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魔法学の先生  作者: 市村
第二章 学園編 初等部
36/44

34. 夏休み

 

 人間、時間が経てば何事も気にしなくなるもんだ。

 一時はあんだけホームシックになったんだけどなあ。

 三日くらいで平気になってしまった。

 我ながら鈍感である。


 それに良いこと……良いこと? もあった。

 俺に対するクラスメイト達の視線が一気にやわらかくなったのだ。

 今のところ一つの子爵家が潰されたこととその理由は一般市民にも公表されているけれど、私刑(リンチ)の被害者は誰か、というところまでは知らされていない。

 ぶっちゃけそこまでは重要じゃなくて、あくまで「ルガード家は悪」というのが伝われば十分らしい。

 なので普通のクラスだったらそこまで。俺への接し方がどうこうとはならない。


 が、うちのクラスは貴族クラスなのだ。詳細を知らないわけがない。

 同情か憐憫か、あるいは「あいつも人の子だったのか」的な思考なのかはしらないけど、こう、雰囲気がよくなった。

 よくわからん警戒心とかこっちまで伝わってきてたのが、今では落ち着いたものである。

 ……俺以外の数少ない一般人生徒にはまだ避けられてますが何か?


 あとなぜかナタリー嬢は普通に話しかけてくるようになっちゃったけど。

 あれか。もう自分が話しかけても誰も気にしないだろうと踏んだのか。

 マジでそうだったから困る。

 完全なスルーではなさそうだけど、少なくとも敵意じゃないっぽい。


 で、しばらくすると様子見はやめたのか、他の貴族までこっちに来るようになった。

 といってもナタリー嬢目当てですけどね。

 ほら、あの子普段は侍女さんとしか喋らないから。

 お近づきになるチャンスだ、とか思ったんでしょう。


 でもけっこう頻繁に俺にも話を振ってくるという。

 そんなにナタリー嬢と話が弾まないなら諦めなさいよ。

 俺は通訳じゃないっつーの……。



 と。

 雰囲気だけは学生らしく、実態はなんとも貴族らしい深謀遠慮のとばっちりを受けつつ数ヶ月。

 季節は夏へと移り変わった。


「では、明日から夏期休暇になるわけだが、皆にはいくつか注意事項を伝えなくてはならない」


 マルス先生が教壇に立って説明を始める。

 いざ長期休暇と聞くと、なんかすごく長かった気がする。

 いや実際色々あったけど。貴族と決闘したり、貴族の策略に嵌って大怪我したりさ。

 あんなイベントはもうこりごりです。


「まず一つ。次に会うのは一月後だ。実家に戻る者はその日に遅れないよう来てくれ」


 俺の場合は遠いから、結構ギリギリになるんだよなあ。

 冬だと雪も降ってきちゃうから、夏以外に帰省できるタイミングないけどさ。

 なお、冬期休暇は二ヶ月間らしい。


「二つ。この休暇中に皆が何をしようと、基本的に学園は責任を取らない。そのことを踏まえて、節度ある行動を心がけること」


 前世で言うところの夏休みデビューですねわかります。

 で、髪を染めてきたアホが学年主任とか教頭とかから大目玉を食らう。

 はいはいテンプレ乙。


「そして三つめ。この中に休暇中、迷宮に潜ろうと思っている者はいるか?」


 ……ちょ、何それピンポイントすぎる。

 これは挙手する流れですか。

 と思って手を挙げようとしたら「ああ、手を挙げる必要はない」ですと。

 俺だけ手を挙げるところだったんじゃないかと思うと、なんかちょっと恥ずかしい。


