表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法学の先生  作者: 市村
第二章 学園編 初等部
37/44

35. 迷宮の中

 

 さて、翌日。

 早朝ってほど早朝ではないけど、とりあえず朝だ。

 授業がないから早起きしなくてもいい、ってのは幸せなことだね。


 今日から本格的に迷宮に潜る。

 実家から持ってきていたのに全く使わなかった背負子も、ようやく日の目を見る。

 剣との兼合いが悪いのはなんともいただけないけど。

 どっちも俺にとっては背負うものだしねー。

 足踏みしても始まらないし、まずは冒険者組合(ギルド)へ向かうか。



 冒険者組合における依頼はたくさんあるけど、その期限は依頼者の都合が如実に反映されている。

 そう複雑な話じゃない。

 今すぐ欲しいものなのか、急ぐ必要はないのか。

 簡単にいえばそれだけだ。


 ただし、冒険者側にも好みの依頼というものがある。

 自分の実力で倒せる魔物、移動にかかる時間、それらの苦労に見合うだけの報酬。

 あるいは日帰りで攻略していくのか、あるいは迷宮内で野営することも厭わないのか。

 日帰りの場合は連続で潜るのか、大事を取って数日休んでから潜るのか。

 特に、これ以降の階層へ進むなら野営も必須になるだろう、そんな通例のある七階層近辺の依頼ともなると、各人の判断が見事なくらい異なってくるという。


 それらを踏まえると、俺の好みはどうなんだろうか。

 限られた日数でたくさん受けたいから、基本は一日で済ませられる依頼。

 強い魔物はまだ早いと思うから、浅い階層でどうにかできる依頼。

 あとは、もちろん報酬が多いことに越したことはない。

 そんなところか。


 自分の希望がはっきりしたところで、コルクボードに貼られた依頼表を眺める。

 俺のFランクで受けられる依頼となると、そんなに数はないみたいだ。

 うーん、相場がわからないと報酬の多い少ないはわからん。

 ちょっと待てば旨い依頼はすぐ誰かが持っていくかな。

 それを見て判断……あ、いや、もう持ってかれた後って可能性のほうが高いか。

 となると悩むだけムダだな。


 ……よし。

 今日は様子見に徹する。そうしよう。

 どうせ選択肢少ないし。

 そう思っても、やっぱりちょっとはマシな依頼を選びたい。


 たとえば「常時依頼」って判子が押されたやつは報酬がクッソ少ない。

 というのも、常時依頼の依頼主は組合自身なのでケチっているのだ。

 でも常時依頼の目的は、ちょくちょく増えすぎる魔物の数を減らすこと。

 つまりは間引き。安全確保のためにも、手を抜くわけにもいかない。

 だったら素材の買い取り額自体を上げちゃえば自然と皆狩りに行くのに、と思わなくもないけど、需要と供給のバランス的にもうギリギリらしい。

 ままならないもんだね、まったく。


 でもその代わりに組合からの評価が上がりやすい、って聞いた覚えがある。

 野生児情報なので、どこかで間違っている可能性もあるのが不安の種だけどね!

 評価が上がればランクも上がるから、長い目で見ればプラスになる。

 っていうか、Cランク以上では丸っきり旨味のなくなる依頼なので受けるなら今だ。


 目的が間引きなので、ゴブリンとか蟻とか、とにかく繁殖力の高い奴が対象になる。

 ただし多数を一度に相手取る可能性が高いので、依頼難度も魔物の個体難度より一つ上に設定されている。

 で、Fランクで受けられる依頼となると大鼠(ビッグラット)の討伐だけになる。

 ネズミ算ですねわかります。


 でもラットってたしか一階層とか二階層に出てくる、個体難度Fランクのやつだったはず。

 なぜに依頼もFランクなんだ?

