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「質問、いい?」
ここで、目の前の女性から質問が来た。
「どうぞ?」
「その一ヶ月っていうのが過ぎたら、少年はやはり死ぬ、と?」
「そうね」
「ふーん…」
それきり、彼女は腕を組んで考え事に没頭しているようだった。彼女なりの思考回路で考えを巡らせているのだろうか。
そこから4、5分ほど経ったころ、部屋の階段を誰かが降りてくる音が聞こえた。
「む、そろそろ来るかな」
「え?誰がですか?」
「言ったろう。仕事仲間だよ。今回は力を借りざるを得ないからね」
ぎっしぎっしという音が次第に大きくなり、俺と美穂が息を呑んで階段のほうを見つめる中、それは現れた。
「………へ?」
「…うわぁ」
俺らが片や疑問、片や感嘆の意を示したその相手とは、長い水色の髪、同色の瞳を持ち、薄手でブカブカのパーカーを羽織った―幼女だった。
彼女は俺たちがこっちを見ているのに気づくと、おろおろと周りを見渡した後に近くのデスクの影に隠れてしまった。
「…仕事仲間じゃなかったんですか」
「いやいや、彼女こそ私が必要な時に力を借りる大事な仕事仲間だよ」
その口調や態度からはこちらをからかおうとしているという気は微塵も感じ取れなかった。
彼女はデスクの影に隠れた幼女を手招きし、やってきた所を自分の膝に座らせた。
「改めて自己紹介といこうか。私は東雲真奈。主にネットで怪異や超常現象に関する情報を収集し、君たちみたいにこの家に相談に来る人たちに助言をもたらしているというわけだ。そして、この子は東雲澪。私の唯一人の愛しい家族であると同時に、よき仕事仲間さ」
「あ…えっと、桜原優人です。高一です」
「天城美穂。16才です」
「うん。お互い、これからよろしく」
彼女が高一と言わずに、16才と言ったのは、自分が既に死んでいることを自己卑下しているからなのだろうか。
彼女が自己紹介と共に差し伸べてきた手を握りながら、俺はそんなことを漠然と考えていた。
「で、自己紹介もすませて一段落ついたことだし、早速仕事を始めさせてもらうよ」
「お願いします…って、具体的には何をするんですか?」
「まあ、早いが話君たち二人の『魂のカルテ』を作るってわけさ」
「魂の…カルテ」
「そう。それを本に君のその余命一ヶ月もなんとか治せるかもしれないからね」
「はあ…。で、具体的にはどうやって?」
「まずは検査から…って実際にやってみせる方が早いかな。澪、お願いできる?」
「うん」
短く返事を返した彼女はスタスタと歩み寄ってくると、「楽な姿勢にしていて下さい」とお願いしてきた。
言われた通り、椅子に自然体で腰掛けていると、彼女はおもむろに胸を触りだした。服越しだが。
「うぉお!?」
「動かないで下さい、すぐ終わりますから」
やはり服越しでも女の子にぺたぺたと胸を触られるというのは、何というか、かなり気恥ずかしいものがある。
つい最近、というか昨日あたりにこんなことあったよな…という妙な既視感に襲われ、ぷるぷると首を振る。
いやいや、そりゃないって。あん時は確か、直後に腕がずっぽりと胸に収まっ…
刹那、一瞬にして戦慄が体中に走り、今度こそ自分の身の安全に確証が持てなくなった俺は、ゆっくりと視線を下に移動した。
が、幸いにも幼女の小さい手は尚もぺたぺたと俺の胸をさわり続けるだけだった。
ひとまずの身の安全を確認した俺はほっと肩をなで下ろし、彼女がするがままに身を任せた。
「ふぃ…」
気を張り詰めていたのか、小さくため息をもらして俺から離れた澪は、真奈のもとへと歩み寄り、検査の結果を報告しているようだった。
「にやにやしてる、気持ち悪い」
「してねぇよ」
「…もしかしてロリコンなの?」
「違うって!お前事あるごとに人に変な疑惑かけるの止めろよなーほんとに」
「だって、さっきのあの微笑みは変質者が獲物を見定めたときの目だったもん」
「なんでそんな目をお前が知ってるんだよ」
どんな目だよそれ。
「うわぁロリコンとか引くわー」
「違うから!違うって!誤解だから!」
「フン、どーだか」
そう言い放ち、彼女は澪の誘導に従って検査に行ってしまった。
だいたい、あのつっけんどんな態度は何に由来するモノなのだろうか。
一体どういう育て方をしたら、ああいう性格の子ができあがるのだろう。親の顔が見てみたい。
「………Aか……」
澪がボソッと呟いたのが聞こえた。A?血液型か?いや、あの性格に限ってそれはないと信じるから、それ以外の何かだろう。となると、魂にも型があるのだろうか?