「さっきも言ったが、学園は休暇中の出来事に責任を取らない。つまり迷宮で君たちの腕が折れても、足が千切れても、そして命を落としても、何もしない」


 これは、面と向かって言われるとなかなかきついな。

 でも普通に生きていても、日本と比べたら常に死と隣り合わせみたいなもんだ。

 それの一つ一つに保障なんてできるはずがない。

 学園の判断は残酷かもしれないけれど、間違っていない。


「君たちはまだ成人もしていない子供だが、迷宮というのは特に死と隣り合わせの場所だ。そこに自ら潜る以上は、子供であろうと自己責任となる。それを忘れないでくれ」


 少し脅すくらいの説明なのはやっぱり、学園の本音は「行くな」なんだろう。

 それでも行かなきゃならん人はいる。

 俺のように万年金欠のやつとかな。

 実家とか近くの店とかで雇ってもらえるならいいけど、世の中そう親切に満ちているわけでもないし、やっぱり選択肢からは外せない。


「次も全員でここに集まれることを祈っている。それでは解散だ」


 マルス先生がホームルームの終了を告げると、意外というか当然というか、教室から次々と生徒が出て行く。

 どこか軍人っぽくキビキビとしたイアンなんとか君は特に動きが早い。

 いや、別に彼を意識的に見ているわけじゃないんだけど、イアン君は出席番号一番、みたいな立場なのでよく目に入る。

 出席番号っていっても明らかに名前の順じゃないし、平民出身は後半に固まってるけどね。よくわからん。


 クラスで一番ぽっちゃりしているジェフリーなんとか君もなにげに目立つ。

 彼はなんというか、機敏に動こうとしたら机に膝ぶつけて、立ち上がろうとしたら椅子がうまく動かずによろけて、ちょっと恥ずかしかったのか周りをきょろきょろ伺っていた。

 ごめん俺見てたわ、と思ってたら目があった。

 気まずい。


 でも以前のように、目があったら怯えられるとか、逆に睨まれるとか、そういうことはない。

 ジェフリー君はきまりの悪そうに俯いたけど、すぐに顔を上げてニッコリと微笑んできた。

 なので俺も微笑みかえす。

 なんだこれ。


 そうこうしていると別の方向から視線を感じたので、とりあえず頷き、俺も教室を出る。

 向かうは闘技場だ。




「先生は何をして過ごす予定ですか?」

「えーと、ちょっと所用がありまして、出かけます」


 視線の主、ナタリー嬢は俺と同じくアリアス領の出身だ。

 しかし帰省を考えるには、向こうの領都アリアは遠い。

 いや、貴族御用達の馬車なら行って帰ってくらい出来るかも知れないけど。

 常識の範囲内で考えるなら、ここに残るのだろう。


 そもそもナタリー嬢がこちらの学園に通うことになった理由は、最近アリアス領内で多発する魔物被害から待避するためだ。

 今戻るとか、それじゃなんのためにこっちに来たのって話になってしまう。

 もしかしたらうちのシエラ村で出てきたミンクも、それの一つだったのかなー。

 ……いやいやわかってますよ? 一番の原因は俺の撒き餌だって。


 俺の返答を聞いて、ナタリー嬢はあからさまに残念そうな顔をした。

 ごめんねー、ずっと付きっきりでリハビリはしてあげられないんだー。 

 でもね。

 夏休みくらい好きにさせてつかあさい。


「先に言っておくと、一人で頑張っても良いですけど、魔力が枯渇するまで毎日やるのは控えて下さいね」

「……なぜですか?」

「毎日繰り返すべき訓練と、適度に休みを挟むべき訓練の二つがあるんです」


 っていうか、釘を刺しておかなかったら毎日頑張るつもりだったのか?

