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三月、幽霊少女と出会いました。  作者: 藍川ことき
一章 三月、幽霊少女と出会いました。
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今日はここまででっすん。

「にゅぅ……」


「…………」


いや、わざわざ観察してから正体を突きとめるまでもなく、普通に9割予想はついてたんだけど、ねぇ……。


……どこの小動物ライクな声出してるんですか、美穂さん。


 てかあなたはいつから不法侵入スキルを身につけてたんですか。俺は昨日、きちんと窓もドアも施錠しましたよ?


「うぅ…………」


開店の遅い頭で呆然と考え事をしている間に、美穂はゆっくりと体を起こし、眠たそうな目をこすって一度辺りを見渡し、そして俺の方を一度見て、「……?」寝ぼけ眼のまま首を傾げた。


「……なんで、君が私のそばで寝てるの?」


「俺が知りたいんだが」


「……夜這い?」


「したのはそっちじゃないか?」


「……まあいいよ、うん。私は眠いんだから、ほっといてね」


やや舌足らずな言い方でそれだけを俺に告げると、美穂はそのままことんと横になり、俺のベッドの上でまた眠り始めてしまった。


「………………」


 自分のベッドの上であまりにも無防備な姿をさらす美穂を見て、一瞬もうこのままあんなことやこんなことをしてやろうかとも思ったが、さすがにそれはマズイと思いなおして、しばしベッドの上で腕を組んで思慮にふけってみることにした。


 こいつはどうやって俺の家に侵入してきた?俺は昨日、車の中でこそ寝ていたとはいえ、家に着いた後はきちんとドア・窓などの鍵はきちんと閉めていたはずだぞ?


 真っ先に侵入経路について考えてみたが、ロクな考えも一切出てこなかったので、大人しく諦めることにした。


 でも、あくまでをあきらめたのは自分一人で考えること。こんな時はおそらく犯人と目星のついている人物に直接話をうかがう方がいいだろう。


「……もしもし」


『お?その声は少年か。おはよう。で、こんな早い時間にどうしたんだい?』


「……あの、朝起きたら超無防備な少女が俺のベッドに置かれてたんですけど」


『ほう。それは良かったな少年、そのままノリとテンションでアレコレしちゃいなよ』


「この嫌がらせはアンタの仕業だよな?」


『嫌がらせ?おいおい少年、そりゃあ何の話だい?私はただ、君達が願い望んだことを実現してあげただけさ』


「真奈さんの中で俺はM扱いなんですね、分かりました」


『や、違う違う。ほら、昨日少年のパソコンに失礼して、君のカワイイオンナノコ達のデータをかるーく見せてもらったんだけどねぇ、少年、君もなかなかマニアックな嗜好をお持ちのようだね』


「……っな!?」


『と言うわけでそのシチュエーションをどうにかして再現してみたいとずっと思ってたんだけどねぇ。なかなか手段が思いつかなかったんだ』


「……ずいぶんと劣悪な趣味をお持ちのようで」


『よく言われるよ。……で、昼夜問わず私はなんとかして少年の願いをかなえてあげて、その時少年が浮かべるであろうアホ面を拝ん……いや、なんでもない、うん。まあ、兎にも角にも私は少年の願いをどうにかしてかなえてあげたいと必死だったんだよ』


「お節介もいいところです。ってか全然それ俺の願いでも何でもないんですが」


『私は祈った。少年のア……喜ぶ顔をどうにかして見たかったんだ』


「すんません、俺もう通話切っていいですかね」


『まあまあ落ちつけよ少年、短気は損気だぜ』


「発端作ったやつが言うな」


『で、そう祈り続けていた私に、遂に転機が訪れた。つい昨日、少年を送っている間の事だよ。少年はちょうど寝ていたから全く知らないとは思うけどね、お嬢さんが少年の家に無期限で居候させてもらいたい、まあ身も蓋もない言い方をすれば同棲したいって言ってきたんだよ』


「……マジっすか」


てっきり今回の事も真奈が自分の興味本位でやったいたずらかと思っていたのだが、まさか美穂本人の要望だったとは。


『マジだよ少年。で、この状況は利用する以外の手はないと思ってね。ただちに頭の中で計画を立てたうえで、私は条件付きでお嬢さんに協力してあげることになったんだ』


「そして、その条件がどうせこの夜這いもどきってわけなんですか」


『そういうこと。どうだい少年、私からの心からのプレゼントは楽しんでもらえ』


「では失礼します」


そう言って携帯の通話を切り、ついでに電源も切る。


だが、この程度の防衛策であの狂人からとうてい逃げられるはずなど無いことは既に証明済みなので、一階に下りて固定電話から伸びる電話線を取り外し、玄関のドアの鍵が閉まっていることを確認してついでにチェーンもきっちりかけて自分の部屋にもどった。


 部屋のドアを開けると、当然と言うべきか美穂が俺のベッドに腰掛けていた。目にいつもの強い光が宿っているところを見るに、おそらく目はもう覚めたのだろう。


「っつか、なんでわざわざ俺の家に来たんだよ?」


「え?真奈さんから聞いてないの?」


「もしかしたら言ってたのかもしれないけど、その理由を話す前に電話切ったから」


「ああ、そゆこと。そりゃ聞いてないわけだね」


「で?実際のとこ、どんな理由でこっちに来て寝てたんだよ?俺は今日学校あるし、もうそろ出かけちまうから家には誰もいなくなるぞ?」


「いや、えーっとねぇ……正直に言うと、真奈のあのテンションの会話についていけなくなったから、かな。一応言っとくけど、当面向こうに帰る気はないからね」


「え?マジで!?」


「うん、まあちょっといきなりで悪いけど、これも私をわざわざ生かした責任ってことで……」


「いや、居候云々の話はとっくに真奈から聞いてんだけど、俺が気になったのは理由の方だ」


「え?どういうこと?」


「いや、だからさ、そんな理由だけで俺の家に来て寝泊まりするって、お前はそれでいいのかよってことなんだけど」


「え?なんで?別にいいじゃん」


「あのさ、あの……あれだ、色々予期せぬハプニングとかトラブルとか、ありそうじゃん?」


「何それ?あ、着替えをのぞき見するとか?やったら殺スだけだって」


「や、まあ、それもそうなんだけど……」


「なに?それ以外何かあるっていうの?」


「いや……うん、ないかな」


もしかして、コイツその手の知識というか耐性が無いんじゃ……?


