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「…まじっすか」
「何?もしかして君ああいう系のヤツって無理なタイプのオトコノコナンデスカ?」
「あれ?なんかデジャヴが」
「いいんですぜお客さん、今なら強がらなくてもプライド一つで取り返しはできるんですよ」
「俺の発言ガン無視の方針ですか!?せめて最後まで言わせてくれ!」
「いいんですぜお客さん、今なら強がらなくてもプライド一つで取り返しはできるんですよ」
「どこの安物RPGのNPCだお前は」
「いいんですぜお客さ「いい加減黙れ☆」
「あれ!?昼間なのに星が見えた!?」
「お、やっとNPCモードから戻ってきた」
「NPCモードって何よ…。というか、とりあえず一つだけ確認するけど、君はこういう絶叫系マシンがダメなタイプのオトコノコ(笑)なんだよね?」
「(笑)意外は当たってる」
「じゃオトコノコww」
「草生やすな。除草剤撒くぞ」
「で、君がそういうタイプのオトコノコ(爆)である以上、私はここにあるいくつかのアトラクションが巡れない、と」
「そして最後は爆笑に落ち着くのかよ」
「うん、私今決めたわ」
「…何をだ?」
そう聞くと、美穂は無邪気な笑顔のまま、俺にこう言ってきた。
「とりあえず、君はこういうアトラクションを今日、克服なさい。これは命令よ」
「…………………はあ?」
頭の中に渦巻く疑問符の数が、一気に三桁単位で増えたような錯覚に襲われる。
「はあ?じゃなくて。君の絶叫マシン嫌いを治すのと、私が遊園地を堪能するのをかねて、今からそこら辺の絶叫系を片っ端から消化していくわよ」
「いや、あくまで今日は二人で遊園地を楽しむために来たのであって、決して俺の苦手克服のためにわざわざ絶叫しに来たわけでは」
「でも、それじゃないと私が楽しめない」
普段はあまり見せない膨れっ面をして、美穂が反論してきた。その表情をほんの少しでも可愛いなとか思った自分に辟易としつつ、さらに反駁を試みる。
「だけど、俺もそれじゃあ楽しめないって…」
「忘れたの?今日私は命令権がある分だけ君より優位に立ってるんだよ」
「あぁ…確かに……」
意識せず、呻き声が喉から漏れ出る。
「解った?つまり今は私が絶対的優位に位置してるの。というわけで命令!私に付き合ってここのアトラクションを回りなさい!!返事は?」
「……へいへーい」
「口調」
「オオセノママニ、オジョーサマ」
「てい」
返事をふざけて適当に言ってみたら、手のひらで頭をべしべし叩かれた。
「…痛っ!?ちょ、頭はマズいだろーが」
「今ので許してあげる。さ、行くわよ」
「まじでー…」
がっくりと肩を落としてみたが、美穂は別段気にとめる様子もなく、すたすたと進んでいく。
場内に鳴り響く迷子案内のアナウンスに後押しされるように、重い足取りで美穂の後を追う―ことは、叶わなかった。
別段何か物理的な阻害要因があったというわけではない。迷子のアナウンスに割り込んで流れている声が、俺の足を前に進めることを許していないのだ。
『―やぁ、少年。電話に出ないからこういう形で話をさせてもらってるけど、まあ気にしないでくれ。ああちなみに、私は今話と言ったが、あくまでこれは今私から君への一方的な連絡だ。君の言葉はこっちに聞こえていないから悪しからず』
幾重にも重なりスピーカーから鳴り響く音声に、美穂も俺の数メートル前で立ち止まっていた。声の主は言わずもがな、あの法を超越した御方だった。
『まあ、こうして話をしていていてもプライベートも何もあったもんじゃないから、今からメールで指定する場所に来てくれ。そこでゆっくり話をしよう』
それだけを伝えると、ピンポンパンポン、という音と共にアナウンスはひとりでに切れた。
「……………」
「……………」
俺と美穂はしばらく、その場で絶句したまま突っ立っていた。
真奈と会ってからそう経っていないにも関わらず、あの人は日頃から俺の理解の範疇にはいないのだというイメージが俺の中には形成されつつある。
だが、今の約一分足らずの間に起こったことは、理解どころか、人間としての常識を超越していた。
普通に考えたら、俺が携帯の電源までも切っていたら電話をあきらめて折り返しを待つ、というのが常識的な判断ではないだろうか。わざわざ遊園地の防御システムに干渉してまでスピーカーからコンタクトを望むとは、酔狂にも程がある。
「…ねぇ、あの人って何者?」
いつの間にか俺のそばに来ていた美穂が、ギリギリ聞き取れるかどうかという音量で呟いた。
「しがないハッカー、兼怪異の専門家ってとこかな」
二人同時に漏れたため息は、空に溶けて消えていった。
チリンチリン、とドアにつけられた鈴が鳴るのを耳にしながら店に一歩足を踏み入れると、そこでは昼下がりのねばっこい空気を、人の流れや換気扇がやる気なさげにかき分けていた。
