない、コントロールできない自分が現れたらと思うと、とても怖かった。
「さっきも言ったろ?たとえお前が誰かのこと、俺のことをなんかの拍子で殺しそうになったりしたら絶対止めてやるって」
「言っとくけど、力さえ使えたら最強だよ?予想とかじゃくて本物の最強」
「だったら最強をこえてやるだけさ」
思わず顔をそむけてしまった。
なんだか、天村の顔を見ているのが急に恥ずかしくなった。
「さ、さてと、海斗はどうするの?」
ハスナは立ち上がり、天村の全身を見てアッと声をあげる。
全身傷だらけ、よくよく見れば左腕の向きも少しおかしいし、左足のほうも形がおかしい。
「立てる?」
「無理かな」
と、ふとハスナは考える。
なぜ、この男の心配をしているのか。
いままで死にかけ、自分で人を、体をコントロールできなかった時もあったが、嫌だとは思ったことがなかった。
むしろそれが当たり前、そんな風に思ったことさえあった。
(まぁ、いいかな)
「なぁ、ファミレスの時みたいに俺の怪我直せるか?」
「無理・・・・かな。ちょっと魔力使いすぎちゃって、ほら尻尾もほとんど消えかえになってるし」
「そっか」
「ごめんね」
素直に誰かに誤ったのはどれくらい久しぶりだろうか。
「気にすんなよ。俺も自業自得だしな」
やさしいのか、お人よしなのか、さっきこの男に無鉄砲だと言われたが、この男もかなり危険だと思う。
そこで天村が急に倒れこんだ。
「派手に暴れましたようですね。ハスナ様」
後ろを振り返るとよく知った顔があった。
「ファットメン。どういうつもり?」
「どういうつもりとは、どのようなことでございますか?」
ほかに誰かいないか確認し終えるとハスナは肩の力を抜く。
「おやおや、先ほど命を狙われたばかりというのに、油断してよろしいのでございますか?」
「油断も何も、あなたは攻撃方面の魔術はからっきし駄目じゃない」
それが、ハスナが肩の力を抜いた理由だ。
攻撃系の魔術をつかえないやつと命がけの戦いになったとしたら、ほんの少し魔力があるだけで簡単に勝てる、それが今までの戦闘からえたハスナの教訓だ。
「詳しいことはしりませんが、その方は今回の件に関係が?」
この男とは天村のことを指すのだろう。
「あなたたちの刺客のせいで海斗は死にかけた」
「よく生きていました。そこの男の件に関してもわれわれのほうとしては誤算です」
「・・・・・・」
この男は苦手だ。
一見丁寧そうな口調だが、奥のほうでは何かたくらんでいる気がしてならない。
「で、この建物直してくれる?ついでに海斗の怪我も」
「そうですね。その件については我々の失態ですから命令に従いましょう」
ハスナは、天村を担ぎ上げると、瓦礫から数メートルほど離れる。
その間ファットメンは意外そうな顔でその様子を見ていたのだが、ハスナは最後まで気が付かなかった。
ファットメンがなにやら短い呪文を詠唱し終えると、瓦礫だったものが形を変え、ほかのものと組合元の形に戻っていく。
「・・・・・・なんか違う気がするんだけど」
「わたくしに言われましても、元の形を知りませんので完璧には無理でございます」
元の形をよく覚えていないが、なんとなく元の形じゃない気がする。
破壊系の魔術に特化したハスナにはよくわからないが、壊れたものを直すときには、時間が戻る感じではなく、一度完全に粘土のようなものに変換してから元の硬さ、形に戻すようだ。
「では、次はそちらの方の怪我を直しましょう」
ファットメンが1歩近づくと、自然と後ろに下がっていた。
「魔力を最大限まで落として」
ハスナは、魔力の象徴である翼を見てそういう。
いくら攻撃系の魔力をつかえない相手だとしても、気絶している人間なら格闘技で殺されてしまう。
「変わりましたね」
「わかってる。前の私ならとっくに殺してた、って言いたいんでしょ?」
「その通りです。いったい何があなたを変えたのでしょうか」
ッフと笑うとファットメンは翼と尻尾を消した。
これで魔力を使って肉体強化もできない。
「海斗をお願い。そして、それが終わったらすぐ帰って」
「了承しました。ハスナ殿」
馬鹿にされた気分だったが、ここは抑え込む。
「では、」
天村を緑の光がつつむと同時にファットメンに翼が宿るが、何も言えない。
数分して、ようやく天村の傷が治った時にはすでに、ファットメンの姿が消えていた。
(治療しながらゲートを作っていたのかな)
が、今となっては特に気にする必要はない。
「さてと、起きて海斗」
天村の両肩を軽く揺さぶるが起きる気配が一向にない。
頭を振ってみても、体を振ってみても結果は同じだった。
最後には頭を強く殴って無理やり起こした。
当然文句を言われたが、今はそれさえいやではなかった。
「ったく、人が気失ってる時ぐらい自然と起きるまで待ってくれよ」
「だから、ごめんって言ったじゃない」
「ま、いいんだけど」
「ところで気づいてる?家治ってるの」
「家?」
そういうと目の前にあるにかかわらず天村はあたりを見渡し始める。
一周して天村は首を傾げ、どこにあるんだ?と聞いてきた。
「あれ」
と、つい先ほどファットメンが直した家を指さす。
「・・・・・・・あんなんだったか?なんか違う気がする」
「・・・・・・・・」
誰だって、自分の住んでた家が一度粘土になって作り直したなんて、知りたくないはずだ。
そこに突然大きな音が鳴った。
その音に一番びっくりしたのはハスナだ。
爆発の音でもなく、何かが崩れる音でもない、もっと平和的な音。
腹がなった。
ハスナは少し顔を朱色に染め、おなかに手を当てながら天村に聞く。
「ご飯・・・・食べたら治るんだよね」
「あ、ああ」
言葉のつまりがなぜか気になっていまい、残り少ない尻尾でまたしても天村の考えていることを、読んでしまっていろいろな意味で、後悔した。
(今のしぐさ、かわいかったな)
かわいいなどと誰かに言われた(この場合思われた)ことがないハスナは、恥ずかしくてしばらく天村と顔を合わせられなかった。
「そういえば、草野大丈夫だったのかな?」
何か深刻そうな顔をして聞いてきたが、そこまで気が回らなかった。
「あの人私の頭にたんこぶ作ったくせに無傷だったから嫌いかな」
頭に2年か3年ぶりにできたたんこぶをさすりながら、ハスナはつぶやく。
「じゃあ生きてるんだよな・・・・・よかった」
「うれしいの?」
「ああ、友達が死んだと思ったら、やっぱ嫌だからな」
天村の顔をチラッっとみると嬉しそうにしていた。
振り返った天村と目が合うとつい先ほど、天村の考えていることを読んだ時のことを思い出し、思わず顔をそむけてしまった。
「もし、もし私が死んだら、君は悲しい?」
「悲しいな。お前は俺が死んだらどうだ?」
「ちゃんとわかんないけど、それは嫌、かな」
「ありがとうな」
感謝されることを言ったつもりはないハスナは首をかしげる。
残り少ない尻尾を使えば、それもすぐわかったのだが、なんとなくそんな方法で知りたくなかった。
グーと、平和的な音がハスナの音から連続でなり始めてきた。
「俺の家で食うか?」
「君の家しか行くとこないからそうする」