「なぁ美穂。さっきお前夜這いがどーのって言ってたよな?あれの意味しってるか?」


「何言ってんの君。しらない訳ないじゃん、添い寝の事に決まってんでしょ」


「あ、ああ……そう、だな…………あは、あはははは」


「何笑ってんの?気色悪いって」


美穂が若干引いていたようだが、そんなことを今気にしている場合ではない。


致命的です。この間違いは致命的です。


 ドヤ顔で「夜這いって添い寝の事だよね」とかほざいちゃってる時点でアウトだった。


実は美穂にはその手の話や経験についての知識や耐性、貞操観念といった物が平均的な年頃の女の子と比べて少ない、もしくは存在しないのではないかという疑念は、前々からあった。


例えば、観覧車でほんの一瞬俺に接近した位で恥じらう様子を見せたり、バスタオル一枚で恥じらう様子もなく男である俺の前に普通に出てくる、などはその顕著な例だろう。


 かといって、完全に貞操観念が消滅しているわけでもないらしく、美穂が俺にキスをしたという話を真奈がしようとしたときには嫌がったし、自分から話す時にもずいぶん恥じらうような様子を見せたことから、一概にその類の感覚が消滅しているとも言い切れない。一体全体、どういう生活を送っていればそんな貞操観念が身に着くのだろうか。


 なんというか、女の子と一つ屋根の下とかこれはイロイロキター!とか思っていたのだが、これでは下手な行動をとるだけで幻滅されかねない。なんという理不尽。


「……ねぇ、ところで君は学校に行かなくてもいいの?」


「ああ、学校ね……。そういやあったな、そんなもん」


美穂の謎過ぎる貞操観念に頭を抱えてうずくまる俺に、美穂がそう声をかけてきた。


「今、八時二十分だけど」


「え!?マジで!?」


 その言葉にびっくりした俺は、美穂から時計をひったくり、時刻を確認する。俺の通う学校の登校時間は確か八時までだったはずだ。


「……ああ、終わった……俺の皆勤賞が終わっちまったよ…………」


何度穴も開かんばかりに見つめても、目覚ましアラームのうるささが売りのアナログ時計の短針は8の部分を少し過ぎたあたりで時を刻み続けるだけだった。


「え?皆勤賞って、そもそも君は一週間以上休んでたんじゃないの?今更皆勤賞だ何だって……」


「真奈さんの方から俺の学校に、俺はインフルエンザで一週間以上休むっていう風に伝えてあったらしいんだよ。インフルエンザでの欠席は、皆勤賞から外される条件の対象にはならなかったハズだ。……俺、これでも今までの三年間で一日も欠席した日は無かったし、遅刻とか欠勤とか早退もなかったんだぜ?よりによって卒業式を間近にしてこれかよ……あーあ、すっげぇ空しいわ、もう今日はこれ以上何もしたくないかも」


持っていた時計をベッドの上に投げ捨て、ばふっとベッドに飛び込む。


「たった一日でそんなおおげさな事言ってもね。私なんて中学校生活の半分以上は遅刻だの早退だのっていう前にそもそも出席できてないんだし」


「ならたぶん美穂には俺のこの苦しみは一生理解できないだろうなあ……」


「そもそももう死んでるけど私」


「うまいこと言わなくていいっつーの」


ベッドに横たわり、しばし天井を睨む。今は、学校を休んでしまったことに対する背徳感や皆勤賞を後少しの所で逃したことに対する虚脱感よりも、ただ今はこうしていたい、こうしてベッドに横たわって美穂とだらだら喋っていたいという感情の方が強かった。


「……ねぇ、学校は行かなくてもいいの?」


「もういい。学校にはインフルエンザ治りかけで、体調がすぐれなかったんですって言えばそれでいいや」


「ふーん……皆勤賞がどうこうって言ってた割にはさらっと流したね」


「あー、もういいんだよ、それも。どうせ時間的にはほぼ間に合ってないだろうから、バカみたいに走って駆け込んだところでギリギリアウトとかいうことになるぐらいだったら、いっそすっぱり割り切って休んじまった方が気が楽だな」


「へー、そんなあっさりしたもんだったんだ……」


「もしかしたら今の俺、色々な意味で吹っ切れてるのかも知れないぜ?」


「色々な意味って何よ」


「さあ、なんだろな」


 会話を続けるのが面倒だったので、適当に話を切り上げて黙っていると、すぐそばにボフッと音を立てて美穂が倒れこんできた。


「なにやってんだよ」


「君と同じこと」


結局、それきり会話はぱったりと途切れてしまい、気づいてみれば部屋に置かれた俺の目覚まし時計がカチコチと時を刻む音を奏でているのがはっきりと聞こえるほどの静けさになっていた。


「私、まだ生きてるんだね……」


「何今更言ってんだよ」


「だって、実感わかないもん。とっくに死んだはずの人間が、こうやってまた生きて息をしてるってこと自体が、まず理解できないことだし」


「今まで、俺に会う前にも同じ状況だったじゃん」

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