 ……ああ、踏めば死ぬスライムだってFだから、これ以上下がないだけか。

 だったら実力的にも問題ないはずだ。


 何の因果か、それを窓口に持って行くと待っていたのは前回と同じお姉さん。

 お姉さんって言ってもレオナさんじゃない方。人気のない方。

 コ、ココハイツモスイテマスネー。

 ……レオナさんと比べるとなんかこう、オーラが違うもん。

 そりゃ誰も並びませんって。




 迷宮は都市の外れにある。外れっていうか郊外か。

 そりゃ、地下の空洞の上に家なんて建てられないしね。

 幸い迷宮は横方向に拡がることは稀らしいので、ある程度離れれば地面が陥没したりはしない。

 とはいえ少しは離れるという意味でもあり、そのため迷宮の出入口付近は十分な大きさの広場になっている。

 この広場では時に何十人という列になる人々が待ち、利益を運ぶ荷車も待機することになる。


 朝一とは到底呼べないくらい日が昇ってしまったからか、そこには冒険者らしい身なりの人は少なくなっていた。

 その代わりに、といっていいのかわからないけど、明らかに学園生であろう少年青年が大勢並んで待機している。

 全員が鎧と剣を身に付け、人によっては大剣や盾を持っているところを見ると、十中八九騎士科の連中だろう。

 広場の八割近くを埋め尽くしている様子から、ざっと六十人は下らないんじゃないだろうか。


 正直、近づくのが躊躇われる。

 もちろん理由は交流試合のアレである。

 元々憧れなんてこれっぽっちもなかったので落差は小さいけど、ね。


 もちろん本当に酷いやつなんか一握りだろう。

 でも一部のヤンチャなモンキーのせいで学校全体が荒れてるって思われたり、吸い殻をポイ捨てする大きな子供のせいで喫煙者全員が肩身の狭い思いをしたりする、アレと同じだ。

 直接被害を受けた身としても、早々評価が好転したりはしない。


 よく見ると、集団の中にはエイベル=デインズさんの姿もある。

 あの悪事が広まってすぐに、彼ともう一人の互助会員スペンサー=ミルさんは謝りに来てくれた。

 互いにルーサー=ルガードというクズ貴族に騙された身なので、一方が謝るというのも何か違う気がしたが。


 確認を取らずに連絡を鵜呑みにしてしまった、という罪悪感とかあるのかもしれない。

 あるいは年長者の義務とかかな。

 精神年齢は俺の方がずっと上だけどね。

 ま、いくら成人していようと結局は大学生までの経験しかない俺もまた、社会の枠組みでは子供みたいなもんだ。



 しかし、ここまでなんとか順調と言えた夏休みは、唐突に終わりを迎えた。


「やあバルド。一緒に行っても良いね?」


 その騎士科の列からヒョイと現れたのは、うちのクラス担任でもあるマルス先生だった。

 いつもの防具の他にも肩当てとか籠手とか具足とかを身に付けていて、少し物々しい印象を受ける。

 でも「良いね?」じゃないよ。

 もう確定事項みたいに言いやがる。


「なんでいるんですか」

「それはもちろん、つい気が(はや)って迷宮に挑もうとする未熟な生徒を守るためさ」


 騎士科の仕事ですらないとは……。

 生徒を守るとはなかなか先生らしい心がけだけど、あんた一度生徒同士を決闘させてるからな!