「失礼ね!!私はこれでもBはあるわよ!」
ああ、バストでしたか。まあAもBも大差ないな、この場合。夢はでっかく、DかE辺りに照準を絞っておくのが良いかな。
「こっちみんな変態!!」
見てもいないのに怒られた。
まあ、今の思考ならば変態扱いもやむなしかもしれないが。
「で、まあ検査結果を元にあれやこれやと推論を巡らせてみたのだけれど」
真奈は俺たちに向かってそう言うと、一枚のホワイトボードを引っ張り出してきた。
「口頭で説明するよりは書き表した方が分かりやすい。二人ともこれを見てくれ」
そう告げて、彼女はホワイトボードになにやら絵を書き出した。
「…なんですか?」
「まあ、しばらく待って」
ややあって、必要な絵が全て書き込めたのか、彼女はこちらに向き直って説明を始めた。
「まず、これが少年の体」
下に書かれた俺をデフォルメしたような絵のことだろうか。似ていると思える。
「で、これが君たち二人の魂だ」
ホワイトボードに書かれたいかにもな二つの魂の絵を指差す。
「本来、この世に生けるありとあらゆる人間には各々一つ、それぞれに分相応な容量の魂が割り当てられているんだ」
俺の魂から俺の体に向かって矢印が引かれる。
「でも、魂の入る器であるところの体が無いから、そこのお嬢さんは魂の消耗が早いと」
その言葉と共に美穂の魂から何もないところへ点線が引かれた。
「で、自分の延命のために少年の魂を共有して、使っている。まあどちらかと言えば少年の体に魂が入っていて、その体にお嬢さんが魂が寄生しているって方がイメージとしては近いんだけどね。どうだい?お嬢さん。私の推察はだいたいあっていると思うのだが」
「……!」
凄い。美穂に聞いた話とほぼ遜色の無い推論だ。この手のプロはたった少しの材料を元にここまで推理をすることができるのだろうか。
「まあ、だいたいはあってるわよ」
そのとき、壁に背中を預けてずっと黙り込んでいた美穂が口を開いた。
「だいたい、ということは私の予想と実際のところに差異があるっていうことかな」
「そうね。って言ってもそんなに大事ってわけでもないし、わざわざ伝えるほどのことでもないかな」
「…私は基本的、話す相手に言いたくないことがあった場合にはあまり追及はしない性格なのだがね。今回ばかりは、事情が事情だ。仮にも人命が関わっている以上、こちらとしても最善の手は打たせて欲しいんだよ。もしこんな風な聞き逃しが原因で私が少年を死なせてしまった場合に、責任を押しつけられるのは好まないんでね」
「………」
美穂は難しい顔をして黙っていた。多分、的確な指摘に返す言葉もないんだろうと思うが。
「で、どうする?私に真実を伝えて少年を救うのと、私に嘘を伝えて少年を見殺しにするのとどっちがいい?」
「…人聞きの悪い言い方ね」
「それは失敬。だけれども私は本気だよ?冗談抜きに、少年を助けたいと願っているんだ」
真奈の目が嘘でないと物語っている。
美穂は多分、適当に言い逃れをして、場を誤魔化そうと思っていたのだろうが、これでは無理だ。
「……って言ってもそんなに大きい違いじゃあ無いんだけど」
「いいから」
そう言って真奈は美穂を促した。
美穂はホワイトボードに歩み寄り、備え付けのペンで絵を書きかえだした。
「…簡単なこと。私は死んではいるけど、まだ体はこっちに残っているのよ。だけど、体と魂の距離が遠すぎたり、保存状態が悪ければ魂の消費スピードは早くなるってわけ。今は一時的に優人の体を借りてはいるけどね」
美穂は自分の魂から伸びている点線の下に、これまた点線で人の絵を描いた。
「まあ、今回の原因はといえばまず間違いなく保存状態が悪かったのでしょうけど」
「……?」
「分からないの?きっと今頃、私の体はただの骨になってるはずってことよ」
「…っ………!」
そんな美穂の物言いに俺は思わず、自分の拳を握りしめていた。
美穂が発したたった一言の節々に、何かに対する諦観の念が漂っているのが嫌と言うほど伝わってきたからだ。
「そんな哀れんだ目で見ないで。同情はいらないから」
「いや、俺は別にそういうんじゃ…」
だが、美穂は俺の言葉に反応する素振りすら見せない。
「どう?これで満足?」
「…ご協力、感謝するよ。こちらでも最善は尽くしていくので、これからもよろしく頼む」
そう言い、真奈は机の上にあった一枚の紙を俺に渡してきた。
「…これは?」
「私の連絡先だ。多分これから先、君の依頼が解決するまではここに通い詰めることになるだろうからね」
「あれ?でもサイトに連絡先掲載してませんでしたっけ?」
「いや、あれは私のパソコンメールのアドレスだよ。メールの着信が出来ないことも多々あるからね。そっちの紙に書いてあるアドレスの方は携帯のアドレスだから、迅速な対応が出来る」
そう言われて紙を見てみると、確かにサイトで見たのとはまた違うメールアドレスが小さい文字で丁寧に綴られていた。
だが、その下にはさらに小さい文字で『今夜9時、空けておいて欲しい。連れのお嬢さんには感づかれないようにね』と書かれていた。
思わず真奈の方を見ると、「?」といった感じの表情をされた。どうやら徹底的に内緒にしたいらしい。
「まあ、今日は遅いし、二人とももう帰った方がいいかな。ちょっと待ってくれ、車を出してくるから」
そう言い残した真奈は、澪を連れてそそくさと外に行ってしまった。
「…………」
「…………あのさ」
あとに残った気まずい沈黙に耐えかねなくなって、思わず声を出していた。
「なに?」
「……えっと」
だが、何も考えずに話しかけてしまったため、当然言葉に詰まってしまう。
「あー…そのだなぁ、だから…」
日本語として文法的に成立しない単語の羅列を発しながら、頭の中はフル回転してどうやってこのシチュエーションを乗り越えるべきかを考えていた。
「…ごめんなさい」
「………え?」
だから、美穂がいきなりそんなことを言ったときには、言葉の意味を瞬時に理解できなかった。
「ごめんなさい。さっきはあんなこと言って」
ややあって、彼女が言っている『あんなこと』が真奈が美穂を問い詰めたときの俺との会話を指しているのだろうと検討がついた。
「…いや、別に俺はそういうの気にしないから大丈夫だよ」
さんこめー
3コメではない。
僕はそんなに早いタイミングで動画に滑り込めたことはない(*´-ω-` )