 令嬢に訓練を強要させた張本人になるとか、俺やだよ。


「先生がそう仰るのなら……」

「後は、流石にないとは思いますけど必ず誰かを伴って下さいね。万が一ってこともありますから」

「わかってます」


 この子本当にわかってんのかなー。

 と思いつつも言葉には出さず、訓練を続ける。


 彼女の自己申請では、以前と比べたら随分マシとわかるくらいには改善したらしい。

 まだ表情を見たりはできないというけど、髪の長さとか服装とか、そういう特徴で誰が誰なのかは分かるようになったとか。

 つまり過敏症特有の眩しさが緩和された、ということだ。


 最初は目を開けることすら嫌がっていたのだから、間違いなく進歩している。

 日常的に物を見られるようになれば、練習の機会も増えるわけだから、さらに改善へと向かうだろう。

 そんなことを考えながら、夏休みの前日は暮れていった。




 で、翌日。

 俺は今、迷宮都市フセットへ向かう途中の馬車の中。

 ちなみにルームメイトのハリーは別方向の馬車に乗って揺られているだろう。

 ハリーは帰郷組だった。


 俺も帰郷するかどうか、それはもう悩んだのだ。

 しかし、決め手となったのは個人的な感情ではない。

 レイナさんの一言だった。


 俺は基本的に、休日は冒険者組合(ギルド)で小銭を稼ぐことにしている。

 そんなある日、カウンター席で暇そうにしていたレイナさんが、俺を呼んだのだ。


「あー、ちょっと」

「なんですか?」

「あんたさ」


 美人を台無しにするかのように、頭をがりがりと掻いて、一言。


「今年分の年会費、ある?」


 …………。

 交流試合の慰謝料、銀貨五枚。

 実家へのお土産として買った魔法陣入り鍋、銀貨一枚と銅貨十枚。

 今後の休日の昼食用に買った堅パン十数個、銀貨二枚と銅貨十枚。

 非常食として買った干し肉、銀貨一枚。

 空腹を感じない毎日、プライスレス。

 お金じゃ買えない価値がある。

 買えるものは、以下略。


 青天の霹靂だった。

 まさか銀貨五枚がこれの伏線だったとは思わなかった。

 いや伏線っていうか、単純に俺のミスである。

 年会費なんてすっかり忘れてたよ。

 レイナさんがあと一、二ヶ月早く教えてくれていれば……。


「まあ予想はしてたわ。はいこれ」


 といって、一枚の羊皮紙を渡してくるレイナさん。

 予想してたならなおさら早く注意してほしかった。

 まあ、普通のペースじゃ注意の甲斐もなかっただろう。

 そのくらい薄給の依頼しかソルデグランには存在しない。

 何一つ買わずに貯めていればあるいは、ってくらいだ。


「これは?」

「あんたの今までの成績、みたいなものね」

「どうしろと?」


 読んでみると、俺の個人情報や登録した支部名といった基本情報に、今まで受けた依頼のランクや数、組合からの評価みたいな説明文が書かれている。

 依頼の履歴にはFしかない。

 しょぼい……。


「あんたがいくら頑張っても、ここの支部じゃ年会費貯められないでしょ。どうせフセットまで行くんだろうからそれも持ってって。年会費も向こうで払えるように手続きしときなさい」