「ああ、もちろん騎士科の引率でもあるよ? しかし私は、これがね……」


 そう言いつつ、マルス先生は自身の右足を軽く叩いてみせた。

 一瞥しただけではわからないだろうけど、同じクラスで過ごしていればその意味がわかる。

 うまく誤魔化しているようで、でも違和感はあった。

 やっぱり何かしらの怪我か後遺症、あるいは障害を抱えているらしい。


「これがあるから、私は彼らの進む速度についていけないんだ。だから君のような初心者を護衛して暇を……じゃなかった、怪我をしないように見守ろうかなと言うわけさ」

「大丈夫ですか? 本音を隠せてませんよ?」

「ううん……学園から離れても気を緩めないようにね」


 それはちょっとひどい反面教師じゃなかろうか。

 でも学園の教師だからといっても、マトモかどうかは別なんだと俺は知っている。

 指導を投げ出す魔術講師しかり、不真面目な態度の保険医しかり。

 日本と比べたら、この世界の教育がしょぼくみえて当たり前。

 悲しい現実でも受け止めないといけない。


「一応言っておきますけど、俺は迷宮初めてってわけじゃありませんよ?」

「おや、そうなのか」

「なので他の生徒についていってあげてください」

「いやいや、遠慮はしなくていいよ。私は君の担任でもあるから、他のクラスの生徒よりは責任を感じる」


 さらっとひどいこと言ってるな。

 いや、でも普通っちゃ普通の感覚か。


「もっといえば、個人的に縁のようなものも感じているしね」

「縁?」

「私の記憶違いでなければ、バルドの故郷にはウィリアム=エイムズとミレイ=……エイムズがいるはずだ」


 ちょ、え? ん?

