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三月、幽霊少女と出会いました。  作者: 藍川ことき
一章 三月、幽霊少女と出会いました。
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「なんだよ遊園地ごときで、今更ガキでもあるまいし」

 その歓声とは真反対のベクトルにある感情を込めてボソッと呟く。

「…何か言った?」

「いえ何でもございませんお嬢様」

 …顔で笑って心で泣いて。

 今現在の俺の置かれた状況をぴったり表す言葉だと思った。

 昨日、あの関節地獄を経て、(美穂のほぼ一方的な判断という名の)平和的な話し合いの末に俺は一週間の間美穂に絶対服従を誓う、という非常に屈辱的きわまりない契約をさせられた。いくらなんでもあんまりじゃあないだろうか、と思うのは俺だけではないはず。

 付け加えておくと、この契約を破ると俺の命は無いと思った方が賢明らしい。何をされるんだ俺。

 あと、それとは別個で昨日起きたことは全て忘れよ、ということも契約直後に絶対服従の一環として言い渡された。

 ちなみに『それじゃ俺は訳も解らぬまま、美穂に服従させられているということになってしまうのではないか』と疑問を提言してみたところ、無言で殴られたあと、『そこは企業秘密で』という投げやり100%な説明を言い渡された。これはあんまりだ。

「そう♪ならいいのよ。じゃ、早くまわろ。エスコートしてちょうだい」

「仰せのままに、お嬢様」

 加えて言えば、現在は『美穂のことは基本的にお嬢様とよび、口調や態度も執事のそれにすること』という命令をされているため、こうして致し方なく執事の真似事をしているわけだ。俺は本職学生だっちゅーに。



「じゃ、あれ乗ろう」

 そう言った美穂が指をさしたのは、大きめの遊園地なら一つぐらいはありそうな、座席がぐーっと上がってからだーんっと落ちるという高所恐怖症や落下恐怖症(何だそれは)にとっての悪魔の乗り物だった。まあ俺はどっちでもないけど。…名前なんだったっけ?

「…まじっすか」

「何?もしかして君ああいう系のヤツって無理なタイプのオトコノコナンデスカ?」

「絶対バカにしてんだろお前。俺は全然平気だよ」

「いいんですぜお客さん、今なら強がらなくてもプライド一つで取り返しはできるんですよ」

プライド一つってそもそもプライドは一つしか無いだろうが。安いよみたいに言うな。男にはめっちゃ大事だから。

「うっせーなーいちいち。大丈夫だっつってんだろ?ほら、早く行こうぜ」

「それならよし。そして今更だけど口調が崩れてるよ」

「この口調って本当に意味ありやがるんですかねお嬢様」

「ありやがるんですよこれが」

ふざけてみたら口調をまねられた。

「というわけで早く行こう」

「…仰せのままに、お嬢様」

 実はこのセリフに小さい頃に憧れていたりしなかったり。いや、していたかな?

 そしてもう一つ。

 実は俺、この手のヤツとか超ムリ。ありがちなパターンですんません、でも無理。小さい頃に両親と遊園地行った時に消えない傷を心に負ったんですよ。つまるところさっきの一連の会話は俺の醜いプライドがひたすら虚勢と見栄を張っただけなんです。見せかけです。張りぼてなのです!

 だが、ワー桜原君ッテショージキナンダネーな自白を脳内で敢行したところで今更引き返せるはずもなく、内心めちゃくちゃ狼狽しながらも、顔は超がつくほどクールなポーカーフェイス(のつもり)で客のごった返す列に並ぶ。

 ほどなくして、俺たちの番はやってきた。


シートに座ると頭の上から降りてくる固定具が、この時ばかりは首かせか何かに見えた。

 係員が全ての保守点検を終え、ゆっくりとマシンが地上を離れていくその瞬間に、俺は本当に逃げ道がないことを悟ったのだった。

「……なあ、美穂」

 マシンが地上を離れてしばらくしてから、腹をくくって話し出す。

「口調」

「あの、お嬢様」

「なに?」

「大変申し上げにくいのですが…」

「いいから言ってごらんなさい」

「ええと、実は私、このようなマシン、えー確か名前は」

「フリーフォール」

 モノを語るのに知識すらない執事というのもまた斬新…なのか?