 つまり、住民票を移しちゃいなさい、ってことか。

 こっちの世界は一部の例外を除いて、情報の伝達速度が遅い。

 もちろん某勧善懲悪伯爵のように早馬などを出すなら別だけど、電話やメールがあるわけでもない。

 ランクの低い組合員の情報なんて、支部同士で共有したりはしないのだ。

 だから年会費の支払いとか、適正ランクの精査などは登録した支部で行う。


 しかし今回のように、それでは不都合が生じる場合もあるわけで。

 たとえば、きっかけとなった年会費。

 本来なら組合は銀行のような役割も兼任していて、年会費も預金してある金額から自動的に引かれる。

 そうでなければうちの父さんも、毎年のように組合を訪れなくてはいけなくなるだろう。

 ただ、薄給依頼ばかりのソルデグランでは年会費を稼ぐのも一苦労だ。当然、預金できるほど金が貯まらない。

 仮に「○○支部に預けてある」と言っても、支部間で情報共有できていないのだから裏付けなど取れない。


 他にも、ランクを上げるためには組合から信用されなければならない。

 たとえばEランクの依頼を十回完遂してDランクに上がれると仮定しても、十箇所の支部で一回ずつでは意味がない。

 これも記録が共有されていないせいで、信用が積み重ならないからだ。

 こういった不具合を解消するために、冒険者が拠点を変えるときは今までの履歴も一緒に移動させるのだ。


「普通こういうのって、改竄されないように専門の業者雇いません?」

「あら。あんた改竄しちゃうの?」


 非難するような内容なのに、レイナさんの口調には真面目さが足りない。

 その目も口も、明らかに笑っていた。

 からかわれている。


「……しませんよ」


 レイナさんはヒョイと履歴書を奪い取り、蝋っぽいもので封をして改めて俺に渡した。ちょっと熱い。

 蝋の表面には冒険者組合の紋章が捺してあった。

 流石にそのまま渡すようなことはないようだ。


 まあ、そういう理由があって、今年は村へ帰るに帰れないことが決まったのだった。

 せっかく買ったお土産は来年へ持越しである。




「で、えーと」


 フセットに到着した後さっさと雑魚寝宿を確保したので、もうちょっとだけ行動する。

 夏場だから、まだ日は沈んでないし。

 ちなみに、移動費はソルデグランでチマチマ貯めた金で賄った。

 銀貨二枚ほど残しておいて本当に良かった。それでも組合の年会費には足りなかったわけだけど。

 父さんから渡された金貨二枚はまだ手をつけていないし、つけるつもりもない。


 今できること、といったら。

 履歴書っぽい物をもう届けてしまうか。

 あーいやいや、冒険者組合はいわゆる二十四時間営業、というやつのはずだ。

 迷宮からいつ戻ってくるか分からない人が多いからね。

 先に、親方の店に行こう。


「いらっしゃーい」

「どーも」

「おお、君か!」


 こっそり道に迷いかけたのは秘密として、なんとか暗くなる前にあのドワーフの工房に辿り着いた。

 もちろん防具を受け取るためだ。

 前回店番をしていた彼は、今日も店番をしていた。

 どうやら覚えていてくれたらしい。


「防具、出来てますか?」

「もちろん。少し時間あるかい?」

「まあ、少しなら」


 俺の返事を聞くと、店番の彼は奥へ下がっていった。

 そういえば、金槌の音は聞こえないな。

 あれそれ嫌な予感がするんだけど。


 ややあって彼が親方と一緒に戻って来た。

 ひいー、怒鳴らないでください。

 と思ったら今日は聞きに徹するつもりらしい。

 その割に、視線をびしびし感じる。

 本当に黙ってるとは思えない存在感だよ不思議!


 それはそうと、店番の彼の手には俺用の防具であるはずの籠手。

 確か前回のうちに寸法は測っておいたと思うんだけど……。

 実際に着けてみると、やっぱり。


「なんか大きくないですか」

「どうせすぐに大きくなるだろうが」


 親方の第一声だ。結局喋るんかい。

 監修は親方なんですねわかります。

 いやでも肘曲げにくいよこれ。

 戦闘は魔術主体だから、ちょっとくらいはいいけど。

 いややっぱり曲げにくい。

 でも怖くて言えない。


「……ちょっと重くないですか」

「どうせすぐに力もつくだろ」


 ええええええええ。

 なにそれ斬新。

 いやいや良くない、良くないよ。

 ここで買った剣は今でも重いっつーの。


 やっぱり親方がドワーフだからだろうか。

 ドワーフとかノームってのは筋肉ムキムキだから、多分人族にとっての「重い」が「まだ軽い」とかって感じるんだと思う。

 店番の青年よ、君は確実に毒されている!