 そういえばあの二人の姓って俺知らないわ。

 でもウィリアムもミレイもシエラ村には一人しかいない。


「薬師の二人ですよね。知り合いだったんですか」

「騎士科の先輩と初等部の同級生だね。ウィリアム先輩から直接指導を受けたことはないが」


 ああ、そういえばウィリアムさんは元騎士志望だったわ。

 っていうかレイナさんとレオナさんの時も思ったけど、世間って案外狭い。


「さあ、今は迷宮だ。どんな依頼を受けたんだい?」

「……えーと、ビッグラットの討伐ってやつです」

「意外だね。もっと難しいやつを受けていると思ったよ。いや、常時依頼か」


 確かにそれなら納得できる、とマルス先生が呟く。

 それを聞いて、俺もちょっと安心した。

 いやだって、ソースが野生児って。

 狩猟とか斥候以外では「本当か?」と思ってしまうのも仕方がないじゃん。


 そんなことを話しているうちに列は進み、先頭になっていた。

 以前のように組合証を見せて迷宮に足を踏み入れる。

 当然のようにマルス先生がついてくる。

 もう諦めましたよ。

 知り合い(の知り合い)ってわかると、俺って強く拒否できないわ。

 性分かね。




 魔術の理想は、最小限の魔力で最大限の効果を発揮することだ。

 これに対するアプローチは主に二つあって、一つは詠唱に使う魔法陣(ルーン)自体を改良することだ。


 たとえば火球(ファイアボール)の魔術。

 詠唱は『火よ、球となり我が手の元で姿を顕せ』になる。

 実はここで使われている『球』というのが曲者で、これだけだと大きさが決まらない。

 このままだと球の直径が注いだ魔力量によって変化することになり、毎回威力が変わる。

 戦闘に使おうとすると、オーバーキルだったり些細な火傷だったりするわけだ。


 一方で火炎弾(フレイムショット)の場合、詠唱は『火よ、その拳を以て敵を穿て』である。

 『球』の代わりに『拳』を使うことで、大きすぎず小さすぎず、と指定できるのだ。もちろん形はちょっといびつになるけど。

 普通に直径いくらと指定しないのは、詠唱に使う魔法陣(ルーン)が少ないほうが、すごく微妙な違いだけど必要な魔力を減らせるかららしい。

 セット割引みたいなもんだと思う。


 で、もう一つのアプローチは使い手の技量というやつだ。

 魔術とは物理現象を超越したものだから、本当ならありとあらゆる反作用が存在しない。

 だから火炎弾を撃っても手が逆方向にはじかれるようなことはないし、水球を作っても周囲の湿度は下がらない。

 さすがに密閉空間内で火を燃やしてもすぐには消えない、と知ったときは目を疑ったけど。どうも直接酸素を消費しているわけじゃないらしい。

 まあとにかく、ムダな何かが起きるというのは魔力を多く使っているか、ちょっと足りないかだ。


 もっと細かくなると、空中を漂う自由な魔力を有効に使えているかどうかという話になる。

 そこらへんを漂う魔力は誰の支配下にもないから、誰かが魔術を使えば勝手に反応するのだ。

 でも魔力過敏症でもなきゃ魔力は視えないし、視えている俺としてもうまいこと一緒に反応させるというのは難しいから気にしていない。

 ぶっちゃけ多すぎれば暴発するし、足りなすぎれば発動しないんだから、うまくいくだけ儲けもんだと割り切ったほうがいい。

 だってさあ……。


「ほっ」


 飛びかかってきた大鼠(ビッグラット)を横に避けて、すれ違いざまに針のように成形した岩石弾(ロックショット)で地面に縫い付ける。

 こんな風に毎回形を変えたりしている身としては、ルーンの改善とか術者の技量とかどうでもよくなってくるのだ。

 もはや行き当たりばったりのギャンブル。


 六匹いたラットのうち、四匹は遠距離で串刺しに、二匹は磔となった。

 後は前歯と皮を剥いで、さすがに肉は要らないので焼く。

 前歯は討伐証明部位というやつだけど、これだけでもちょっとした金属の加工に使えるらしい。

 結構ざらざらしているから、砥石みたいに使うんだろうか。あるいはヤスリ?


 作業の間、周囲の警戒はマルス先生に任せている。

 遠慮なんぞしてられるか。

 迷宮とは、大の男だって死ぬことのあるような危険な場所なのだから。

 といっても、こんな低い階層ならそこまで危なくもない、はず。


「手馴れているね」

「これでも猟師の息子なので」


 マルス先生はそう言うけど、血とかグロに慣れてるだけで、皮剥ぎ自体はまだまだ下手だったりする。

 この世界の生物は人を含めてやたら丈夫なので、途中で引き千切ったりはしないけど。まあそもそも俺にそんな力はない。

 でも討伐報酬だけじゃ心もとないから、少しでも多く稼ぐには皮が必要だ。

 本当だったら亡骸をそのまま持って帰ってプロにお任せするのがいいんだけど、荷車があるわけでもないし、任せたら任せたでお金取られるし。

 もう穴空いてるし、ミスを気にするだけムダか。


「次はどっちだい?」

「えーと、あっち──あ、いや」


 光苔とか魔法石の照明とかがあっても、やっぱり迷宮は暗いし、遠くまで見通すのは難しい。

 結局この眼の映す、魔力の光を頼りに索敵している状況だった。

 それでもマルス先生と比べればマシなので、斥候のマネごとも俺の役割だ。

 が、それ以前に。


「……む」

「マルス先生、この音は人ですよね」

「だろうね」


 暗闇の向こうから足音と、金属の擦れる音が聞こえてきた。

 足音だけならゴブリンの類いもあり得るけど、鎧と思われる金属音と一緒ならまず人だろう。

 父さんと一緒に行動すると、本当に必要最低限の接触しかしないからなあ。

 こうやって普通に迷宮を歩いていると、前回の戦闘の少なさがやばいとわかる。

 本当にゴブリンとアントとしか出会わなかったし、最強の斥候マジパネェ。

 まあとにかく、迷宮内で他人と出くわすのは初めてだ。


 足音は一つ一つの音を聞き取れるくらいには疎らで、恐らくは二人組だろう。

 そうアタリをつけるまでもなく、魔力過敏症を通して把握した輪郭から、大人と子供のセットだと判断できる。

 普通の目でも認識できる距離まで近づいたとき、


「団長ではないですか。ご無沙汰しています」


 マルス先生が最初に口を開いた。


「うん? ……マルスか。元気そうだな。ちゃんと教師をやれてるのか?」

「ええ。走ったりしない限りは問題ありません」


 どこか知り合いに似ているような似てないような、デジャヴ的な印象を受けるナイスミドルがそれに応じた。

 団長、か。

 まあ大体の目星はついている。

 団長の隣には、ユーリさんがいた。

 つまり、ソルデグランの騎士団だろう。


「団長。この子はバルドといいまして、私の担任するクラスの生徒です」

「バルド?」

「はい、この前少しお話したバルドです」


 なんか今よくわからない紹介のされ方をした気がする。

 この前とか言われても俺にはわかんねえっつーの。


「はじめまして。私はロバート=エイムズ。ソルデグラン騎士団団長であり、ユーリの父親だ」


 と言いながら、ロバート団長はユーリさんの頭をクシャクシャ撫でる。

 無抵抗のユーリさんとか新鮮だ。


 いや待て、いまこの人なんて名乗った?

 エイムズって言わなかったか?

