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支えを失って崩れ落ちた上体が地面に叩きつけられる感触とそれに伴って上半身のヒビがさらに拡大したことなどはもはや意識の範疇になく、ただただ背筋が凍るようなあの不快感だけが今俺の体を支配していた。
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―俺は、死ぬのか?
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まだ彼女の一人だっていないんだ。楽しいことも何もできちゃいないんだ。
クリアしていないゲームだってある、読んでないラノベだって山ほどある。
それが、こんな短い一生が、こんなところでただの光の粒に分散しておしまいなのか?
……結局、俺の今までの努力は全部水の泡だったってことか?
「死にたく、ない…――」
気づけば、そんな小さい声が自然に漏れていた。
美穂は?美穂はどこだ?
嫌だ。さみしい。こんな寒い所で一人で死ぬのはイヤだ。
誰か、助けて、俺を、助けて―!
「嫌だ、死なないで、まだ、死なないで――」
美穂の嗚咽交じりの懇願が聞こえる。
「俺は、まだ――」
そうつぶやいた瞬間、体にひときわ大きな崩落が起きた実感があった。
体のパーツを一斉に持って行かれたような錯覚とともに、俺の意識は、闇の中にのまれて、消えて行った――。
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嫌だ。
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何で?
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やっぱり、この人じゃ駄目だったの?
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この人じゃ、私を救えないの?
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私は、この人がいいのに。
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初めて、ほかの誰かと一緒にいたいと心の底から思えたのに。
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私は、何か悪いことをしたの?
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ねぇ。かみさま。もし私の声が聞こえているのなら、私の声に答えて。
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お願い。この人を、助けてあげて――!
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「お久しぶりだね、お嬢さん」
……だれ?かみさま?
「違うよ。私はお嬢さんにとっての死神、ってところかな」
しにがみ?かみさまじゃないの?わたし、あなたしらない。
「そう。生者に死を運び、死者に復活を運ぶ、運命の歯車の廻し手さ。お嬢さんが知らないのも無理はないね」
……?ねぇ、おねがい。このこ、もうすぐしんじゃうの。なおしてあげて!
「いや。死神の規則にのっとると、この少年はまだ生きている。残念だが、私は彼を助けてあげることはできない」
いやだ!わたしがいやなの!たすけなさい!
「ふーん。尊大な態度はそのころからか……いや、なんでもない。ちなみにお嬢さん、私は私自身が彼を助けられないと言っただけで、助ける方法を教えてあげることはできるんだよ」
なに?このこたすかるの?
「そうだ。この少年―優人くんはまだ、お嬢さんなら助けることができる」
ゆーと、くん?このこのなまえ、ゆーとくんっていうんだ…。ねぇ、ゆーとくんはなんさいなの?
「えーっと、ごめんね知らないや。お嬢さんは何歳だい?」
わたしねー、いま5さい。
「ほう。多分、少年も同じぐらいじゃないかな。で、どうするかいお嬢さん、あなたはこの子を助けたいかい?」
うん!だってわたし、ひとをたすけるの、だいすきなんだもん!
「そうか。お嬢さん、いい性格だね。その性格は大事にしなさいよ?」
わかった!…でも、どうやってたすけるの?
「うん。お嬢さんは『眠り姫』っていうお話をしってるかい?」
うん。わたし、あのおはなしはだいすきだったよ。
「じゃあ、クイズだ。物語の最後で、王子さまは眠っているお姫様をどうやって起こしたでしょう?」
うーん?……あ、わかった!きす!
「そう。古今東西様々な物語や継承において、キスとは重要なファクターだ。たとえば、白雪姫の王子もまた、」
えーと、ごめんなさい、はなしがむずかしくて、わたしわかんないんですけど……。
「あれ?今度のお嬢さんは何歳だい?」
わたし?わたしは、いま10さいです。
「なるほど、時間経過でだんだん深層心理の年齢が増加していくのかな?でも、これだと急がないとどんどんそういうのを拒否する年齢になっちまうな」
えーと、ゆーとくんにきすをすればいいんですか?
「……ん?ああ、そうそう。でもキスするだけじゃダメだね。お嬢さんには誓いをたててもらわないと」
ちかい?
「そうだよ。つよくて、ぜったいに守り通さなくちゃいけない約束の事だね」
どんなやくそくを、すればいいんですか?
「私の言ったことと同じことを言って、最後に心を込めて彼にキスすればいい。」
わかりました。
「私は、この子の為に尽くし、この子の幸せの為に努力することをおこたらないと、ちかいます」
わたしは、このこのためにつくし、このこのしあわせのためにどりょくすることをおこたらないと、ちかいます。
「たとえ、どんなにつらいことがあっても、この子と力を合わせて乗り切っていきます」
たとえ、どんなにつらいことがあっても、このことちからをあわせてのりきっていきます。
「わたしは、この子を心の底から愛すると誓います」
わたしは、このこをこころのそこからあいするとちかいます。
「さあ、準備はすべて整った。今その言葉を胸に抱き、お嬢さんの思い全てを伝えられるように、誓いの口づけをするんだ。―奇跡を、起こせ!」
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第五章
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うっすらと目を開けると、目の前に白い壁が立っていた。
いや、違う。これは、壁なんかじゃない。これは、れっきとした一般家屋の天井だ。俺の体を後ろにというか下にしきりに引っ張り続ける重力が、そう言っている。
でも、なぜ?確かに俺は、あのとき体が一気に崩壊して、意識が無くなって、それから―
「あ、やっと起きたね少年」
声のした方に振り向いてみると、部屋のドアがすこし開いていて、そのドアから真奈が大量の服(おそらく洗濯物)をたくさん入れた籠を持って通り過ぎて行くのが見えた。
ってことはここ、真奈さんの家?
「ああ、少年の着替えならそこに置いてあるはずだから」
通り過ぎたと思ったら、またすぐ一瞬で帰ってきてちょっとしゃべって、そしてすぐにとって返してしまった。どんだけ忙しいんだあの人。
体を起こして枕元を見ると携帯があったので、なにやら随分と久しぶりに見る気がするそれをひっつかんで開けてみると、そこに表示された日付けにびっくりした。
そこに表示された日付けは、俺が最後に見たときよりも実に一週間もの月日が流れていた。
ついでにいうと、なくなっていたはずの俺の腕も全くの無傷に戻っていたことにもびっくりした。俺の腕…確か二の腕のあたりから無くなってなかったっけ。
「あれ?やっと起きたんだね君」
またもや声がして、振り向く―までもなく、頭をがっしと?まれて、新幹線に備え付けのリクライニングシートよろしく俺の頭はぐるりと回されて「ってそれはダメだ人間の構造から鑑みるとそれは色々まず―ッ!」
「目ぇ覚めた?」なんというか、言うまでもなく美穂だった。
「はい、おかげさまで……ってあれ?何で俺とお前生きてんの?」
素で出て来た俺の疑問に対する美穂の答えは、直後、視界に飛び散った星っていうか火花だった。
ほいさー