 でも怖くて言えない。

 あれ? なんかこれ圧迫面接的な何かを感じる。

 まあ、もらえる物は素直にもらっておきます。


「もしかしてうちの父さんまだこっちにいたりします?」

「うーん、最後に来たのは結構前だったし、すぐ帰省するって言ってたかな」


 ついでとばかりに聞いてみたけど、やっぱり最強の斥候召喚は無理らしい。

 そう上手くはいかないっすよねー。




 でもこの籠手、確かに丈夫なんだとは思う。

 一言で言えば鉄板を曲げただけ、というシンプルな形状ではあるけど、波打つように曲げてある。

 段ボールが紙のクセにやたら丈夫なのと同じような構造だろう。

 でも普通は、軽さと強度を両立させるための工夫だと思うんですがね。

 そのままでも十分な厚さの鉄板でそれをやってるあたりがドワーフクオリティ。


 そんなことを思いつつ、冒険者組合の中に入る。

 久しぶりにやってきたフセットの冒険者組合は、ソルデグランとは熱気が違った。

 もう結構暗くなってきたんだけど、むしろ暑さが和らぐからか、意外と人は多い。

 まあ迷宮は地下にあるので、夏も冬もそれほど気温が変わらないとは思うけど。

 心なしか学園生くらいの年齢に見える人が多いような気がするのは、俺みたいな人が他にもいるんだろうか。


 確か、履歴書の手続きはそれ用の受付があるはず。

 普通なら「どこどこ支部の誰々だけど、向こうから連絡来てませんか?」的なことを言って取り次いでもらうらしい。

 俺は普通じゃないので直接履歴書を手渡すけど。

 登録者が減る一方のソルデグランでは案内板すら出ていないが、その逆のフセットならあるとレイナさんは言っていた。

 どこだ。


 ってあれか。

 さすがに専用というわけじゃなく、新規登録の受付と一緒になっている。

 確かに、いつ来るかわからない人のために人を余らせる意味もないか。

 それでも他の受付と比べてかなり空いている。

 ラッキーだね。


 ほんの数人しか並んでいない列は、あっという間に消化された。

 俺の番になり、俺は履歴書を受付に渡す。

 と同時に、なんか既視感があった。

 受け取った受付嬢が話し始める。


「ようこそ。新規登録でしょうか?」


 いやいや、ちょっと待って。

 履歴書渡したじゃん。

 確かにマニュアルは大切だけどさあ。


 受付嬢は、知り合いにとてもよく似ていた。

 向こうと比べれば、ずっと真面目そうではある。

 でも、えーと、残念美人というのは代々受け継がれるのかね。


「あれっ? これって」


 黄色っぽい髪の持ち主は、俺が何を手渡したのかやっと気づいたようだ。

 まあ確かに、履歴書なんて普通は本人が運んだりしないけど。

 そしてやたら美人の女性は、やっぱり予想通りの人だった。


「あなた、お母……じゃない、ソルデグランから来たの?」


 この人、レイナさんの娘さんだね。




「ちょっと待っててね……あ、わたしはレオナって言います。レイナの娘です」

「どーもご親切に。俺はバルドです。レイナさんにはお世話になったような気がします」


 後ろにいる別の職員に履歴書を渡したレオナさんは自己紹介を始めた。

 共通の知人がいるだけで、人はそこそこ仲良くなれる。

 前世では大学に入ってからよく実感したもんだ。

 サークルの友人の友人、という繋がりで別の学部や学科の人と話したことも一度や二度じゃない。

 結局その場限りの知り合いみたいになるのは、……俺のトークスキルの問題として。


 レオナさんは「気がします……?」といったん首を傾げて、でも気にしないことにしたようだ。

 それがいいと思います。

 俺も真正面から「実際にはそんなにお世話になってません。社交辞令です」とは言いたくない。


 母親の知り合いは久しぶりなのか、レオナさんは嬉しそうに質問をしてくる。

 この様子だと、うちの野生児とは出会わなかったらしい。

 答えられる範囲で返答していると、どうも他の受付に並んでいた冒険者達から視線を感じた。


 チラ、と確認する

 めっちゃ睨まれとる。

 うちのクラスメイトとは全く違う、おっさん達の視線だ。

 日常的に魔物を殺しているだけあって、威圧感が半端じゃない。


 そういえば前回ここに来たとき、一つだけやたらと人気のある受付があったな。

 理由を聞いたら『……受付が美人だからよ?』なんて言われたっけ。

 おそらくこのレオナさんが担当していた窓口だったんだろう。ローテーションがあるのか、今はこうして違う窓口にいるけど。

 あの時はおかげで並ばずに済んだけど、今回はトラップに引っかかったような気分だ。

 しかし、もうすぐこの圧迫感ともおさらばだ。


「……レオナ、大丈夫だった」

「はい、わかりました!」


 マニュアル受付嬢はどこへやら、生き生きとした受け答えだ。

 後ろからやって来た別の職員がしていたのは、細々としたチェック。

 一応、犯罪者や要注意人物の名簿なんかと照らし合わせていたりもするらしい。

 それが終わり、問題ないことが確認されたというわけだ。


「はい、これで手続きは完了です! じゃあ気をつけてね!」


 気をつけてね! って、今日はもう休むんですが。

 ああ、手を振らないで。ニコニコしないで。

 おっさんアイズが横から突き刺さる。

 子供相手にも容赦しないおっさん達から逃げるように、俺は組合を出て宿屋へ向かった。

 

 前回「くどい」と散々言われたので、ちょっとサクサク進めてみました。

 今回はこの話を含めて四話+幕間です。

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