 ついさっき聞いといて忘れるわけがない。

 ウィリアムさんと同じじゃねえか。


 確かによく見れば、似ていなくもない。

 ウィリアムさんから顔面の傷跡を取ればこんな感じになるな。

 多分親戚かなにかだろう。

 知り合い(の知り合い)二人目とか、世間狭すぎ。


「どうも。バルドです」

「先日の交流試合だったかな、娘の身代わりになってくれたと聞いている。身勝手な話だが、娘が傷つかずに済んだ。礼を言うよ」

「……は?」


 身代わりってなんだ。

 え、標的って俺だったんだよね?

 まさか真の標的はユーリさんで、俺はうっかり彼女の立ち位置に滑り込んじゃった不幸者、とかだったらマジで報われないぞ。


「ん?」

「ああ、団長。この子はあまり詳しい事情を知らないないんです。一応は一般人ですし」

「そうなのか。しかし、感謝だけでも伝えることができてよかった。ほらユーリも」


 嫌な可能性について吟味していると、ロバート団長はユーリさんの背を叩く。


「……」


 ユーリさんはなんとも不満そうな表情で頭を下げた。

 いや、俺としては覚えがないので感謝されても困るんだけど。

 どういたしましてって言っておけばいいのか。

 それはなんか恩着せがましくて嫌だな。


「ふむ……。二人とも、もしよかったらしばらく一緒に探索しないか?」


 と言ったのは、ロバート団長だった。


「ええー」


 今でも結構気をつかってるのに、さらに二人増えるとか。

 いくら知り合いでも、もう定員オーバーだと思うんだ。

 そういうのは前もって申請してください。飛び入り参加はノーサンキュー。

 とか思って、そう返事をすると。


「ちょっと相談させてください」


 そう言うマルス先生に首根っこを掴まれ、後ろに下がって緊急秘密会議が開催される。


「痛い、痛いです」

「予想はしていたがバルド、お前はどうしてそう……」


 そんな予想できちゃうほど迷惑をかけたつもりはないぞ。

 ……嫌そうな顔は何回もしてきたけど。


「騎士団団長と御近づきになれる機会なんだぞ」

「いや、別にならなくていいので」


 そりゃ大人の付き合いとしては、賛成しておくもんだということくらいわかってるけどさー。

 まだ子供なので、好き勝手させてください。


「それにだな、これは多分お前とユーリの仲を取り持とうとしてくれているんだぞ」

「騎士と魔術士が仲間とは限らないから大丈夫です。それより早く討伐数を稼ぎたいので、もうここからは別行動でいいですかいいですよね」

「待て待て待て」


 俺の頭をがっしり押さえて、マルス先生はエイムズ親子に向き直る。


「バルドは依頼で来てるので、それに沿う形であれば大丈夫です」


 あっ、ちょっ、大人って汚い。

 俺も精神年齢的には大人だけど。

 大人げない大人だったからオーケー。

 オーケーでもないか。


「そうか。こちらはユーリを魔物と戦わせるのが目的なんだが、問題はないかな?」

「ええ、ビッグラット相手になりますが」

「よし。決まりだ」


 とは言いますが、嫌そうな顔をしているのは何も俺だけじゃないんですよ。

 ほれ。


「ビッグラットなんて私一人でも倒せます。今はもっと強い魔物と戦いましょう?」


 ユーリさんは嫌がっている。

 どうも内容から察するに、ロバート団長にはあんまり余暇がないらしい。

 団長ってくらいだ。そう何日も続けて休めるわけじゃなかろう。

 その少ない日数を、俺なんかに付き合って潰したくない、と。


「ユーリ。たかがラットといえど経験しておくに越したことはない。集団で来られたとき、気が動転して食い殺されないためにもね」

「そう言うなら……」


 あ、退くの早えよ。

 どうせ俺の意見は聞き届けられないんだから、代わりに反対して欲しかった。

 というか俺の意思に沿った形、という名目になってるので反対のしようがない。


 こうして騎士三人と部外者一人の即席パーティーが組まれることになった。

 そこはかとないハブられ感が地味にきつい。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