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魔法学の先生  作者: 市村
第一章 幼少編
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18. 忍ぶ者

 アイエエエエ!

 

 シックルミンク。

 つまりは鎌鼬(カマイタチ)

 イタチ的な動物が長生きするか、魔力を溜め込むことで突然変異して発生する。

 魔物の八割ほどが迷宮内部に住んでいるとされる現代において、珍しく、かつ厄介な、山野に現れる魔物である。

 見た目もイタチが元になっているだけあって、スライムとかゴブリンとかの魔物と比べると判別しづらい。

 そのせいで多くの民間人が油断から重傷を負い、運が悪いと死ぬこともあった。

 猟師の敵みたいなやつだ。


 風を使った魔術を行使することもあり、対魔物のエキスパートである冒険者であっても予備知識もなく戦うことは避けた方がいい。

 といっても元々はただのイタチなので、事前準備さえ整っていればソロの冒険者でも倒せるとか、そのレベルだ。しいていうなら素早さに気をつけるくらいか。

 ほとんどが重傷止まりで即死しないあたりがわかりやすい。


 現在、うちの村で冒険者組合(ギルド)に所属しているのは父さん(トーマス)のみで、それ以外にソロで戦えそうなのは地味に騎士を目指していたとかいうウィリアムさんのみ。

 それ以外はあくまで猟師であり、魔物を相手にするには荷が重い。

 最低でも三人がかりになるだろう。



 二歩進むごとに三歩下がっていそうな話し合いは、最終的には村の中だけで対応することに決まった。

 冒険者を呼んでも内々の処理でもデメリットはあるし、実際のところどちらが最終決定になってもおかしくはなかった。

 今回の場合は「呼ぶにしても一ヶ月はかかる」というのが一番の不安材料だったらしく、ミンクがその間に村までやってこないという保証がどこにもないのが効いたらしい。

 だったら時間がかかっても村唯一の冒険者、父さんの指揮の下で継続的に狩っていった方が村の被害を減らせると考えたようだ。

 どちらにせよ、雪が降り始めればミンクも動けなくなる。

 時間さえ稼げるなら外から冒険者を呼ぶのは冬が明けてからでもいいだろう、と話はまとまった。

 ……『野生児』にまかせても大丈夫なのかよ、と思わなくもないが。


 そんなわけで、村の男衆の中でも猟師の経験がある者だけを選抜して緊急対策(チーム)が組まれた。

 それ以外の男は村の警備を、女子供はお留守番。


 でしょう?

 普通は。


 生憎と父さん(野生児)共々「普通じゃない」認定されてしまった俺は、引き続き斥候として対策チームに籍を置くことになった。

 六才児に背負わせる責任を逸脱しているのは大人達も重々承知らしい。

 らしいが、実績のある人間というものはどうにも扱いやすいようで。

 つまり俺は、保身に走る一部の大人達に利用されたわけだ。


 いや、そんな言い方をするとまるで(けが)らわしい権力争いみたいに聞こえるな。

 そこまで酷いものじゃない。

 一部の大人といっても、その人たちもまた猟師の経験者であり、自身も命を張って戦う立場なのだ。

 そう考えると藁にもすがる思いで実績ある人間を雇用したに過ぎない。

 でも相手は六才児だよ、っていうと話が堂々巡りになるので言わない。

 精神年齢は大人の身からすると、同じ大人としてちょっと残念かなって気もするけどね。


 ただ、そこまでさせようとするならウチの一家の権限をちょっと強めてほしい。

 猟師として類い稀なる才能を発揮している父さんでさえも、実は村の中での地位は驚くほど低い。


 自己主張をしないから?

 頭は良くないから?

 本人も今の状態でいいと思っているから?


 そんなわけないよなー。

 少なくとも村で一、二を争うあのボロい家くらい、建てかえてくれたっていいと思う。

 配給される食料だって、力を発揮する分多めにくれてもいいんじゃないかな。

 決して俺がたくさん食べたいから、とかではなく。でーはーなーくー。

 俺も一応はちゃんと働いているわけだしさ。


 まあ、今回に限ってはそんなことを言える立場ではない。

 魔物が出た原因は、十中八九俺に集約する。

 誰かに相談したわけじゃないが、ほぼ確定だろう。

 村を混乱に(おとしい)れた分際(ぶんざい)で何を、って話だ。


 まあ、俺のもやもやした気持ちも話し合いが終わる頃にはだいぶ晴れた。

 父さんは最後まで反対してくれていたし、村長(キースの父)も心苦しい表情をしていた。

 俺も家族を守りたいし。

 なによりも騒動の黒幕として、ここで退いちゃダメだろ。

 うわあ、黒幕っていうと悪役にしか感じない。


 もちろん俺だって死にたくはない。

 大人相手で重傷なら、子供の俺は即死したっておかしくないはずだ。

 が、父さんの説得もあって、俺は必ず父さんと行動を共にすることが決まった。

 村の誰よりも強い父さんが後ろに控えているなら、安心してもいいだろう。




 その日から、畑の収穫作業が夜を徹して行われた。

 不幸中の幸いか、今年の野菜は俺の魔力によって生長が早まっていた。

 だからこそ収穫に踏み切れたともいえる。

 野菜の種類にもよるが、本来ならまだ様子を見ているような時期だ。


 流石に夜更かしさせるつもりはないのか、俺はそれには不参加だった。

 討伐中は一緒に行動するはずの父さんが収穫の手伝いをしていたのもあるし、母さんも手伝いに行ってしまったので、テレサのお守りを俺がしなければならなかったのもある。

 俺とキース達が起こしたあの事件を経験として知らないテレサはかなりおてんばに育ってしまったが、村の雰囲気を感じ取ったのか、予想よりもずいぶん大人しかった。

 今日の昼過ぎに収穫が終わり、母さんが帰ってきてからは元気になっていたが。


 だから、今夜は久しぶりに家族全員がそろって床についた。

 暗闇の中で父さんのいびきが聞こえ、その反対からは母さんとテレサの静かな寝息が聞こえる。

 男衆の何人かが村の周辺を見回りしているので、時々窓のすきまから僅かな光が入ってくる。


 明日からは本格的に山へ入り、ミンクを狩る日々が続くことになるだろう。

 こんな状況になってまで魔力量の底上げを図ろうとは思わないので、必要な分以外の魔術は控えている。

 おかげで今も全身に活力が(みなぎ)っているのがわかる。

 眠い、が、眠れない。

 不思議な気分だった。

 

 タイトルの正しいカイシャクは某NINJAマンガの「(堪え)忍ぶ者」の方です。

 でもヘッズはやりたかった。後悔はしていない。


 次回、やや超展開ぎみ。

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