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魔法学の先生  作者: 市村
第一章 幼少編
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3. 雪景色とウイスキー

 

 二才と九ヶ月くらいになった。

 未だに喋るのは苦手だが、聞く分にはだいたいわかるようになった。


 季節としてはちょうど冬に入ったところで、外は毎日のように雪が降っている。

 今は俺の肩くらいまでは積もっているだろうか。

 時々父が屋根の雪を降ろしに、スコップ代わりの農具を持って外に出ていく。

 半日ほど雪を落とす音が続き、その後玄関周りや目の前の道の雪を簡単に寄せた頃には日が暮れる。

 だいたい三日に一度くらいの頻度で行われて、何か足りないものがあったらその時に他の家から融通してもらう。

 今年は食べ物を融通してもらった。

 恥ずかしながら、俺が食い過ぎたのだ。


 しかし燃料費を考えると、どう考えても一つの家に固まって住んだ方が良いに決まっている。

 それをしないのは、誰も住んでいないと暖房を付けないのでもっと早く雪が積もってしまい、場合によっては一日で家が倒壊してしまうから、だそうだ。

 魔法があるんだから溶かすか退()かすかすればいいのに、とも思ったが、その後凍ったりしたらもっと面倒か。

 雪解けの時期が変わるというのも、あんまりいいイメージがない。

 環境破壊の可能性もあると思えば、現状が一番良いんだろうな。


 そもそも、大人達が魔法を使っているところなんて、限られた状況でしか見たことがない。

 せいぜい火種を作るときか、火の玉の魔法を教えているときか。なんか火ばっかりだな。

 便利とはいっても、汎用的かどうかは別の話なんだろう。

 あるいは、あまり連発できるものじゃないのかもしれない。

 訓練とかしないのかな。


 さてさて。こんな知識が手に入ったのも、話せる語彙が増えたことに他ならない。

 それも魔法の言葉、「なんでー?」だ。

 あまりにも使いすぎているので「ごちそうさまでした」のタイミングで言いそうになったくらいだ。

 うちの両親は俺が何回もくり返して質問すると、だんだんと詳しい話になっていくクセがある。

 同じことをくり返したり、言い回しを変えたりすることは少ない。

 時には二才児に話しても意味ないだろってくらい難しいことをいう。

 俺相手だからいい。むしろ歓迎する。

 俺もわからない時があるが、それはまだ語彙が足りないからだ。


 その話によると、この村の特産品は酒。多分ウイスキー。

 村で育てているライ麦っぽい穀物を加工して作っているらしい。

 畑でライ麦作ってるくせに、どおりで主食が芋とかゴボウとかだと思ったよ。


 酒を作る設備は村長の家にあるらしく、あの家が一目で一番大きいとわかるくらいなのも頷ける。

 とはいっても、俺はその設備を見たことはない。

 お酒の匂いがすごいから、子供は立ち入り禁止なんだってさ。 


 お酒造りなんて前世でもしたことがないが、決して簡単ではないだろう。

 事実、去年は三日に一度の雪かきをした後、両親と一緒に三日間村長の家へお邪魔したことがあった。

 あの時はなんでだろうと思っていたが、酒造りを手伝いに行っていたのだ。

 だが、今年は行かない。行くとしても、それは父だけ。


 なぜか。

 妹が産まれたからだ。


 今年の夏に産まれた妹、その名もテレサ。

 なんでも、あの勇者とドラゴンの絵本に出てきた仲間の名前をもじったものらしい。

 ちなみに俺のバルドという名前も、その勇者の名前をもじっているとか何とか。

 かなり古い物語なので最近のメジャーではないが、長い目で見れば多い方らしい。


 前世では末っ子だったので、妹がいるというのはちょっと新鮮だ。

 同時に、なんで末っ子だったんだよ、と歯がみもする。

 どんな風に接すればいいのかわからないのだ。

 今だって妹が泣いた時やおむつを濡らした時に、どうすれば良いのかわからない。

 母がすぐ側にいるなら呼べばいいが、将来的に出先で、なんて想像したら目も当てられない。

 今では言葉と一緒に、妹の世話を覚えるのも重要項目だ。


 そんな妹は今、母の背中におんぶされたまま寝ている。俺は母と一緒に編み物中だ。

 編み物といっても、乾燥させたライ麦の茎を編んでゴザを作る程度のもの。

 加えて俺は、ゴザにはできないくらい短い茎を適当に縛ったり、三つ編みっぽくしているだけ。

 商品にして売るのかもしれないし、俺が台無しにするわけにはいかないと思ったからだ。


 まあ今は、指を動かすだけの作業が面白いというのもある。

 前世には遠く及ばないが、この身体もなかなか器用に動くようになってきた。

 それをより実感できるのが、この編み物というわけだ。

 さすがに蝶結びはできないが、この分なら冬明けにでも出来るようになるんじゃないかな。


 冬が明けたら魔法も習い始めようかと思っている。

 その頃には、俺も三才になる。たかが三才、されど三才。

 前世の俺は、断片的ではあるがこのくらいからの記憶があった。

 なんであんなことをしたんだろ、と思えるほど恥ずかしい歴史も含むが。

 つまりは物心ついてもおかしくない時期であり、今のように両親から隠れながら色々と実験する必要もなくなる。

 雪解けと一緒に、俺の知的欲求も解禁というわけだ。



 でもその前に、もうちょっと話せるようにならないとね。

 魔法への道のりは遠そうだ。

 

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