「そう、それそれ。で、そのなんとかフォールを、私は非常に不得手としていまして」

「ふむふむ」

 高度と隣から発せられる#圧力#(プレッシャー)の上昇から、額に脂汗が浮かび始める。

「で、誠に申し訳ないことながら、お嬢様の提案を降りさせていただきたいのでござりまするが………」

 なにやら語尾まで狂い始めた。

 非常に耐え難い沈黙から目を背けるように、気づいたらフリーフォールとやらから一望できる周囲の風景に目をやっていた。

「ねぇ君」

 ギッギッギギギ、とでも擬音語がつきそうな動きで首を動かした先には、こちらに満面の笑みを、ただしその仮面の下にその他の感情を全て凍らせた笑みを振りまく美穂がいた。

「へい、何事でごござりましょうか」

 おい口調、仕事サボんな。

「言いたいことは後でたっぷり言ってあげるからいいとして、一つだけ言わせて」

 ガコン、という音と共にフリーフォールの上昇が止まった。

 今俺たちが乗っているのが名前そのままのアトラクション(さすがに直訳でというわけではないが)であるのであれば、上昇が止まった次に起こり得る可能性は一つしかない。

 その可能性に思いを馳せた俺の体から血の気がさあっと引いていくと、ちょうどタイミングをあわせたかのように美穂が口を開いた。

「それ、乗ってから言う話じゃないよね?」

 直後に足下から這い上がるようにして鳥肌がたつ錯覚に襲われ、周りの景色が天へと上っていき、内臓という内臓が鷲掴みにされるような感覚を覚えた。

「ですよねぇぇえぇえええぇええ!?」

 美穂の発言への同意を多分に含んだ悲鳴が尾を引いて落ちていく。マズい。内臓口から出てきそう。

「ひゃっほぉおおぉおおぉぉおぉう!!」

 美穂が何か叫んでいるが、悲鳴というよりは歓声に近い。

 そして、高速で重力に従って落ちていくということは、当然目の前に地面があるわけで、ヤバい、これは、ぶつか「うわわぁあああああ!!!?」






ずゅるるー、と俺が音を立ててストローを吸う傍らでは、美穂が出店で購入したアイスクリームを舐めていた。

「いやあ、まさか君が本当にあの手の乗り物が苦手だったなんてね」

「……絶叫系には昔トラウマを植え付けられたもんでして」

「まあ私の親切な忠告を無視してまで乗れるって言い張ったのは君だから、自業自得だけどね」

「本当に仰る通りで」

 さも面白そうに笑う美穂とは対照的にため息を一つつく。

 もちろんのこと、フリーフォールはその設計通りに地面に激突などせず、俺と美穂をしっかりと生きて地上に送り返してくれた。これではネーミング詐欺である(もっとも、このアクションが名前通りの#自由落下#(フリーフォール)だったら、俺は今ごろ帰らぬ人となっていたろうが)。

 さすがに朝食が上の方からカムバックすることはなかったものの、かなり気分が悪くなってしまったので、現在進行形でベンチに腰掛けて休息をとっているというわけだ。

「逆にそっちは得意だったんだな」

「まーね。生きてたときに何回か行ったことあるし」

「叫んでたときの声が悲鳴っていうか歓声に聞こえたぜ」

 そう言うと、なぜか美穂はバツの悪そうな顔をした。

「……ああ、うん、あれは若干強がりがあったかな」

「そっすか」

「そっすよ」

 口調をまた真似されたからか、自然と笑みが漏れた。

「じゃ、次どこ行こっか?」

「そうだな………ん?……電話だ、悪ぃけどちょっと待っててくれ」

 ひっきりなしに振動を続ける携帯をポケットから掴みだし、相手をロクに確認もせずに通話ボタンを押し込んで耳にあてがう。

『やあ少年、さっきのフ』

 ――ブツッ。

 …俺の疼く右腕(主に親指)は今日も絶好調のようだった。おまけにちゃんと電源まで切ってくれた。ぬかりない。

「よし終わった、行こう」

「え?もういいの?」

「うん、いいんだ」

「や、電話切ってそんな晴れ晴れとした表情をされても困るんだけど」

 本当に困ったような顔で言われてしまった。

「そんなに晴れ晴れとしてた?」

「うん、この上なく清々しい表情だったよ」

「まあ実際清々しかったし、いいんじゃない?」

「というか、気分の方もいいの?」

「ああ、だいぶ良くなってきた」

 そういえばさっきの通話を切ったのを経て、気分が良くなってきたような気がする。どんだけ爽快だったんだろ俺。

「……ねぇ、さっき一瞬で電話切ってたように見えたんだけど、誰と話してたの?」

「……かぞ、く?」

 すっごい歯切れ悪っ!!そして不自然!

 とか心の中で叫ぶも、すでに時遅し。半ば呆れ、半ば怪しみを含む言い方で質問されたとき、何故か真奈の名を出すのが脳内会議によって却下されたため、とっさに家族と言ったところまでは良かった。が、非常に高速で回転する思考回路に口が追いつかず、先ほどのような超絶不自然な日本語になってしまったというわけです!!はい、状況説明完了。

「…本当に?」

「……本当に」

 背中につーっと一筋、冷たい汗が走った。気がした。自分に自白しても状況は何も変わらないのです。

「…………」

「…………」

 美穂にジーッと見られ、どぎまぎしながらも視線は明後日の方へ行ったことで、頭の中で美穂の不審度メーター(仮)が大絶賛上昇中。

 もう嘘がバレたかなとか、言い訳は何にしようとか、頭が敗走の色に染まりかけたときに、ようやく美穂が「ま、いいか」といって視線を外してくれたことで、視線も今日へと戻ってきた。よく考えたら「通話相手は真奈さんだよ」とか言っても問題は無かったよなとかいう思考が喉元まで浮上してきたが、今更終わった話だと意識の奥に言葉を沈める。ひとまず不審度メーターの数値は現在下降の一途を辿っているが、安心はできないので、すかさず次の目的地を聞く。

「…あ、えっと、次はどれに乗るんだよ?」

「うーん、そうだね、あれがいいかな」

 そう言って美穂が指さしたのはメリーゴーランドだとかほんわかしたいかにもカップル向けなアトラクションではなく、乗った者を高速で漏れなく悲鳴と恐怖の渦中に放り込むにっくき地獄の乗り物だった。つまるところはジェットコースターね。さすがに名前は覚えてた。まあ過去にトラウマ植え付けられたアトラクションだしね。


明後日には投稿したいとかいっときながら遅れてすんませんっっ

今日はこれともう一個だけになりそう…


なにぶん全寮制の学校に通っているのでパソコンの使用時間が限られているんです><

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