現代社会の怠慢をかき集めたような重たい空気の中、お目当ての人物は席について何やらノーパソをいじっていた。
「やぁお嬢さん、久しぶりだね。ついでに少年も」
「俺はついでですか」
俺が真奈の前の椅子に座ると、美穂も俺の隣に腰掛けた。
「まあまあ、淑女を待たせたんだから、少しぐらいは受け流せよ少年」
「法を超越して人のプライベートやら遊園地の防御システムやらに容赦なく踏み込む人間のどこが#淑女#(レディー)なんですか」
「#脚線美#(レギー)なら自信はあるね」
「惜しい。80点」
「友人にはよく#気が触れた#(バギー)人間だと評価をもらっていたよ」
「ギーしかあってないじゃな」
「―じゃなくて!!」
俺と真奈の会話に机をばしんと叩いて割り込んできたのは、美穂だった。まあ、わざわざ言わなくても分かるんだけど。
美穂が机を叩く音は、俺たちのみにとどまらず、店内にいる人の注目を集めるには十分すぎるほどの音量だったが、幸いと言うべきか店内の客は俺たちしかいなかったため、周囲から懐疑的な視線を照射される憂き目にはあわずにすんだ。
「あなた、正気?いくらなんでも遊園地のスピーカーを乗っ取ってこの人を呼び出すなんて…いったい何人の人が聞いたと思ってるの!?」
「ああ、そういえばそうだったな」
確かに言われてみれば、とでもいいたげな表情でポンと手を打つ真奈。
「まあ、一度くらいやってみたかったんだよ」
「―ッ!…それで許される話なら―」
「諦めろ。真奈さんはこういう人だ」
温度差の激しい二人の間に割って入り、美穂を諫める。
「それに真奈さん、あんたも法を逸脱してるってこと、ちゃんと頭に入れといて下さいよ。美穂の反応は巷じゃよくあるものだってことも」
「はいはい」
口では返事する真奈。だがしかしその手は早くもパソコンのキーボードをカタカタと叩いており、視線もディスプレイ上をせわしなく行き来していた。どうやら話半分に聞き流されていたらしい。
「で、わざわざ遊園地のスピーカーを使ってまで俺を呼び出して、俺にしたかった話って何なんですか」
「えーと、何だったかなぁ……すまない、ちょっとど忘れしてしまったらしい」
「ええー……」
わざわざ呼び出してど忘れとは。
「うん、まあ少年たちはお二人でゆっくりデートでもしていなさい。わたしはありとあらゆる手段で君たちを尾行しつつ、思い出すことにするよ」
「「デートじゃない(ですよ!)」」
二人の声がかぶった。ってか美穂が尾行という言葉にびびって引いちゃってるから。そもそも今日俺と美穂が遊園地に来てるのって、美穂の好感度を上げるためじゃなかったっけ?尾行されるのが事前に分かってたら好感度とかっていう以前に雰囲気が固くなるんじゃなかろうか。
「ははっ、冗談冗談。それよりも二人とも、昼御飯はまだだろ?ここは私が大人の余裕で御馳走してあげよう。ちょっと待ってくれ。私は少し席を外す」
そう言い残して、パソコンを閉じた真奈は立ち上がると俺と美穂の肩を順繰りに叩き、店から出て行ってしまった。
「で、どうするよ」
店に入った段階から、可能な限り気にとめないようにはしてきたのだが、はっきり言ってこの店はかなり侘びしい。
「どうするもこうするも、ロクに掃除をした痕跡すら見当たらないこんな場所で食事をとるっていうの?第一、昼のかき込み時なのに私たち以外に客が一人もいないって…」
かなり小声で、だが語気は強めに美穂がいきなり店に酷評を下す。
「まあそう言うなって」
「しかも、客が席についてるのは厨房から見えてるはずなのに、水の一つも出さないってどういう了見なの?」
また机に拳をだしんと叩きつけかねないレベルを目指して、美穂のストレスゲージがグーンと伸びていく。ような気がする。
「あーあー落ち着け、まずは落ち着くんだ。深呼吸しろ。はい吸ってー」
「すー…」
「吐いてー」
「はー」
「また吸ってー」
「すー…」
「また吐いてー」
「はー」
「……どうだ?ちったあ落ち着いたか?」
「…うん、取り乱してごめん」
「なら良かっ」
「と言うとでも思ったかバカめ!」
「ここでまさかのカウンターでしたかっ!?」
尚もギャースギャースと詮無い言い合いを続けていると、気づいたらいつの間にか真奈が席についていた。
「こらこら、あんまり騒ぐと他の客の迷惑になるからそこら辺にしときなさいな」
俺と美穂をなだめると、直後に小声で「まあ客は私たちしかいないんだけどねぇ」とか言っていた。間違いなく店側に向けた皮肉だろう。
「ってか、この言い争いを生み出した元凶はあなたなのに、何を偉そうに言ってんのよ!」
だが美穂の不満はまだ収まらなかった。まだ一人席から立ったまま真奈に食ってかかっている。試しに『美穂 の ストレスゲージ が 今にも 爆発しそうだ!』と頭の中で実況してみたが、あまり面白くなかったため、考えるのをやめた。
時間がねええ
ブラックブレットとかノーゲームノーライフとか面白いよ
次は明後日以降かな




